明日に向かって
深夜、私は堅牢な要塞攻撃の為の戦術指南を受けた。
新兵でしかない私は歴戦の勝者である彼の言うがままに武器を調達し、彼が指示したとおりの戦術的行動を取るべきだと覚悟を決めた。
「でも、これは本当なの?」
兄からのメールを何度も読み返してみても、私が女性誌で得た情報と何一つ合っていない。
だけど、女性誌からの情報をもとに頑張っても、ダンは私を子ども扱いするだけだった。
「覚悟を決めたんでしょう。失敗したら兄の胸で泣けばいいのよ。彼の胸で泣いた事はないけど。」
思い返せば、私が泣きついた胸はダンだけだった。
学校で悔しい思いをしたと泣けばダンが抱き寄せてくれ、悲しい映画を見た時はダンが濡れタオルで顔を拭いてくれた。
ハハハ、いやだ、私ったらダンにとってはお子様でしかないじゃ無いの。
「よし。ジュリアン司令官の指令通りに動くのよ!ダンは明日から仕事。でも、午前休みという、私に残された数時間があるのよ。」
その数時間のうちにベッドにダンが来るとは考えていないし、兄の目の前で寝室に二人で連れ立つことなど絶対にできやしない。
そう、私が望むのは、ダンが私を女性だと意識してくれること。
そこからよ!
今日の失敗は、ああ、思い出したくない。
せっかくムードも盛り上がって額にキスしてくれたのに、そこで私は大それたことを望んでしまった。
ボートに乗りたいわって。
私は知らなかったの。
兵隊さんが地上訓練でボートを漕ぎまくっていた、なんてこと。
ええ、ダンは漕ぎ手としては素晴らしかったわ。
彼が漕ぐボートはモーターボートかと思うぐらいのスピードで進み、あっという間に造成湖を一周してしまった程なのだ。
ゆっくりとボートに乗って、揺れるわ、怖い、ってダンに甘える方法なんてする暇がなかった。
でも、ボートを降りた時の彼の表情は私に対して物凄く申し訳なさそうで、ええ、飼い主に怒られそうでびくびくしている犬みたいで可愛らしいわって私は思ったのだ。
「ごめんね、君はもっと違う乗り方を期待したんだよね。」
ダンが私を気遣ってくれる、それだけで私は幸せだ。
「ぜんぜん!ボートがすっごく早くて、受ける風も気持ちよくて楽しかったわ!」
するとダンはしゃがみ込んで両手で顔を隠してしまった。
「情けない。ああ、俺は本気で情けない。こんなに可愛い君に!」
うーん、あの時はどう答えれば良かったのかしら。
まあ、とりあえず、明日よ。
男の事をよく知っているお兄様の言うことを聞くの。
お兄様に恋しているダンがお兄様が私に助言しているって知ったら傷つくかもしれないけれど、私はダンを手に入れるためならばなんだってするって覚悟を決めたのだもの。




