たった一つのボタン
以前投稿したものに手直しを加えました。
よろしければ読んでってください!!
手がかじかむ、鼻の頭が赤くなり、それを隠すように顔半分をマフラーに入れ直す。
街はすっかりクリスマス一色に染まり、街ゆく人々はソワソワしていたり、これから訪れる幸せな日を楽しみにしていたり、かと思えば中にはまるでこの世の終わりかのような顔をしていたりと様々だ。
ちなみに俺はと言うと、特に予定もなく、毎年のようにネットゲームの仲間と一緒過ごすのだろう。
それも確か楽しいのだが本音を言えば可愛い彼女とキャッキャウフフしたいのだ。聖なる夜を性なる夜にしたいのが本心だ。
だが、現実はあまりにも厳しく、仲のいい女友達どころか連絡先を知っている女性なんてかぁちゃんと会社の事務員のおばちゃん位。
本当に泣きたくなる暗い厳しい現実である。
そんなことを考えていたらいつの間にか家の前に着いていた。
見慣れたドアを開けるとそこにはパソコンとテレビ、それからベッドと冷蔵庫。
生活に必要最低限のものしか無い一人暮らしの男の味気ない1DK。
飾り気のない部屋だがここは俺にとって一番落ち着く場所でありオアシスなのだ。
俺は外の世界から解放された安堵からため息をつき、パソコンの電源を入れる。
(もう皆居るのかな…)
時刻はもう19:00を回ろうとしている。
いつも一緒にゲームをしているメンツを脳裏に浮かべながら5年やり続けているゲームのアイコンを押す。すると画面から聞きなれた音楽とともにゲームの名前が映し出される。
それを確認して今度はSk〇peを起動させ、いつもの会議通話に参加した。
そこにはいつも通りにくだらない話に花を咲かせる顔なじみのメンツがいた。顔なじみと言っても実際あって会話した事など無いのだが。
「あ、噂をすればなんとやら。
ご本人の登場ですよ」
一番最初に聞こえてきたのはナナの声だった。
きれいに通る幼さの残る声。初めて聞いたときは高校生かと思ったのだが話を聞くとどうやら社会人らしい。
「今、ちょうどスイの話をしてたんだぜ!!」
次に聞こえてきたのはハルトの声。
爽やかで活発のある声は人当たりの良い好青年を想像させる。
去年新入社員になったばかりで溢れんばかりの元気の良さ。いつも場を盛り上げてくれるのはこのハルトだ。少し頭が足りないのが残念だけど。
「なんの話し??」
特に内容に興味があったわけではないが、とりあえず話題に入りたいので聞いてみた。
「今年のクリスマスもスイさんはお一人なのかなぁってお話です」
ナナが少し嬉しそうに答えた。
(なんといやな話をしてるのだコイツらは。
こちとらクリスマス一色の街中を肩身狭い思いをしてやっと着いたこの楽園に着いたというのにそんな話を持ちかけてくるのか)
「うるせぇ、だいたい、ここにいるヤツらは皆1人だろうが」
俺は少し苦し紛れの言い訳も出ずに悪態をついてしまった。
「チッチッチッ」
画面越しだと言うのにハルトが人差し指を左右にふってるのが想像つく。
「なんと今年はぼっちじゃないんだよ!!
今年はやっと彼女とキャッキャウフフして過ごせるぜ!!」
ハルトのいきなりの爆弾発言を聞き、通話に参加していたみんなが一瞬固まった。
誰もが意表を突かれて頭の中でいま聞いた話を爆速で処理しようとしていた時、一人が沈黙を破った。
「…そんな馬鹿な…
明日世界が滅ぶなんて…
嫌やぁ、ウチ、まだ死にとうない…」
ハルトの発言にユキがだけが反応出来た。
「おいコラ、ユキ!!
俺にだって彼女ぐらいできるっつーの!!」
ユキの声はいつ聞いても優しくか細い声をしている。
この声で寝る前に朗読なんてされたら5秒で落ちるとみなが声を揃えて言う。
だがしかし、その声とは裏腹に入れるツッコミが激しく鋭い。
「だってハルトさんに彼女なんて有り得んやん…
ただ声が大きくてうるさいだけなのに…
ありえん…
どう考えても明日世界が滅ぶとしか思えんやん!!」
まるで遺書でも書き始めてしまいそうな剣幕で話すユキの声。
そんなことを思っているとガサゴソ音がした。
(まさかほんとに書いてないよな⁇
書いてたとして誰が読めるの⁇その遺書。地球滅ぶんだよ??みんな死んじゃうんだよ??)
