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風の薫りは希望か否か

9話目

 朝が来た。来てしまった……もう、全くベッドから出たくない。全然ヤダ。この微睡みに溺れ、覚醒と睡眠、背徳感と焦燥感の狭間で永遠に揺蕩っていたい。


 そして、俺の細やかな幸せを奪う魔公爵の手下の悪魔が奇声と共にやって来る。それは逃げられないし、戦う事も出来ない。


 バンッ!!という衝撃音と共に俺の聖域に踏み込んで来る。悪魔は下界との隔たりをもたらす障壁を打ち砕いたのだ。


 そして、その時は訪れる。ドスッ!と言う音と共に俺の意識は内側から外側に強制的に引き摺り出されたのだ。



「おっきろディル~!」


 そう、そいつの名はフラン。魔公爵アルンの手下の木っ端悪魔だ。どの辺が悪魔かと言うと男を惑わす全開の胸元。悪魔って言うよりサキュバスだな完全に。


 先程のドスッってのは、掛け布団の上からフランがダイブしてきた音だ。全く痛くはないが、衝撃は来るので、微睡んでいた俺はめちゃくちゃビックリした。


 そんで、上に乗るフランを下から見て、別の意味で慌てて飛び起きる。普通に見ても凶悪な果実は、下から見上げるとそれはそれは、スンゴイものだった。凄いでは無いスンゴイだ。


 デカ過ぎて、フランの顔の殆どが見えなかった。俺の視界からだと、完全にのしかかってきたのはおっぱいだ。フラン恐ろしい子。


「朝からうるせぇぞフラン」

「え~こんなに可愛い子が起こしに来てあげたのに、そんな反応なの?つまんなーい」


 フランがぶーぶーと、膨れっ面で文句を言ってくる。


「どうせアルンの使いっ走りだろうが!」

「お~良く分かったね!ディルって占い師とかなの?」


 まるで俺が、未来予知でもしたみたいな言い草だが、フランが自主的に俺を起こしに来るなど有り得ない。なぜなら、中身が子供のフランが、率先して自分から面倒な事をする訳が無いからだ。


「斧と盾をぶん回してる占い師なんか居るわけないだろ。世界の何処かにはいるかも知れんが、少なくとも俺は見たことは無い」

「アハハ~ディルって面白いね~そんなのいるわけないじゃん!ディルっておバカさんなの?」


 キャハハハハと、笑うフランはとっても無邪気だが、テメェだけにはバカと言われるのは心外だ。侵害で心外だ。


「うっせバーカ」

「あ~!バカって言った!フランバカじゃないもん!ディルのが、バカ顔じゃん!バーカ!バーカ!」

「黙れ!どうせ栄養全部胸に行って脳ミソすっからかんだろうが!」

「うえぇぇぇ~ディルがアルンと同じこと言ってイジメるぅ~」


 アルンにも言われたのか、コイツ本当可哀想だな。いくらなんでも、悪魔将軍と同じセリフは可哀想なので謝ろう。それぐらいの慈悲は有る。俺は上位悪魔に魂を売った覚えは無いしな。


「あ~泣くなよ。俺が悪かったから。アルンと同じこと言ってごめんな」

「うぅ~うん」


 しょんぼりしているフランは、おっとり美女の見た目と相まって凄く可愛い。ずっとこうなら良いのに。


 そんな下心を抱えながら、フランを眺めていると、予見してたはずのヤツがすぐ背後まで来ていた。分かっていたはずなのに、逃げられない。


 ヤツだ。その名に相応しく、敵の逃亡を絶対に許さない。悪魔大将軍アルン公爵だ。


 彼女の氷の瞳と氷の刃と化す言葉は、その空間に存在する全てのものを凍てつかせる。


「……遅いから何かと思って来てみれば。……はぁ」


 止めろ。言い連ねられるよりもたった一つの溜め息の華は俺を容赦無く射殺す。


「お、おう。おはよう」

「えぇ。おはよう。おそようって感じだけれどね。フフッ……ねぇディル。ディル・バンディッドさん?窓から、太陽の位置を見てご覧なさい」


 太陽はもう直ぐ真上だ。後数刻もせずに、世界は正午を迎えるだろう。


「面目次第もございません」

「フランにもたぁっぷりお仕置きをしたのだけれど……フランよりも遅く起床されたディル・バンディッドさんは、どんなお仕置きをご希望なのかしら?」


 本当マジすんませんでした。勘弁して下さい。まだ死にたくないです。俺が必死に言い訳と謝罪を考えながら、どんな仕置きが待っているのかと戦々恐々としていたら。


「それより貴方、昨日の夜馬鹿みたいに食べて、飲んで居たけれど、本当にこんな時間まで寝ていて平気なの?」


 アルンは俺の懐事情を、覚えていた様で普通に心配された。別に強く罵られたい訳では無いが、純粋に自分を心配してくれる言葉は、自分に非がある場合、どんな罵詈雑言より効く。超辛い。泣きそう。


