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混乱を極めた男②

「ジュリアン、怪我以外は本当に大丈夫なの?」


 心配そうなティナの声で、俺は彼女がいた事をようやく思い出した。

 俺は一瞬でティナに罪悪感らしきものを抱いたが、彼女は俺の行動を咎めるどころか俺と同じくジュリアンの心配しか窺えない瞳をしている。

 俺みたいに抱きついてはいなかったが、いつものようにジュリアンのローブのベルトを掴んで必死な顔で彼を見上げていたのだ。


「ああ、もう。ティナまでこんな顔になっちゃって。俺は応援するつもりで邪魔しちゃったみたいだね。いいから君達はホテルに帰りなさいよ。」


「だって、だって、ジュリアンは病院だったじゃないの!一人で家にいて大丈夫なの?その手で一人で大丈夫なの?」


 ジュリアンはフフッと笑うと、愛おしそうにティナの頭を撫でた。

 俺に抱きしめられている格好なために彼が伸ばせるのは左腕だったが、その手にある包帯は痛々しく白く輝き……って、そこで俺の頭は冷静になった。

 親族を呼ぶほどの怪我じゃないよな、と。


「その包帯はって、病院に運ばれたのはそれだよね?君はコーヒーシュガーを探していたんじゃなかったのかよ。コーヒーシュガーは噛みつかないぞ。」


「そうそう。探していたの。で、君の言った通りの場所にあったのは良かったんだけどね、レンジ用のチョコレートフォンデュもあったじゃない。で、はは、オレンジの皮なんか包丁で剥くものじゃないね。指ごと逝きそうになったよ!」


「……そのまま食べられる苺もあっただろうがよ。」


「オレンジチョコレートって美味しいじゃない。」


 ジュリアンは包帯のある左手をひらひらさせ軽薄そうに笑ったが、俺とティナは安堵で脱力するだけであり、俺はジュリアンの肩に頭を乗せて息を吐きだし、ティナはジュリアンの腰に手を回して彼の身体に寄りかかって、やはり俺と同じように息を吐いた。


「で、俺に慌てたメールをくれたメイヤーはどこだ?」


「ああ、あの子こそ君達と同じ感じでね、でもさ、お前らと違って、ハハハ、ぶっ倒れた。今は点滴かな。俺はあの子の看病をするから、帰って。邪魔もの。」


 ジュリアンは包帯のある手を唇に当て、そこにチュっとキスをすると俺達に投げた。

 俺とキスをした唇が今度はメイヤーと合わされるのだと思うと、俺はなんだか胸になんだかモヤっとするものを抱いてしまった。


「さあ、ダン。抱き過ぎだよ、放して。」


 俺は再びジュリアンのローブを脱がせた。

 そして目を丸くしているジュリアンとティナの眼前で、俺も着ていたスーツの上だけ全部脱ぎ去った。


「お前らこそホテルに行け。俺とティナは家に戻る。」


 俺は自分の脱いだものをジュリアンに投げつけると、似合うと似合わないに関わらず彼の着ていたローブに袖を通した。

 それからティナの手を引こうとしたところで、俺は柔らかくてふわっとした布製品をぶつけられた。


「下も交換だろ。パジャマズボンでホテルに行けるか、ばあか!お前もさっさと下を脱げ。」


 パンツを履かない奴とズボンを取り換えたくないが、公然わいせつでジュリアンが連れていかれてはいけないだろう。

 今の奴は偉そうに腕を組んだ姿で俺を睨みつけ、全裸となったその姿で周囲の人々から称賛の声を浴びながら写真を取られてもいる様なのだ。

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