人は誰でも残念な顔を隠している
俺はティナを自分のベッドに横たえた。
もちろん、彼女にはいつものホームウェアを脱いでもらい、俺の箪笥の奥に仕舞われていた青いシャツをパジャマ代わりに着てもらったが。
「これは綺麗な色のシャツね。どうして着なかったの?あなたが着たところは一度も見たことなかったわよ。」
「助平な俺はね、君の瞳と同じ色だってそのシャツを買ってさ、自分が着るよりも君が羽織った姿を想像してしまったのさ。」
「き、今日は別のシャツで良いかしら?これじゃない方が!」
「どうして?って、……ああ、そうか。」
確かに十歳以上年上の男が年端もいかない少女に欲望を抱いていた事実を耳にすれば、喜ぶどころか気持ちが悪いと引くだろうと気が付いた。
「月のものの血で汚しちゃったら嫌だわ。これはずっと大事にしたいの。」
シャツに一滴二滴の月のもののシミが付いたとしたら、きっと今以上に俺の大事な収蔵品になりそうだ。
「やばいな。俺は本気で変態かもしれない。」
「ダン?」
俺は素直にクローゼットに向かうと、ティナが確実に喜びそうなシャツを引き出した。
「士官学校時代のシャツはどうかな?シミ一つ許されないどころか、パリッとアイロンがかかっていないと上級生にシバかれる憎きシャツだ。今こそ汚してやるべきじゃない?」
「汚したいならあなたが汚しちゃってよ!どうして私が汚しちゃったら嫌なモノばかり提案するのよ!そのシャツは欲しいからあとで絶対に貰うけど!」
「ははは。これも夢かな。俺の大き目のシャツを裸の君が羽織るって奴。俺の目の前で俺のシャツのファッションショーをしてくれるならね、踊り子さん、君の欲しいシャツは全部あげるよ。」
うわお、ティナの両目が爛々と輝いた。
輝いたどころか、やってやるぞ、と言う風な小憎たらしい表情まで作って見せた。
「じゃあ今日はどのシャツにする?」
ティナは俺の青いシャツを脱ぐと、自分のホームウェアに袖を通した。
そして、彼女は俺の部屋を飛び出して行った。
取り残された俺は、ティナに甘えすぎていたと自分に認めた。
何でも受け入れてくれるからと有頂天になりすぎて、ティナに変態的性癖を駄々洩れしてしまうとは何事か。
それからベッドに腰を下ろし、長かった恋がここで終わったと頭を抱えた。
「ハア、明日離婚を言われたら受け入れられるかな、俺は。」
夢に手が届きそうなところで突き落とされる、俺は明日から生きていけるのだろうか。
「ダン!今日はこれでいい?」
「わああ!」
俺を崖から突き落としたばかりのティナは、俺の為にがけ下に槍を仕掛けてもいたようだ。
完全なる責め苦だ。
彼女は肌が透けないサテン生地で出来た、バニラ色のキャミソールとタップパンツのセットを身に着けて現れたのである。
「どうして、それ?」
今夜は何もできないしょう?
俺の心は何もできない悔しさで血の涙を流し始めたというのに、俺の理性を試す実験を無邪気に行っているティナは、俺が理性を手放すことは無いと信じ切っている顔で恥ずかしそうに答えた。
「えっと、可愛いなって買ってそのままだったの、これ。ダンはこの前のキャミソールにも全然興味が無かったでしょう。だから、何もできない今日みたいな日には逆にいいかなって。」
「ははははは。」
どうしてあの日に手を出さなかったんだ、俺は。




