来訪
見知らぬ少女に声をかけられた。
「お兄さん、助けてくれませんか?」
「???」
全身が疑問符で埋め尽くされたのは後にも先にもこの日だけだろう。
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ひとまず落ち着く為に行きつけの喫茶店に入った、はいいが
視界にはしたり顔で真正面に座る少女が映る。
「どうしているんだ」
「ここがあなたの溜まり場であるというのは聞いていますし」
伏し目がちにこちらを一瞥する。
「…話、聞いてくれるんですよね?」
ここがバレてるならお手上げである。方針を変えよう。
「マスター、コーヒー二つくれ」
「私苦いの苦手なんですよね、オレンジジュースでお願いします」
「…」
かなり図々しいものをお持ちのようで。このふてぶてしさは愚姉を思い出すな…
「さて」
少女がこほんと咳払いを一つ。
「話をしましょう」
「おー」
手早く済ませたいこちらとしては邪魔をする気もない。静かに耳を傾ける。話聞かないと帰ってくれなそうだし。
「詩楽といいます。国語の教科書に乗っている詩に楽歌隊の楽です」
「詩楽ね。絶妙にわかりづらいな」
どっかで聞いたことがないと一回での理解は難しそうだ。
「末永くお世話になりますから覚えておいて損はないですよ」
「不穏な響きはやめてくれ…」
「私は父1人母1人の典型的現代感溢れる家族の下で生まれました。馴れ初めはーー」
「待て待て待て待て待て」
「?」
「俺のとこを訪れた理由だけでいいから!!」
「はぁ…。相互理解の為必要かと思いましたが仕方ないですね、省略します」
「家にいるのが居たたまれなくなりました」
「そう…」
「もっと関心持ってくれても良くないですか!?」
「いや別に興味ないし」
「…これは…わさい……うのどら…」
「どうした?」
「いえ敵の想定が想像を越えていただけですのでお気になさらず」
「そうか。理由はもう話し終わったか?」
「えっ…そ、そうですね…」
中途半端に残っていたコーヒーを飲み干して、伝票を掴んで立ちあがる。
「じゃあ家行くか」
「誰のですか」
「俺の」
突然の急展開について頭が働いていないようだ。俺は口をポカンと開けた詩歌を置き去りにお金を払って店を出る。ドアにかけてある鐘が軽やかな音を鳴らし客を送り出す。沈みつつある夕日で街がキラキラと光る中、今日の晩飯だけが俺を燻らせていた。