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入籍

 入籍は出来る限り人目につかないように実行した。


 市庁の執務室で立会人をつけての書類記入と、簡単な誓いを言い合うだけの式である。教会でなくこちらの方法にしたのは、将来ティナに好きな男性が出来た時の為である。秘密の結婚であれば、俺とティナが離婚してもそれほど世界が変わりはしないだろう。


 変わるのは俺だけだ。


 しかし、好きな女性を腕にぶら下げ、結婚の祝福を受けて彼女にキスは出来た。

 俺自身を押さえるのに苦労はしたが。

 彼女のふっくらとした唇に自分の分厚く硬い唇を重ねる何て行為は、俺の内面の性欲どころかまさに下半身を恐ろしいぐらいに興奮させたのである。


 そしてティナは夢見る少女らしく、契約結婚でありながら衣装にかなりのこだわりを見せていた。

 袖口や裾に水色リボンのトリミングがある真っ白の総レースのワンピースは、ウエディングドレスを想像させながらもそれよりも俺の胸にグッとくる可愛らしさで、このまま抱き上げてベッドに運びたいと思わせる危険な服であった。


「汝、夫になったばかりの助平よ、独り身の俺はこれから一日傷心の旅に出る。妹は初めてらしいしな、上手くやってやれよ。」


「ジュリアン。君を殴ろうか。それよりもね、いいよ、どこにも行かなくて。家族でお祝いってするものじゃないのか?」


「君の家族は結婚でティナ一人になったんだ。俺は君の親友。あ、そうだ。親友のキスって項目があったね。」


「え?」


 俺はぐいっとジュリアンに抱き寄せられると、ジュリアンの唇を自分の唇に受ける事になった。

 ジュリアンの抱き寄せ方が俺のバランスを崩す絶妙さで、俺は倒れそうだとジュリアンの背に両腕を回して彼にしがみ付いた。


 うわ!

 冗談にしては手が込んでいる。


 彼は俺の口に舌まで入れて来たが、遊び人ジュリアンらしく、俺の腰がぞわっと来るぐらいい上手いキスなのである。

 俺には女性に出来そうもないような、本気で官能的で上手いキスだった。


「君は酷い男だな。これ以上のキスを俺が出来ないと知っていて。」


「マジで?君が童貞だった六年で俺達には実力差が出来たようだ。」


「ふざけろよ。放せ。」


 俺はジュリアンを押しのけて身を立て直したのだが、スーツを整えたところで花嫁と目が合った。

 花嫁は、なんというか、ぴよぴよと小鳥が頭の周りを飛んでいるような様子になっていた。


「ええと、ティナ?」


「どうして、ジュリアンとキスしているの?」


「え?結婚式は新郎の親友が花嫁にキスするものなんだよ。お前は俺とキスがしたいのか?兄妹だぞ。」


 ティナはぼんやりとしながらも、わかったという風に頭を上下させた。


「だろ。だから俺がキスできるのは、ダンだけなんだ。これは儀礼上のものなんだから、なあ、気にするな。そして、ダンはキスが下手だからな、お前が練習台になってやれ。」


 おい!ティナがやっぱり、それも高速で頭を上下させているぞ!

 俺は彼女を汚さないようにこれから自分を戒めて行かねばいけないのに!


「ジュリアン、ふざけるな!ほら、ティナおいで。兄という名前の悪魔の囁きは聞いちゃいけないよ。」


「ひどいなあ、ダンは。じゃあ、邪魔者の俺は姿を消すよ。」


 ジュリアンは俺の肩を叩くと本気で執務室を出て行った。

 俺は彼の後ろ姿を見送りながら、彼からまだ婚約者の紹介を受けていないと思い当たっていた。

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