第1話『妖刀使いと魔族の姫』
「ご苦労だったエイル、キミのおかげで俺たちの呪いは完全に消え去った。もう用済みだから、いなくなって構わないよ」
にぎやかな街の路地裏で、妖刀使いのエイルは、リーダーのホプキンスにそう言い渡された。
彼がパーティに加入して、たった五分後のことである。
「消え去ったってどういうことだ。俺がホプキンスさんたちの呪いを肩代わりしたんじゃないか」
自分を見下すパーティメンバーに、エイルは体を震わせる。
取り乱す彼を見たホプキンスと格闘家のババ、女暗殺者のミザリーは、笑いをこらえきれずに噴きだす。
「ああそうだな。おかげでお前みたいな劣等職が役に立てたんだ」
「そうよ、本当なら話しているのだってイヤなんだから」
ババの言うとおり〝妖刀使い〟は劣等職だ。
妖刀に気に入られてしまうことにより、バッドステータスを発生させる『呪い』を引き寄せる体質になってしまい、しかも自分の意思ではジョブチェンジすらできない最悪の職である。
こんな職に、エイルも自らなったワケではない。
幼少時代、悪漢に命を奪われそうになったところを、突然空から落ちてきた妖刀『ヌエ』で撃退してしまってから、ずっと妖刀使いのままである。
人々は劣等職の彼を『不幸を招く』と避ける日々。
そんな彼をはじめて勧誘をしたのが、ホプキンスだった。
全員がそれぞれ別の呪いを受けていた三人から、エイルがそれらを請け負う代わりに、彼をアタッカーにして他メンバーがサポートする。
それがホプキンスたちの約束だった。
「まさかここまで上手くいくとはね。おかげで肩が軽いよ」
しかし結果はこのとおり、彼等は呪いを押し付けるだけ。
約束を守る気など、ホプキンスたちには無かったのである。
「人を騙して、卑怯だとは思わないのか……?」
「知っているかな? 卑怯という言葉は、弱いヤツしか使わない言葉なんだ。キミみたいな使いようのないザコにはお似合いだね」
エイルの問いに、ホプキンスが小バカにするように答えてみせる。
その瞬間、ミザリーがエイルに煙幕を放った。
「待て!」
腰の『ヌエ』を抜き、煙幕を払うエイル。
だが薄暗い路地に、三人の姿はもう無かった。
そこへ追い打ちをかけるように、エイルの全身に激痛が走る。
「アイツ等の呪いか……」
地面に倒れたエイルは、手の甲をかかげてステータスを開く。
そこには彼が三人から背負わされたバッドステータスが、説明付きで表示される。
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『衰弱:永続的に体力を減らし続け、まれにダメージを与える』
『別離:探している人物と出会えなくなる』
『迷い:場所の感覚が無くなり、自分のいる場所がわからなくなる』
――――――――
エイルはいま、『衰弱』によりホプキンスたちを探す体力を失い、『別離』が三人の逃走を手助けしてしまっている。
さらに『迷い』の効果で、少しずつ方向感覚が失われていく。
自分の詰みを察したエイルは、路地の壁に背を預ける。
そして建物の影からのぞく青空を、死んだ目で見上げた。
そんな彼の顔を、桃色の髪の少女がのぞき込む。
「あの、大丈夫ですか? 顔色がよろしくありませんが」
可愛らしいドレスを着て、なぜか息切れする小さな美少女。
消えかけていた意識を取り戻したエイルは、彼女に驚く。
「あ、ああ……」
「良かった……私の声、聞こえるのですね」
うわ言のように出した声に、優しく微笑む少女。
すると彼女は何かを思いだし、ドレスの胸元を広げる。
「少し待っていてください、確かここに」
低身長で幼い容姿をしているが、その割に胸は大きく育った谷間に指を入れ、彼女は小さな青い瓶をエイルへ手渡す。
「ポーションです。人肌でぬるくなってしまっていますが」
ぬくもりのある瓶を受け取り、エイルは無意識に飲み干す。
とたんに体力は回復し、元気をとり戻した彼は立ち上がって頭を下げる。
「ありがとうございます」
「いえいえ、困ったときは助け合いですから」
感謝するエイルに、嫌味なく返す少女。
彼が顔を上げて少女を見ると、今度は彼女がお辞儀をして告げる。
「私の名前はマシェリ・アムール・アークと申します。ご存じでしょうか?」
少女の名前を聞き、エイルは言葉を失った。
その名は、彼等のいる国の隣にある魔族の国『アークス』の王女と、全く同じ名前だったのだ。
しばらく唖然とするエイルに、マシェリは首をかしげる。
「どうされましたか?」
「いや、少し驚いてしまって。俺の名前はエイル・エスパーダです」
「エイル様ですか。美しい名前ですね」
名前を聞いて目を細め、口元の笑みを絶やさない少女。
劣等職の妖刀使いと『反転』スキルの姫は、こうして出会った。
――そしてこの出会いがエイルの不幸な運命を大きく変え、ホプキンスたちがどん底まで落ちる理由になるなど、今は誰も知らなかった。
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