親友
バスタブに湯を張ってジュリアンを入れたはいいが、彼はいつもと違っていた。
本気で骨を失ったかのようにぐんにゃりと脱力していて、目を離したら湯船の中で溺れそうなほどに酩酊状態なのである。
「大丈夫か?そんなに飲んだのか?」
バスタブのへりに頭を乗せ上げている彼は酔っている筈なのに血の気が無く、一気に血圧が下がっての脳貧血を起こしたのかと慌てて彼を湯船から掬い上げた。
急いで布団に寝かせなければ。
「わあ!」
しかし、俺は強い力によって俺こそ湯船に引き込まれた。
ジュリアンは俺を抱き締めており、俺は彼が外見的に俺よりも一回り小さく見えても実際はそれほど体格差が無かったことを自分で思い出していた。
俺は神様の彫像のように美しいジュリアンを現実よりも細く華奢にイメージし、自分についてはイノシシか牛のように鈍重でデカいという風にイメージしていたのだ。
「やばい。お前を湯船から抱き上げるには人手が足りなかったな。メイヤーの前でいい先輩ぶるんじゃなかったな。」
「本当にな。ようやく口説き落としたアロイス君に介抱してもらおうと頑張ったのに、ああ、お前のせいで台無しだよ。」
「だったらさ、ホテルにでも行けば良かっただろ。」
「ハハ、お前らは新婚で昨夜は初夜だ。部屋から出てこないと思ったんだよ。」
俺はそこで黙ってしまった。
俺達はセックスなどしていない、とジュリアンに伝えても良いものなのだろうか、と。
いや、俺は伝えたく無いのだ。
知られれば結婚など解消となるだろう。
俺はティナを自分の妻のままにしておきたい卑怯者だ。
「……くれ。」
「どうした?」
「体を洗ってくれ。洗ってくれるんだろう?」
「そのつもりだったが、こんな状態じゃな。」
俺は身を起こそうとして、しかし、俺の身体に回されているジュリアンの腕は硬かった。
「どうした?具合が悪いのか?」
「ああ、凄く悪い。物凄く悪い。頭がぐらぐらして死にそうなんだ。少しこのままでいてくれ。」
俺にしがみ付いて目を瞑っているジュリアンの顔色は青白く、俺は死んでいったナマケモノの最期を思い出してしまったからか彼を抱き返していた。
あの子は俺にしがみ付いたまま息を引き取ったのだ。
自然と俺の右手はあの日のモモカの遺体にしたようにして、ジュリアンの頭を、彼の髪の毛を撫でていた。
すると、ジュリアンの手も俺の頭へと伸び、何たること、奴は俺に再び口づけて来たのである。
俺は彼を突き放すべきではないのか?
そんなことを自問している俺がいたが、俺は彼の口づけを静かに受け入れるだけだった。
ジュリアンのキスは結婚式でのキスよりも簡単であっさりとしたものだったが、あの時のキスよりも気持ちが籠ったもののように感じた。
唇を離した彼の瞳から一粒の涙がこぼれ、俺はそんな彼を自分の胸に抱き寄せた。
「――すまない。」
「いいよ。お前はキスが上手いし。」
「ばかやろ。俺の事を思うなら、受け入れずに突き飛ばせ。お前は優しすぎ。そんなお前に醜態を見せっぱなしだって俺がいたたまれないだろ。」
「お前は俺に醜態しか見せないだろ。何を格好つけているんだ。」
「糞野郎が。」
ジュリアンは俺の首に両腕を巻き付けて、再び俺に強くしがみ付いた。
俺も彼を再び抱き締め直す。
彼は俺の大事な親友で、家族同然に愛しているのだ。
何かに酷く傷ついているらしい彼を、俺が突き放せるわけがない。