「いや、実はな……今日1日過ごしたらまた、すってんてんだ。逆さに振っても銅貨しか出ねぇ」

「侘しいはね」


 正しくその通りで、アルンの顔を直視出来ない。アルンが直死の魔眼を持っている訳では無い。


「では、今日も行くのでしょう?ついて行ってあげるから、支度しなさい。早くしないと日が暮れるまでに、明後日の宿代すら稼げないはよ?」

「スマン、感謝する。このでっかい子供連れて、1階の酒場で待っててくれ、直ぐ行く」


 私は子供じゃないんだからぁ~っと叫びながら、アルンに引きずられて行くフランの幼稚な罵倒をBGMに速攻で支度する。下手に待たせたら確実に見限られる。それは困るんだ。野垂れ死にはしたくない。


 だが、フランまだまだだな。そんな罵倒じゃアルンの千分の一も俺の心を削れ無いぜ。アルンはダイレクトに急所を狙ってくるから、もう少し手加減してくれても良いんだぜ。



 大急ぎで支度をして、1階の酒場まで降りた。俺以外は全員揃っているようだ。


「おはようございます!」


 この俺に唯一笑顔で、丁寧な言葉遣いで優しく接してくれる、慈悲を与える暖かさを持ったこの声の主は、天使ちゃんことコタリーだ。優しい妹が居たら多分こんな感じだ。


 今日も声の端々から元気が感じられる。今日も1日頑張るぜ。もう、半分過ぎてっけどな。悲しい。


「……ディル遅い」


 相変わらず抑揚の無い声だ、怒っているのか、窘めているのか、咎めているのか、呆れているのか、サッパリ分からない。


「おう。スマンな」


 声の主を見て俺は驚いた。そして、その理由はかの悪魔公基アルンが答えてくれた。


「どうかしら?今日もボサボサだったので、手を加えて見たのだけれど、なかなかの美少女じゃないかしら?勿論私には遠く及ばないのだけれども、人が女神と美しさを競う事自体が間違っているのだから、落ち込んだり気にしたりする必要は無いはミュー」


 ミューのボーイッシュさを存分に活かしながら、女性らしさを感じさせる素晴らしいヘアアレンジ&コーディネートだった。


「……その物言いは納得し難いが、コタリアにも褒められたので出来栄えは素直に嬉しい。どう?ディル」


 女性らしさを感じさせるミューは思った以上に可愛かったので素直に答えることにした。


「とても可愛いよ」

「……そう。ディルでも、男性の一意見として聞けば結構な価値がある……と思う」


 なるほどなるほど。つまり、俺本人の意見は割とどうでもいいってことですね。ド畜生。



「アルンさんに頼まれて、依頼探しておきましたよ!先日行った西ボア・モアの森でゴブリンが多く確認されているため、それの調査・討伐です。難易度は☆3で調査報告のみの場合は、銀貨5枚、原因の討伐は成功報酬で銀貨20枚です。依頼主は町長なので安心してくださいね!」


 おぉ。狙うは当然討伐だ。1人銀貨5枚で、ドロップ品の精算も考えれば、一人頭銀貨7枚はいくかもしれない。


「勿論受けるぜ!」


 今回はガッツリ稼げそうだ!


 期待に胸を膨らませ、未来に希望を見出した俺は、意気揚々と西の森へ進む。いかん。気を引き締めよう。


 油断は毒で、その毒は歴史に於ける多くの王や指導者を闇に葬って来た。1度蝕まれれば治療薬は無く、気付いた時には死という結果だけを残して新しい風の匂いと共に去りぬ。語るはただ詩人ばかり。


 浮かれた気分をねじ伏せた俺はゆっくりと扉の向う側へ歩み出した。

次回戦闘が終わったら普通に街中歩きたいな。

神殿(意味深)とか、なんかレアアイテム有りそうだし。


勇者じゃないから、樽も壺もクローゼットも調べないけどね。不法侵入はアカンです。

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