ただ抱きしめて眠りたい
俺が部屋に飛び込むようにして自宅玄関を開けた時、俺の目の前では俺が時間逆行をしてしまったのかと思う光景が広がっていた。
俺の帰りをベッドで待つ蠱惑的な妻ではなく、兄の汚した部屋を片付ける幼い妹の姿に戻ったティナだ。
彼女はよれよれの長袖Tシャツにカットソー素材のズボンを履いて、いつものように部屋の片づけをしているのである。
「ティナ。俺はそんなに遅かったかな。」
彼女は俺に顔を上げて、なんてことだよ、泣いたばかりのように目元が腫れているじゃないか!
「どうしたんだ?何かあったのか。」
ティナは抱き寄せようとした俺に抵抗するかのように、手に持っていたゴミ袋を胸に抱えて一歩下がって顔を伏せた。
「……さい。」
俺の背筋を冷たい何かが走った。
待っている間に行為への怯えが来てしまい、俺とのことを考え直したのか?
俺は全部脱いで見せていたか?
ジュリアンの裸と見比べれば不格好だと思い出したか?
「どうしたの?」
俺の上ずった声による聞き返しに対し、ティナは答えるどころか耳まで真っ赤に染めただけだった。
びくっと体を震わせたのは、俺に脅えたという答えなのか?
ああ、確かに俺はティナとヤル事しか考えていなくて、今だって弾丸のようにヤル一心で避妊具を抱えて部屋に戻って来た所じゃ無かったか?
俺は髪をかき上げて天井を見上げ、自分の高まっていた性欲を少しでも吐きだせるようにと息を吐いた。
しかし、俺の行為はさらにティナを責めるように感じさせただけのようだ。
彼女はゴミ袋を掴む手に力を込め、さらに体を縮こませたのである。
「ティナ、怒っていないから。」
「……さい。ごめんなさい。間が悪くて。……ったから。できなくなった、の。」
「え?」
「……来ちゃって、あの、だから出来なくて、あの。」
「ティナ?何が来ちゃって、って、ああ!あれか!」
俺は自分の額をパシリと叩いた。
確かに間が悪い。
そして、ちっちゃくなったティナを無理矢理に引き寄せると、下を向いたままの彼女の頭に頬ずりをした。
「最後までできなくても、今日は俺と一緒に寝てはくれるんだよね。」
「い、一緒に、ね、寝たいの?でも、あの。」
俺はティナを抱き締めながら彼女の手からゴミ袋を奪い、それが俺達の障害だという風に適当に床に投げ捨てた。
それから俺と目を合わせるようにティナの顎を持ち上げ、彼女の露草色の青い瞳が涙で潤んでいるからと彼女の右目の目尻にキスをした。
舐めるように。
「ダン?」
「一緒の布団で君と寝るのは俺の夢なんだ。叶えてくれるかな。」
「も、勿論よ!」
「じゃあ、部屋に戻ろう。いいかな。」
ティナはやっぱり涙目だったが、今の涙はうれし涙にも見えるキラキラしたものだった。
俺はティナの唇に口づけた。
唇の接触だけで俺の中の炎は再び燃え始め、ティナと一緒の布団に潜ってしまったら、これは物凄い欲求不満な体を抱える事になるなと思った。
いや、そんな地獄の責め苦となっても、それでもティナを抱き締めて眠りたい俺がいる。
生理中なら避妊具はいらないだろうと、俺に囁いてくる悪心を銃殺刑にしきれない俺の良心について、俺はティナの為にもう少し考えるべきなのかもしれないが。




