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兄怒る

「認めません!なんですか!二人が結婚って!いつの間にそんなふしだらな事に!」


 爛れた生活実行中の兄が怒るとは思わなかった。


「でもジュリアン。ダンは生活が乱れていないし、家事だって協力してくれる素晴らしい人よ!結婚相手と考えたら最高の男性でしょう。」


「それは最高の男性と言わない!最高の家政夫と呼ぶんだ!」


「では、お兄様。最高の男性の定義をお願いします!」


 兄は右手を格好よく、いかにも軍人のようにして挙げると、士官学校時代の訓示を読んだ時のようにして最高の男性の定義を言い始めた。

 ちなみに、兄とダンは酒を飲むと士官学校時代の変な戒律をそらんじ始めるので、今の兄はその酔っぱらって芝居がかった風にして戒律を叫んだ時のようだとも言える。


「ひとーつ、精神性の高さ!」


「ダンの精神性はジュリアンの上じゃない。」


 兄はぎりっと奥歯を噛んだ。


「ふたーつ、心身ともに健康であり、俺が認めるぐらいに外見の良い男!」


「わたし、ダンは凄くカッコイイ人だと思う。」


「俺もそこは認める。」


「ぐふっ。」


 ダンは私達から顔を背けて二つ折りになっていて、なんと肩を小刻みに震わせている。

 彼は見つめる私達に、ストップという風に右の手の平を見せた。


「こっちむけ、ティナ。みーつ、いいか、話題豊富で頭の良い男にしろ。無口でもいいがな、コミュニケーションが取れない相手は問題だろ?」


「そういうジュリアンこそダンと一緒の時が一番楽しそうよ。私もダンは話しやすくて大好き。」


「当り前だ!ダンは士官学校時代も今も、結婚したい男ナンバーワンだぞ!」


 士官学校は男性しかいなかったじゃないかと言い返そうとして、軍隊内で結婚したい男ナンバーワンならば既に最高の男でいいのではと気が付いた。

 あ、兄も自分の言動に気が付いたのか、顔を真っ赤にしている。


「ちょっと、待て、今のなし!今のぜんぜん雑談。じゃあ、四つ目。エッチが上手。」


「そこは分からない。兄様としては?」


「どうして俺がダンの具合を知っているんだ。覗く趣味は無いぞ。」


 兄とダンはそういう関係じゃ無かったと少しほっとして、でも、精神的に抱いている恋愛感情こそ揺るがないものかもしれないとぼんやりと考えた。

 だって私のしつこいくらいの初恋は、ダンに手を繋がれて家を出た時から変わっていないもの。

 士官学校の制服姿の彼は、それはもう、一生忘れない程に格好良い姿だったのである。


「で、お前はどうなんだよ。他の奴とはやったのか?」


「はひ?」


「だからさ。初体験は済ませたのか?」


「ぶはっ。」


 私と兄は同時にダンへと振り返り、ダンがかなり咽ているということを確認した。


「ダン!大丈夫!」


 私は椅子から立ち上がって彼のもとに行き、彼の大きな背中に手を伸ばした。


「ほら、何やってんの。ちょっと叩くぞ。」


 私が触れる前にダンを抱えたのは兄であり、兄は自分にダンが被さるような態勢にさせて背中をバシバシと叩き始めた。

 私はその光景を見つめながら、今思いついた五つ目の定義を勝手に口にしていた。


「よそ見をしないで初志貫徹が出来る人。」


 兄とダンはピタリとそこで動きを止め、私に同時に振り返った。

 そして、兄は顔を歪めると、なぜか「いいだろう。」なんて言い放った。


「え?」


「いいよ、認める。先に入籍して、俺が結婚するまで二人がここに住むのが条件だ。」


「げほ、おい、ジュリアン。その条件は君だけ有利じゃないか?結婚前に家事ぐらい覚えなさいよ。」


「ダン、俺はお前がいないと駄目そうよ?いいの?」


 兄は言うやダンをぎゅうっと抱きしめ、ダンはそんな兄の背中を軽くバシッと叩いた。

 仲の良い親友な二人。

 私はテーブルの上のディナーナイフで兄を刺す想像をしてしまった。

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