子供に対して何たることか①
親友ジュリアンが結婚を決めて俺は引越しを余儀なくされた。
大きめの部屋を借りて全員で住もう、とあの馬鹿はほざいたが、俺は新婚が住む家で友人が汚した部屋を休日に片す生活はごめんこうむりたい。
今までは良かった、というか、義務感に狩られて頑張っていた。
ジュリアンの妹、琥珀色の蜂蜜みたいな髪の毛に露草色の瞳をした可愛い少女の為である。
ジュリアンとティナは子爵家の子供だが、子爵が離婚再婚を繰り返していたがために、長男次男そして長女となるティナの母親がそれぞれ違うという事が彼等の不幸の元だ。
それぞれ顔を合わせることなく別々に育ち、それぞれに肉親的な情も無く育った。
一番初めの正妻の息子が跡継ぎなのはジュリアン的にもありがたい話らしいが、その年の離れた長男が妻帯者で子供も数人いる状態で子爵家本宅に住み替えるとなれば話は別だ。
ティナはその時いらない子として、長男によってどこぞの寄宿舎に放り込まれる予定であった。
士官学校生のジュリアンに彼の父の訃報が届いた頃は丁度学生寮を出る所で、同期の俺とルームシェアの話し合いをしているまさにその時であった。
なぜ俺も連れていかれたのか知らないが、俺達はジュリアンの父の葬式へと子爵家へ出向き、そこで長男があまりにも人間的にろくでも無いと感じ、子爵家を出ていく時には十二歳の子供の手まで引いていた。
いや、ティナの小さなその手を引いていたのは俺だったか?
両親を失ったばかりの子供の目の前で、その子供を寮に入れて寮費は遺産でいいわよねと、追い出す計画をべらべら話している長男夫婦に俺達は腹が立ったのである。
しかし、俺は俺達の衝動的行為を後悔するどころかよくやったと褒めてやりたい。
同居してわかったが、ジュリアンは生活能力が皆無であったのだ。
彼は士官学校で事細かにマニュアル化された生活様式ならばこなせたが、自分の好きに振舞える自宅ではタガが外れて何もできない男となってしまうのである。
ティナはいい子だった。
俺達の為に朝食夕食を作り、トイレを磨き、風呂も洗う。
ついでにリビングも片付けて、馬鹿兄が俺の部屋もと言えばそこも掃除をする。
彼女は守られるべき十二歳の子供だぞ!
俺はそこで彼女と一緒に部屋を片付け、一緒に食事の用意をしたりと、本来だったら兄がするべき家事を彼女と六年こなし続けた。
そこは別に苦でも無かった。
ひたすらに彼女は可愛らしく、ハハ、どうやら俺は彼女に恋をしていたのだ。
子供なのに。