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見えない影
新島はしばらく赤髪のキャラクターとやりとりをした。
会話と言えるものでは無かったが、何かを分かち合っているような気がしたその時間は、新島にとって初めて社会に溶け込んだような気がした。
赤髪のキャラクターとは毎日夜9時からやりとりをした。一言も理解できるような単語はないが、ただただ楽しかった。
赤髪のキャラクターの名前は「ひろみ」。会話が出来ないとは思えないくらい、普通の名前だ。
文字の意味は理解できなかったが、「ひろみ」という記号の形を新島ははっきりと覚えていた。
新島は夜7時半を過ぎると、「ひろみ」の形をした記号を探した。様々なキャラクターが会話する中から探すのは酷だった。しかし、新島にとっては宝探しと同じだ。
ある日、新島はいつものように「ひろみ」を探していた。その時、パソコンの画面には映っていないところから「ひろみ」の会話が。
「最近さー、変な奴とずっと絡んでんだよねー。そいつさ、まともな言葉を一回もしゃべってこないの!ヤバいやつだよね!?」
救いなのは、新島が文字を読めないことだった。