そこにある夜空
愛しているよ。
十二歳の時から待ち望んでいた言葉。
その言葉は私の心に矢のように突き刺さったが、胸が痛んだわけではない。
ズガーンと貫かれた胸は、歓喜で一杯となって破裂したのだ。
粉々に打ち砕かれた感覚であるけれど、それは待ち望んだ言葉によって私の中で愛されないと思い込んで硬く強張っていた自分自身を砕いてしまったに過ぎない。
だって今の私は骨を失ったかのようにほわほわで、日向ぼっこのし過ぎぐらいにぽかぽかと体が温かく満たされていくだけなのだ。
「ティナ?」
ダンの顔に陰りが!
あ、そうだ!私は何も言葉を彼に返していない!
何か言葉を!
私も愛しているって言うのよ!
声が、……出ない。
泣いてもいないのにまるで過呼吸のように息を途切れ途切れに吸い込むだけで、私の呼吸器も発声器も何もまともな事が出来なくなってしまった。
「ど、どうした!」
慌てたダンの声。
私はダンの腕の中に抱き寄せられていた。
私を汚したくないと見せつけた、誰のものか分からない短い縮れ毛や埃塗れになってしまった手だったけれど、彼はそんなことを忘れてそれで私の裸の背中を触れているのである。
これこそダンのいつもの行為で、ああ!これこそ彼が私がとにかく一番って言っていたも同じ行為そのものだったのじゃ無いの。
私はダンの腕の中で声を取り戻した。
彼の胸の鼓動は激しく雷のように轟いており、そして、その鼓動の音こそ彼が私の存在を崇めている証なのだ。
「ずっと、ずっと愛していた。あなたのお嫁さんになりたいと、ずっとずっと思っていた。」
考えることなく言葉が溢れた。
私は十二歳のあの日からこれだけを夢見て生きて来たような気がする。
私はダンの腕の中から彼を見上げた。
ダンの右手は私の背中を離れ、私の髪を撫でながら私の頭を彼がキスしやすいように傾けた。
黒曜石のようなダンの瞳は煌いていて、ダンと一緒に眺めた夜空のようだ。
私はそっと瞼を閉じ、彼の優しい唇を受け入れた。
私は兄とダンが宇宙港勤務の期間になれば、毎晩夜空を見上げていた。
兄が宇宙に飛び立った時は、ダンと夜空を眺めて兄の無事を祈るために。
ダンが宇宙に飛び立った時は、絶対に戻って来てと悲痛な思いを込めた。
明日から私は夜空を見上げるたびに、このダンとのキスをきっと思い返す事になるのだろう。




