相談相手
「どうぞ、アークロイド少佐。頭が痛い時には濃いめのコーヒーが効きますよ。」
俺が出勤してみれば、同僚達は基地のそこらじゅうをウェディング風味に飾り付け、俺の机の上には夜用のいやらしい玩具や下着という余計な贈り物で溢れているという有様だった。
全ての贈り物についた全てのカードには、ハッピーウエディング、だ。
結婚したと知っていての嫌がらせか!
結婚したばかりの男が性欲発散用の人形など欲しがると思うのか!
そこでそこは否定できないと俺は自嘲した。
新妻を抱くどころか心を傷つけてしまった上に、その新妻を抱きたくて仕方が無い野獣なのだ。
それを誰かに見透かされた気がして頭に血が上った。
部下達に片付けておけと怒鳴ると、俺は自分の執務室を飛び出して休憩所に逃げ込んだ。
そんな俺を見つけたジュリアンの部下が、親切にも自分の為に買って来ただろうホットコーヒを俺に差し出して来たのである。
「ありがとう、メイヤー准尉。君の親切ついでに聞かせて欲しいのだが、どうして基地内の全員が俺の結婚を知っているんだ?」
有名店のロゴが印刷された紙コップのコーヒーを俺に譲った男は、繊細な人形のような顔立ちを皮肉そうに歪めてから肩をすくめた。
「ご親友のジュリアン・サルヴァドーレ少佐様ですよ。結婚式の夜は主役不在の披露宴をデモンズナイトで開催されましたから。」
「デモンズナイトかよ。二度と飲みに行けねぇ。ふざけやがって。」
俺は結婚式翌日のジュリアンの酔いつぶれ具合を思い出し、さらに頭が痛くなったと額に手を当てた。
それからコーヒーを飲んで頭をすっきりさせようと口に含んだが、コーヒーは確かに濃いがバニラとヘーゼルナッツの香りがあるというものだった。
砂糖が入っていないところはありがたいが、俺はコーヒーには混ぜ物の香りが無い方が好きだ。
そうなったのはコーヒーに拘るジュリアンと士官学校の寮で相部屋だったからであり、彼は俺に様々なコーヒー豆を挽いては淹れてくれたのである。
こんな安い豆を香料で誤魔化すようなコーヒをジュリアンが飲んだら、きっと吐きだしてしまうことだろう。
「あ、お口に会いませんでしたか?サルヴァドーレ少佐はいつもこれでしたので、あなたももしかしたらと思いまして。」
「嘘だあ。」
「え、嘘って。」
「あいつは豆に拘るだろ。変な香料入りのコーヒーは飲まないかなって。」
メイヤーは真っ赤になり、そのままがっくりと首を折れるようにして頭を下げた。
ああ、俺は新妻だけでなく親友の部下までも落ち込ませてしまった!
「いや、ごめん。デリカシーが無さすぎた。」
「あなたがあやまることは無いですよ。俺が自分本位だって知れて良かったです。今までずっとそれを少佐に持って行って何も言われなかったけど、ああ、そうですね、そういう所が俺が彼に受け入れてもらえない所なんでしょうね。」
「いや。あいつは親切そうな良い男に見えるけど、俺よりもキレるし嫌だとはっきり言える男だぞ。あいつが何も言わないんだったら、君のコーヒーが嫌だったわけじゃないと思うよ。」
メイヤーは唇をきゅっと噛んだ。
それはとても悔しそうで、俺はまた人を慰めるどころか傷つけたのだと後悔するしかない。
しかし、顔を上げたメイヤーは傷ついている顔をしていなかった。
俺を真っ直ぐに見つめて来たのだが、その表情は俺に対してかなりの怒りを抱いているようにしか見えなかったのである。
「メイヤー、くん?」
「そんな面をあなたにしか見せていないとご存じでした?」
俺の頭の中ではジュリアンの白い頬を流れる涙が再生された。
なんてことだよ!