「…まぁ、でも確かにハルトは顔だけ見ればイケメンの部類に入るから彼女が出来ても不思議じゃないかも…」
そこでハルトを比護するかのような声が聞こえた。その声の主はヤマトだった。
ヤマトはハルトの幼馴染で同時期に俺と知り合った。
今はお互い一人暮らしをしてるがたまたまアパートが一緒だったらしい。
腐れ縁もここまで来ると恐ろしいものだ。
出会った頃から元気だけが取り柄のハルトと違い、ヤマトは落ち着きのある大人という感じだった
「ヤマト…お前ならわかってくらるって思ってた!!」
「まぁ、顔だけ、見ればかっこいいから…顔だけ」
「さすが俺の親友だな!!
今度俺の彼女紹介してやる!!」
顔だけと強調されバカにされてるのに気づかないハルトはそのまま話を続けた。
「めちゃくちゃ可愛くて、気も使えて、もうほんと最高って感じの子だから!!
俺にはもったいないくらいなんだぜ!?」
(声だけでもわかる。コイツ、相当浮かれてるな??
ムカつく!!
そして…羨ましい!!
俺なんてまだ女の人と手も繋いだこともないのに!!
リア充マジ滅びろ。微粒子レベルで)
「遅くなりましたぁ」
いつものようにくだらない話に咲かせてると、幼く、おっとりとしていて、何処とないく甘い声が聞こえてきた。
「レモンちゃん、お疲れ様です」
レモン、甘い声と喋り方が緩いせいかピリピリしている場でも和ませてくれる。
まだ大学生で俺らの中では最年少だ。
「サークルでちょっと話し込んでしまいまして〜
もうみなさん始めてるんですかぁ??」
相変わらずホントに可愛い声してる。
この声で毎日起こされたらブラック企業だろうが365日永遠に働ける。
そのくらいのヒール効果がある声なのだ。
「いや、今バカの妄想を聞いてたところ」
「おいコラ、スイ、いい加減認めろ!!
俺には超絶可愛くて優しい彼女が出来たと!!」
画面越しで騒ぐハルトをよそに、俺は冷静を装いつつ話す。
「え、ハルトさん
彼女出来たんですかぁ!?
おめでとうございます〜‼︎」
「ありがとう、レモンちゃん
君だけだよ、ちゃんと認めて祝ってくれたの…」
と、まぁこれが俺のいつものメンツ
ナナ、ハルト、ユキ、ヤマト、レモン
皆5年前に出会ってそれからずっと一緒にゲームをしている。
性格も、性別も、歳も、全てが異なる俺らがここまで仲良くやっていけてるのが不思議で、だけど違和感もなく、むしろとても心地がいい。
やはり俺にとってかけがえの無い時間と空間だ。
・
・
・
「そろそろ始めない??
