どこに行こうか?
デートなど数年以上した事もない。
いや、したことはあったか?
そうだな、あったな。
お節介な親友ジュリアンが六年の間に何回か合コンや紹介という手で、修行僧のような生活の俺に何人かの女性とお出掛けの斡旋をしてくれたのだ。
絶妙に俺の好みの外見を選んできた彼はさすがであったが、俺がどの女性にも心が惹かれなかったのは、俺が十歳は年下の女の子に恋をしていた変態だったからであろう。
いや、最初の頃は恋じゃ無かった気がする。
俺は気張っていたのだ。
幼い子供を守るという立場が青臭い自分には心地よく、三人の生活が楽しかったこともあるが、その生活を守ることに腐心してしまったのだ。
俺とジュリアンは学校出たての若造でティナはまだ十二歳という、責任があるようでない大人になり切れない子供でいられる時間を守りたかったのかもしれないが。
「うーん。最悪だな。でもさあ、あの子の透明感が好きだからそのままでいてって思っちゃうんだよねえ。ああ、やっぱり単なるスケベ親父かな。」
白いナイトワンピース姿の女の子が窓枠にちょこんと腰を下ろし、兄が宙港にいるからと星空をずっと眺めている、そんなティナの記憶が俺の脳裏に浮かび上がった。
俺が空の勤務の時にもこうして空を見上げてくれているのだろうか、と、空で働いているだろうジュリアンに嫉妬してしてしまった情けないあの日に、俺は彼女に恋をしてしまったのだろうか。
そうだな。
空を見上げてジュリアンの安全を願っているティアの姿を変えたくないからと、俺は彼女に大人になって欲しくないという気持ちを持っていた。
持っていただけか?
そんな気持ちのまま言葉を口にした事も無かったか?
あの女優は化粧っけが無くて素に見えるからいいよね、って。
ティナはいい子だ。
三人の暮らしを、特に俺とジュリアンにとってストレスが無いようにと、彼女は気を使うのだ。
気を使って、彼女の好きなものを我慢したりもする。
そして、そんな彼女の習性を知っている俺が隠しもせずに彼女に子供のままでいて欲しい素振りをしたから、彼女は化粧をあからさまにしないし華美な服装もしないのだ。
「俺は最低だな。……よし。デパートにでも行って化粧品売り場をうろつくか。服を買ってあげてもいい。彼女を俺の暗示から解き放つことこそ俺の償いだよな。」
解き放たれた彼女がこの世界から飛び出して行ったらどうなるのかな、と急に不安になった。
そして不安から逃げ出すようにして部屋から出ると、ティナの部屋のドアも開いて彼女がリビングに飛び出して来た。
体の線が出てしまうようなミニのニットワンピースに、ああ、なんと、彼女は化粧をしていた。
新品のワッフルシャツに着替えただけという俺の代わり映えのしない姿に、ティナは目を白黒させ、長いまつ毛をぱちぱちと瞬いた。
おや、その目元に小さな可愛らしい蝶々がいる気がする。
まじまじと見つめると、なんと、ほんのりとピンクのシャドーが彼女の瞼に煌いているのだ。
彼女は普通に可愛い服も持っていたし、化粧もして自分を飾ってもいたわけだ。
俺の心の奥で俺の影響力が全くなかったことがチクりと痛んだが、それでも彼女は俺に気を使って色気も何もない姿ばかりをしていたのだと自分を慰めた。
慰めたところで、俺は気が付いたのだ。
彼女は俺の為に今日は着飾ったのだ、と。
ティナは俺が素敵だと言ってくれたが、俺こそ彼女がとっても可愛らしいと思った。
「うん。俺が宙港勤務になった時には、今の姿の君が俺のいる空を見上げていてくれると思うことにするよ。」
「はひ?」
俺は何のことかと驚く彼女の頬に手を当てた。
「ピンクのシャドーが似合うよ。ジュリアンの宙港勤務を寂しそうにしていた幼い君が可愛くてそのままの君でいて欲しかったが、俺には今の君の方が良いな。」
わあ、女の子の目は限界が無いのか?
目玉が零れそうなぐらいにティナの目は真ん丸に見開かれた。
俺の言葉が彼女にこんなにも力を持っているなんてと、俺はかなりの万能感に襲われていた。
いや、ティナが可愛いと、彼女への愛で体が痺れていただけかもしれない。
俺は彼女を感じたいと、彼女にしがみ付いて欲しいと、左腕を差し出した。
「今日は君の好きな所に行こうか?」




