女の子のしるし
ダンの布団は彼らしく清潔だったが、それでもダンの匂いが残っていた。
私の大好きな彼自身の匂い。
私は彼が戻って来るまでの間、彼に抱きしめられていると想像することにした。
戻ってきたらあの続きをするのね。
そこで映画の嫌らしいシーン、男性が女性の下半身に顔を埋めているシーン何かが思い出された。
……私、下半身は綺麗だったかしら。
「今のうちに洗ってこよう!」
ベッドから飛び起きてた私は、ダンと兄の部屋を繋ぐ位置にあるバスルームに飛び込まず、自分の部屋のバスルームへと飛び込んでいた。
だって、下着が汚れていたら取り換えておきたいし。
その判断を私はとっても褒める事になったが、自分が女の子でしかなかった事に自分の部屋に飛び込んで思い知らされる事にもなった。
女の子には月のものがある。
「どうして、今月に限って早く来ちゃったのよ。」
私はがっかりしながら下着を変え、いつものラフな格好に着替えると、この憤懣をリビングダイニングの片づけにぶつけようと部屋の外に出た。
「どこから片付けよう、かな?」
まずは兄の血がついているオレンジだとオレンジを絨毯から引っぺがしたのだが、手に持ったところで少しだけ皮を剥かれたオレンジの果肉にウジが湧いていたのだと気が付いた。
「ああ、ミバエがいたのね。無農薬にこだわるとこういうのがついちゃうのよね。」
ゴミ袋にポイっと捨てた。
私の専攻は十三歳の頃から農業だ。
よって、虫に関してはダンや兄よりも格段に耐性を持っている。
彼らはゴキブリを見つけると乙女のようにキャーキャー騒ぐので、ゴキブリの始末は私の役目となっているぐらいだ。
皮を剥いているオレンジからウジがコンニチワしたならば、ジュリアンの驚愕混乱はいかほどであっただろうかと想像がつくというものだ。
そんな私に頼りきりの部分があるはずの兄とダンは、私を守るべき対象とすることを譲らないらしく、私が軍に入ることを完全に禁止している。
彼らに嫌われたくないどころか一緒にいたいだけの私だ。
彼らの希望は丸っと受け入れたが、十三になるぐらいの私が彼等と一緒に船を乗るにはと考えると、長距離航海船の中で乗組員の食と健康を支える艦内野菜工場の管理人になるぐらいであったのだ。
それも兄に知られるやすぐに却下されたが。
「お馬鹿さん。俺達は長距離航海船には乗らないよ。俺とダンは宇宙に飛んだらね、基地周辺をふらふら警戒潜航するだけの短距離小型船乗りだよ。」
「えっと、ジュリアンたちの宇宙港にも野菜工場は、無い?」
「あるけど、完全オートメーション化されてるし、それも軍人のお仕事だから、君は、駄目。」
「ひどおい!じゃあ、どうしたら私はジュリアンと一緒にいられるのよ!」
当時の私が姑息だと思うのが、どうしたらダンと、と言わずに兄の名前を言ってみたところだ。
しかしジュリアンは私に何でも知っているという顔をして見せてから、私の夢が広がるような素敵な情報を私の耳に囁いたのである。
「ダンは退役したら牧場を持ちたいって言っていたね。牛や馬が好きそうだろ、あいつは。ただし、それをどうやって経営運用するのか勉強する時間があいつには無い。」
私は汚れた絨毯を見つめながら涙が溢れていた。
兄はいつだって私とダンの未来を応援してくれていたのだ。
彼こそダンを愛していたというのに。
「ああ、ジュリアンが死ぬような怪我じゃなくって本当に良かった。ジュリアンが私のお兄さんで本当に良かった。」
女の子に戻ってしまった日なのだから、私の心が幼い頃に戻っても良いだろう。
今さらに、ダンと心が通じたら兄と一緒に住めなくなるのだと、この三人の幸せな生活が消えてなくなることにようやく私は気が付いたのだから。




