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兄妹

 完全な拒絶だった。

 拒絶されたと泣きながら部屋に駆け込んだのだ。

 私の恋心なんてダンに知られてしまっただろう。

 そして、追いかけてくれはしなかった。

 これは、きっと彼なりの答えなのだ。


 ――俺は愛し合う相手じゃ無きゃ嫌なんだ。


 彼は私を抱く気などきっと一生起きないだろうし、私が彼の胸から羽ばたいて新たな恋をする事を望んでいるという事だ。


「可哀想に。でも、本気で可哀想とは言わないよ。」


 枕に顔を埋めていた私は、初めて聞いたような兄の声にびくりとした。

 兄の声こそ傷ついた人の声に聞こえたのだ。


「かわいいティナ。君はどうしてそんなに自信が無いの?君が恋する相手にとって、君は理想の女の子だというのに。」


 そっと頭を優しく撫でられ、私はそのひと撫でで崩壊した。

 しくしくではなく、うわあああんと、子供のような泣き方になるぐらいに胸が張り裂けたのだ。


 どうしてジュリアンはそんなに優しい慰めの言葉を、そんなにも悲しい声で言うの?


 私は枕から顔を浮かばせ、ベッドの端に座って私の頭を撫でている兄を見返した。私よりも白い肌は青白さを増していて、彫りの深い目元はくぼんで影が出来てもいる。

 そしてジュリアンは裸にバスローブを纏っているだけのしどけない姿であり、そんな姿がなんだか病人のようだとも思った。


「ジュリアン。兄さんは具合が悪いの?なんだか辛そうよ。」


 兄は母親譲りの形の良い口元を綻ばせた。

 女優であったジュリアンの母には大きすぎると揶揄された唇であるが、男性の輪郭を持つジュリアンの顔に納まったそれが微笑めば、それはまるで神様の像の微笑みの口元になる。


 いつもは。


 微笑んでいるたった今そうはなっていないのは、ジュリアンの口元が泣きそうなところを我慢しているかのように少しわなないているからだ。


「ジュリアン。」


 私は起き上がり、愛する兄である彼を抱き締めていた。

 抱き締めて初めて思いついた。

 私がダンに抱きしめられていた間、兄は一体誰に抱きしめられて慰められたのだろう、と。

 ダンと二人だけの士官学校時代は、ダンの話ではお互いを抱き締め慰め、そして、困難に打ち勝とうと共闘した四年間だったというではないか。


「わた、私は邪魔者だったのかしら。」


 私の背中にジュリアンの両腕が回され、私は彼にあやされる幼子のように抱き締められた。


「バカな子。君がいるからダンがここにいる。俺は六年も彼を手放さなくて済んだんだよ。俺達が二人ボッチだったらね、一年も持たずに別々の道を進むことになっただろう。」


「どうして?」


「俺が嘘つきだから、かな。でもね、疲れた。嘘を吐いているのに疲れた。」


「兄さん?」


 私に回された腕に力が入り、さらにぎゅっと抱きしめられた。

 そしてすぐにその腕は解かれ、代わりに私の両の二の腕が彼の両手によって掴まれていた。

 私を捕まえているジュリアンはゆっくりと私を彼の身体から外し、そして、不安になって来た私の顔を覗き込むようにして私の瞳と目を合わせた。


「兄さん?」


「君に頼みがある。一生に一度のお願いだ。」


 ジュリアンの表情を見て、いいえ、と答えられる人はいないだろう。

 死んでしまいそうなぐらいに思い詰めた表情。

 私はこんなにダンを好きだと言い張っていたのに、今の兄程の悲壮感に溢れた表情をした事が無いじゃないの、と。

 

「何でも聞くわ。あなたと私は兄妹ですもの。」


 私がダンを失っているのならば、兄も失うわけにはいかない。

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