混乱を極めた男①
俺とティナは取るものを取らずに病院へと駆け付けた。
しかし、ジュリアンがいるだろう救急の処置室前の廊下に立っていたのは、俺にメールをしたメイヤーどころか搬送された当の本人のジュリアンである。
左手に包帯が巻かれていたが、彼はどこから見ても元気そうであり、彼こそ俺達の到着に目を丸くするだけであった。
「おや、おやおやおや。」
家から直接運ばれたからか、彼は白い病院内には場違いな程に派手派手しく美しかった。
上は裸で下はシルクのパジャマパンツを履いただけという身体に、派手な柄のシルクのキモノローブを纏っているといういで立ちであったのだ。
俺は彼を見つけたそこから数歩で彼のもとに辿り着くや、彼の着ているキモノローブを思いっきりはだけさせた。
ジュリアンは叫び声一つあげなかったが、俺達の周囲十数メートル内にいたであろう老若男女による、良いものが見れたという黄色い悲鳴は起きた。
「……すまん。君に他の怪我は無いみたいだな。」
俺は直ぐに彼のローブを元通りにしたが、その前にはジュリアンに向けられたであろうシャッター音は無数に聞こえていた。
「本当にすまない。」
「いいよ。君のいつもの事だ。次の軍部のポルノカレンダーに俺の代りに君が出てくれるならチャラにしていい。」
「畜生!男女平等とか言って、どうして全裸カレンダーが男だけなんだよ!」
「ふふ。君は全裸が見たい同僚がいたのか?そんなことをほざくと新妻との争議になるぞ。」
「ジュリアン。」
ジュリアンが俺に向けた顔に、ほんの二時間ぐらい前に別れた時の記憶の中の表情が重なった。
行けと俺の背中を押しながら、無理やりに作ったぎこちない笑顔を作ってくれたジュリアン。
「本当に君は大丈夫なのか?」
俺はジュリアンに尋ねながら、不安になったそのまま、彼を抱き締めていた。
愛が無いくせに愛があると錯覚させる行為をすることこそ残酷だと、俺はジュリアンに言われたばかりでは無かったか?
俺は腕の中にジュリアンを感じながら、この自分の半身ともいえる親友を手放す事が出来ないのだと自分の業の深さを認めるしか無かった。
彼が俺に抱く愛と同じ種類の愛を返せやしないのに、俺は執着心も持って深く深く彼を愛してもいるのだ。
「ダン。君が抱きしめたがりなのは、モモカを飼ってしまったせいかな。」
「そうだな、きっと。俺はナマケモノを抱き締めるのが大好きなんだろうね。」
「君は本当に残酷で馬鹿な男だね。」