もう8時半になるよ??」
ヤマトに言われてその時初めて時計に目をやる。
下らない会話で盛り上がって話していたせいか、時間は20:27になろうとしていた。
「ハルトさんが変な妄想するや…」
「全く…ホントにハルトには困ったものだ」
ユキと俺はまだハルトを弄り足りないとばかりに言い放つ。
「もうお前ら2人はいい…
ナナちゃんとレモンちゃんは認めてくれたもんね」
「え、私は特に何も言ってませんよ??」
「え??」
「え??」
(確かにナナは肯定も否定もしていなかったな。
なんか可愛そう…)
こうして、ひと段落した所でやっと皆ゲームをするスイッチが入ったようだ。
俺らはしばらく時を忘れてゲームに没頭した。
「ふぅ…何とか勝てましたね」
「あぁ、だいぶやばかった…」
「まぁ、俺のおかげでしょ!!」
「ハルトさん、ちょっとうるさねんけど…」
俺とナナが先程のクエストでの戦闘の余韻に浸っているとハルトがまた大きい声で話し始め、そこにユキが間髪
入れずに言い放った。
相変わらずこの二人のやり取りは変わらない。というかここまでがテンプレに近い。
自分の空腹に気づき、時間を見ると23:26だった。明日は休みで時間は特に気にしてなかったからか、ゲームを始めてからだいぶ経ってしまっていた。
そして俺は風呂にも入ってないことに気づいた。
(休みだからといって風呂に入らないって選択肢は無いな・・・
いくら冬でも汗かいてて気持ち悪いし、何より、落ち着かない)
「ちょっとお風呂はいってきてもいい??」
俺は念のためにみんなに確認をとる。
「あ、私もまだでしたぁ!!」
そういえばレモンちゃんも帰ってきてすぐに始めたんだっけ。
そんなことを思いつつ俺は席を離れた。
外したヘッドセットからハルトとヤマトの会話が聞こえた。
「んじゃ俺は小腹すいたからヤマトんち行くわ!!」
「俺んちはコンビでもレストランでもないんだけど…」
(相変わらず仲がいいなぁ)
俺は何処となくほっこりしながら風呂場に向かった。
風呂から上がり、小腹を満たすためにそのまんまキッチンでカップラーメンにお湯を注いだ。
(やっぱりチリトマは神だ。これを作った人に国民栄誉賞を与えてやりたい)
俺は出来たてのカップラーメンを片手にパソコンの前に戻る。
「ただいまー」
「あ、ねね、スイ!!
ちょっとコレ見てよ!!」
帰ってきて早々にハルトが話しかけてきた。
こいつは静かにできる時間はないのか…
「帰ってきて早々騒がしいなぁ、お前」
「なんか最近みんな俺に冷たくないかなぁ!?」
どうせまたよく分からないゲームでも見つけてきたのだろう。ハルトは暇さえあればすぐ別のゲームを探す癖がある。
まぁ、大体ハズレだが。
「それで、何見るの??」
「このアプリ見てみてよ!!
ちょっと面白そうじゃない??
みんなで一緒にやろうぜ!!」
そう言ってる間に俺のケータイが鳴った。どうやら早速ハルトからLIN〇が送られてきたようだ。
画面を見るとAp〇leストアのURLが送られてきてた。
そのURLをタップしてアプリを確認するとそこに書かれていたアプリの名前は
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【異世界転生アプリ】
詳細
今の生活に飽きた人、今の自分を変えたい人、新しい出会いが欲しい人、そんな人達におすすめのアプリです。
新しい世界で、新しい生活、新しい出会いを満喫しませんか??
未知なる生物、現象に心震わせる世界がここにあります!!
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何ともクソゲー臭のするアプリだ。
最近何かと転生物や異世界ものが流行ってるからそれに乗っかったアプリなのだろう。
無料、無課金なのはいいが、肝心の中身がイマイチ分からない。
経験上、こういうのはだいたいハズレなのだ。
俺はこれからハルトが言うことが何となくわかるが、念の為に聞いておこう。
「んで、このクソゲー臭のするアプリをみんなでやろうと??」
「さっすがー!!え、クソゲー??まぁ、いいや。
みんなもうダウンロードしてるから、スイも早くダウンロードしてよ!!」
「今してるよ」
何か引っかかったようだが、関係ない。
話を先に進めよう。
一度何かが気になったハルトはもう誰にも止められない。諦めてさっさと飽きさせる方が賢明だと、長年の付き合いで皆は気づいてダウンロードしたのだろう。
ダウンロードが終わるとケータイの画面に[転生アプリ]のアイコンが出てきた。
「今ダウンロード終わったけど、もう皆起動させてるの??」
「もうしてますよ」
ナナが少し興味無さそうに返事を返してきた。そしてそれと同じようなテンションでヤマトが
