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契約成立

 俺は慌てていた。

 慌てるどころではない。

 とりあえず、彼女をけん制できる台詞、結婚したら夫婦生活をするぞ、という脅しは口にした。


 それでティナの瞳が尚更に輝くのはどういうことだ!


 頬までピンク色に染まり、恥じらいという可愛らしい表情をつくり、俺にこれでもかと見せつけている!


 ああ、そうか。

 恋に恋するお年頃だ!

 俺だってこの年はやりたがりな時期だった。


「あ、あの。私は、あの、初めては、ダンが、あの。」


「すとーっぷ!」


 俺は汚れた軍手だろうが、可愛いティナの口元を押さえていた。


「いいか?そういう言葉は冗談でも男の前で言うな。」


「で、でも!ダンの前よ?こんなことダンにしか言わない。」


 ありがとう。

 俺を男と見ていなかったと告白してくれて。


 そして、彼女の不安がそこで手に取るようにわかってしまった。


 ジュリアンの婚約者にはまだ会ってはいないが、彼女があの子爵長男の嫁と似た気性だったらどうなのだろうか、と。

 もちろんジュリアンと付き合いが長い俺ならばジュリアンがそんな女性に恋を語らないと断言できるが、ジュリアンの側面しか見た事が無いティナは一体どんな不安を抱えているものなのだろうか。


 そう、ジュリアンの側面。


 ティナがいる事を良い事に、家事を全部ティナに任せる。

 それどころか、ティナがいるからと欲しかったらしい真っ白な珍獣を買って来たのだ。

 俺とティナは夫婦がろくでもない息子を叱るようにしてジュリアンを叱ったが、あのふわふわのミューズリア星の珍獣は俺とティナの心を奪うぐらいに可愛らしすぎた。


 外見は地球のナマケモノそっくりなのに、いや、動きもか、いや、そのままか!


 とにかく俺とティナはそのミューズリア星のナマケモノを大事に育てた。

 五年で死んでしまうとも知らずに。


 俺はナマケモノが死んだ日に、俺と同じように泣くティアを抱き締めた事を思い出した。

 今だって俺の腕の中に納まって、俺に脅えるどころか俺にしがみ付いている。


――あいつは俺を見限ったんだよ。


 ジュリアン、ティナは君を見限っていない。

 君に見限られる事が怖くて仕方が無い子供なんだよ。

 こうして俺に庇護を求めるぐらいに子供なんだ。

 そんな子供に性欲を抱く俺は何者なんだって話だが。


「ごめんなさい。わたし、ダンがいなくなったらどうしていいのか。」


「そうだね。あいつのこんなゴミ部屋を片付けるだけの毎日は辛いよね。いいよ、俺と結婚しようか?契約結婚。君が好きな人が出来たらお終いだ。」


「あ、あなたに好きな人が出来ても解消だわ。」


 俺はそれは無いと思いながら、ティナを抱く腕に力を込めた。

 君に好きな人が出来た時、俺は本当に手放せるのかな、と思いながら。

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