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二人きりでも

 俺は涙を零していたティナに驚いていた。


 あんなにも幸せそうな寝顔をして俺を惑わしたぐらいの彼女が、どうして目覚めた途端に悲しそうに涙を零しているのだろう?


 慌てるようにしてベッドに座り右腕を巻き付けて彼女を胸に抱き寄せたが、ティナは俺にしがみ付くどころか俺にごめんなさいと謝って来たのである。


「シーツを汚しちゃったから?」


 あ、胸を叩かれた。

 それでも彼女に少しは元気があることが嬉しくて、俺は彼女にもう一本の腕を絡めて両手で彼女を抱き締め、彼女の頭に頬ずりをした。


「夫婦でしょう。悩み事は話して欲しい。それがどんな馬鹿な事でも、ささやかな事でも、相談してくれるって事こそが嬉しい。君はそうじゃないかな?」


「あなたって本当に良い人ね。」


 それは別れ話をするときの女性の言葉だと、俺は何でも話して欲しいと言った自分を今すぐに抹殺してやりたい気持ちに陥った。

 いや、別れ話をされればそのまま俺自身が死ねるのだからいいか。


「あなたが大好き。あなたを一番に幸せにしたい。でも、考えたの。もしも私が子供を産めない人だったら、あなたが別の人と幸せになるために別れなければいけないかもって。そんなの、ずっと先の話でしょうに、せめて、三年以上は先の話でしょうに、わた、わたしは。」


 唇を震わせながら語る内容は、ティナがこれ以上ないぐらいに俺を愛していて、そして、これ以上ないぐらいに考える必要もない馬鹿な妄想に捕らわれているという事を俺に教えてくれた。

 ティナとの子供と考えたせいで、ジュリアンによく似た男の子が騒いでいる様や俺によく似すぎて頭を抱えたくなる女の子のイメージも湧いたが、そんな彼らがいない二人だけの世界もそこで想像した。


 俺達二人だけ。

 白髪頭になった俺達二人だけだ。


「本当に馬鹿な話だね。でも、話してくれてうれしい。俺は君の言葉で想像したよ。二人だけの世界。白髪頭の俺達がぶつぶつ言いながら部屋の掃除をしているんだ。老人ホームの二人部屋で。」


「あの、それは素晴らしいけど、あの、そうじゃなくて。」


「君が言いたかったことはわかるよ。でもね、俺は君と生きたいんだ。君という女の子を抱きたいし、君を抱く行為は生殖行為じゃなくて、単なる、いや、単なるではないか。俺は凄く助平な気持ちばかりだし。うん、俺と君とは愛情から来る性欲による性欲目的の行為だと思う。君を抱きたい、それのみだよ。だからさ、子供が出来る出来ないは、うん、俺には問題じゃない。俺だけを可愛がってくれなくなるなら、逆に子供はいらない、そう思うよ。」


 ティナはぷーと吹き出した。

 くすくすと俺の腕の中で笑い転げ、でも、顔を上げない所を見るときっと泣いてもいるのだろう。

 一人で勝手に悩んで落ち込んで、その理由が俺を幸せにできなかったらどうしよう、だ。

 俺は自分だけを愛してくれる妻を、さらに腕に力を込めて強く抱きしめた。


「君は俺が子供を作れない男だったら離れていくのかな?」

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