我が家で待つもの
「俺にしがみ付いていて。」
「え?」
気が付けば私は、いつの間に自宅があるアパルトメントの見慣れたエレベータ内にいた。
それも、ダンとキスを続けたまま、なんと、はしたなくも猿のように彼の腰に自分の足を絡めて抱きついてしがみ付いてもいたのだ。
「どっちの部屋がいい?」
「あなたの、あなたのベッドで寝てみたい!」
「ハハハ、了解。」
私達は再び唇を合わせ、そして性欲の獣みたいになった私達は絡み合いながら自宅玄関に辿り着いたが、玄関を入って一秒で私達から情熱が失われてしまった。
玄関から見える自宅内の風景。
そこでダンの力から急に力が抜けて私を支える腕が消え、私こそ彼にしがみ付く気力が萎え、私はダンの身体から剥がれて床に落ちた。
「ああ!畜生!ジュリアンを一人でお留守番なんてさせちゃいけなかったんだ!」
リビングダイニングと言わず、扉という扉は全て開けっ放しとなっており、引き出しがあれば全て中の物は引っ掻き回され外にも出され、まるで泥棒に入られたあとのような状態だった。
ああ!リビングの絨毯には、ジュリアンに怪我をさせた犯人らしき血塗れのオレンジが、誰かに踏みつぶされた残骸となってこびりついている。
「ごめん、ティナ!あいつらをホテルにやらずに後片付けさせればよかった。」
私は本気で頭を抱えてしまったダンの両手首を掴んで彼の顔からその手を除けさせると、彼の唇に再び自分の唇を押し付けた。
「ティナ?」
「あなたの部屋に行きましょう。あなたの部屋が汚されていたらあの二人を殺してやるけど、大丈夫だったら続けない?私は冷静に戻ってこの部屋の掃除をするのは嫌だわ。」
「同感だ。ありがとう、君。俺が頼んだ通りに悪女になってくれて。」
ダンは私を抱き上げた。
けれど、期待したいつものお姫様抱っこではなく、先程までと同じ私がダンに猿の子供みたいにしがみ付かなきゃいけない抱き上げ方だった。
ダンの身体をダイレクトに感じられるから良いのだけど、私はお姫様抱っこでダンのベッドに運んで欲しかった。
「お姫様抱っこは駄目。」
「あ、口に出していた?」
「うん。今の俺はお姫様の扱いを君にできないから。俺の妻として君を抱いていたい。」
「で、でも、新郎は花嫁をお姫様抱っこで運ぶんじゃ無いの?だ、だから私はあなたにお姫様抱っこされるのが嬉しくて、あの。……きゃあ!」
ダンは私の願い通りに私が望む抱き方に抱え直し、俺は誤解ばかりだ、と呟いた。
「誤解?」
「そう。君が俺に望むのは父親役なのかと思っていたから、君がお姫様抱っこに拘るんだと思っていたよ。小さな女の子はお姫様になりたがるものだろう?」
「あなたは私の父親でもあろうとしてくれたのね。ありがとう。でも、私はあなたをダンとしか見ていなかったわ。初恋で一生叶わない恋の憧れの人だった、の。」
私はベッドに横たえられて、そして私の告白を聞いたダンは嬉しそうににっこりと微笑んだ。
その微笑みが少し寂しそうに感じたのは何故だろう。
「このまま突き進んだら君の告白が本気で過去形で終わりそうだよ。俺は下手みたいでね。痛かったら言ってくれ。」
「これからって時に、歯医者さんの台詞を言う人はどうかと思うわよ。」
「ごめん。俺はかなり緊張しているみたいだ。」
私はダンの告白が嬉しくて、両腕を伸ばしてダンの首に絡めた。
ダンはそのまま私に覆いかぶさり、私達は再び次に進むための甘いキスを交わした。