「今みんな職業を選択してるから
早くスイさんも始めちゃってよ。」
「はーい、今から起動させるから待っててー」
俺も皆と同じ様に起動させ職業選択の画面に飛んだ。
そこには様々な職業が並んでおり、どうやらここで職業を1つ選んで先に進むらしい。
「みんな職業何にした??」
「俺は戦士にした!!」
「あぁ、何となくお前は分かっていた。」
「スイってエスパーだったの!?」
「うるさい黙れ。」
俺とハルトがまたくだらない話をしてる 間に、ほかのみんなも職業を決めた。
「ナナさん、何にしましたぁ??」
「私はヒーラーですね。」
「昔から変わらずって感じですね〜
ナナさんがいるから安心して戦えるんですけど♪」
レモンは何処か嬉しそうに会話していた。
なんだかんだ言って新しいゲームができるのが嬉しいのだろう。
「レモンちゃんは何にしたんですか??」
「私は魔法使いです〜」
「レモンちゃんも相変わらずですね」
「やっぱり高火力&広範ですよぉ!!」
レモンのテンションが高い。そこまで楽しみにしてるのか。
なんか釣られてこっちまで楽しみになってくる。
「ユキさんは何にしたんですかぁ??」
「あー、自分はアサシンしにたわ。」
「あれ、女戦士は卒業したんですかぁ??」
「いや、自分、元々アサシンとかそういう系が良かったんよ
今やってるゲームには無かったからやってなかったけどなぁ」
「そうなんですねぇ!!」
ナナ、ユキ、レモンは俺達と出会う前から一緒だった。
初めはお互いにいい印象を持たなかった。
俺らがやってるゲームは2ヶ月に1回、日本サーバーで大会が繰り広げられる。
そこで毎回のようにナナ達に当たって、何度もお互いに激しい戦いをして来た。
そんなことを繰り返してるうちにパーティーのリーダーである、俺とナナがゲーム内で連絡を取るよになった。
それからというもの、お互いの実力を上げるために何度も練習したり、時には6人でパーティーを組んでダンジョンを攻略したりして、いつの間にか1つのパーティーとして動くようになっていたのだ。
俺も早く決めないと…
これ以上ハルトを待たせたら騒ぎ出しそうだ。
「ヤマトは何にしたの??」
「俺は騎士だね。
そういうスイさんは何にするの??」
「俺は錬金魔術師かなぁ」
そうやって俺らは職業を決め、次の画面に進んだ。
次の画面には
【新しい世界で冒険を始めよう!!】
と書かれたボタンしかなかった。
名前や姿、容姿を決められないらしく、初期で決められるのはここまでのようだ。
ここに来て拭いきれないクソゲー臭…
名前も決められないって流石にヤバすぎるだろ。早くもアンインストールしたいが、ここでハルトが引き下がるとも思えない。
「え、名前も決めてないんだけど良いんですかね。」
「まぁ、取り敢えずやってみようぜ!!
つまらなかったら消せばいいし!!」
ナナの不安をよそに、先に進もうとするハルト。やっぱり引き下がらない。戻ることを知らないハルト。
取り敢えず、みんなそれぞれボタンを押し、先に進み始めた。すると、ケータイの画面に
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こちらの世界を破棄し、あたら世界へ転生しますか??
Yes/No
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と書かれたダイアログボックスが出てきた。
「ねね、これみんなで同時に押さない!?」
「いいですねぇ!!みんなで同時に転生しましょう♪」
何故だかテンションの高いハルトとレモン。
たかだかゲーム、されどゲーム。
俺らは知らず知らずの内にどんなゲームなのだろうと心を踊らせていた。
これから何度後悔するかも分からないこの瞬間を。
「それじゃ、ハルト、カウントします!!
…⒊⒉⒈スタート!!」
ボタンを押した瞬間、強烈な眠気と怠けが襲ってきた。
「え、何??」
微かに残る意識をパソコンの方に向けると人がイスから落ちる音や、キーボードが落ちる音がした。多分皆自分と同じなのだろう。
俺は薄れていく意識の中何となくそう思った。
「なんだよ、これ…」
………こうして俺の意識は途切れた。
初めましての方は初めまして!!
お久しぶりの方はお久しぶりでございます!!
ご覧になって頂きありがとうございます。
だみぃです。
前書きで書いたように自分なりに修正をしてみました。
それでもまだまだ直すとこがあるかもしれません。
自分ではこれ以上気付くことができなくて…
もしよろしければ皆さんのお力をお貸しいただければと思います。
気になった事、直したほうがいいと思ったところなどありましたら教えていただければと思います。
よろしくお願いします!!m(_ _)m