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パーティ結成

5話目

 長い沈黙。


 そんな沈黙の檻を破ったのは、そこに居なかったコタリーだ。掃除用具を、片付けに行っていたようだ。


「あれ?皆さん、どうかされたんですか?」

「あ、いや……」


 俺は、上手く言葉を紡げなかった。


「大したことじゃない。私の話をしただけ」


 ミューはそう言った。本当にそれだけだろうかと、訝しむのは邪推に他ならないはずだ……


 とりあえず沈黙は破られた。話を変えるならここだ。


「んあ~そういやアンタ達、冒険者になりに来たんだってな?」

「ええ」


 アルンが短く答える。


「ふ~ん。ミューちゃんが、自分の事話すなんて珍しいですね!じゃあ、登録しちゃいましょっか!」


 今は、コタリーの少女らしさがありがたい。


 登録しながら、ふと思い立ったように、コタリーが口を開いた。


「そういえば、なんでミューちゃん話そうと思ったんですか?」


 前言撤回。今はコタリーの無邪気さがうらめしい。恨みはないけどうらめしや。俺は静かにミューの返答を待ったが、俺とアルン達が予想だにしない返答が、返ってきたのだった。


「仲間に入れてもらおうと思って……アルン神官だから。」


 唐突な宣言に、コタリー以外の皆が固まった。絶句だ。五言絶句でもなく、ただただ絶句。実は必殺技っぽいと、思ったりしなくなくもない。なんかカッコよくね。いや、そうでもないか。


 俺達の疑問は、直ぐにコタリーによって解消された。


「そういえば、ミューちゃんも冒険者登録してましたね!あ!そうだ!どうせなら、ディルさんも入れてもらっては如何ですかパーティ!」


 ……は?


 いやいやいやいや、冗談キツイですぜコタリー姐さん。確かにパッと見は、銀髪ボーイッシュな顔立ちも悪くない女の子に、黒髪のとんでもなく美人な神官に、爆乳のエロエルフだ。傍から見れば垂涎(すいぜん)必死のパーティだ。


 だが、実態は違う。妖怪寝女に、毒舌王女に、馬鹿の構成だ。なるべく関わりたくない。


 駄菓子菓子☆良く考えて見て欲しい。全財産銅貨3枚で、今日中にパーティを組み依頼を受けなければ、俺は今日の昼から絶食野宿になる。


 ぶっちゃけ、Fランクのそれも討伐依頼以外だと、子供の小遣い稼ぎ程度だ。俺の食事量では、死ぬ気で頑張っても一食、良くて二食程にしかならない。


 だが、討伐依頼なら最低でも銀貨1枚だ。四人で割っても、一人銅貨25枚の計算になる。銅貨15枚も有れば、馬小屋で寝泊まり出来るし、石畳で寝れる俺も、屋根と壁は欲しいのだ。そして、馬小屋ならベットは無いが、何と藁がある。最高だぜ。


 万が一を考えると、此処で組まないという手は無い。……のだが、ミューは気にしないだろうが、アルンとフランにボロクソに言われる可能性が非常に高いし、なんならあの高飛車女に頭を下げたくないまである。


 よし。ここは少し上からいこう。ダメだったら縋る、全力で。プライドで腹は膨れないんだ。


「俺としては、お前らが良ければ入っても良いぞ?」


 どうだ?


「私は構わない寧ろ推奨。人龍族は少しの間だけだけど空を飛べる。純粋に戦力として優秀。それに女だけだと、テントの持ち運びは大変。でも、ディルの体躯なら5人用テントぐらいなら楽勝。もし、ディルが戦えなくてもポーターとしては合格点」


 これはミューだ。コイツ喋る時はすげぇ喋るな。流石に女の子に、こんなに持ち上げられるとこそばゆい。


「貞操の危機を感じるわ」


 これは勿論アルンだ。これは俺の信用云々じゃなく、女性なら致し方の無いことだろう。護衛依頼とか、長期依頼でパーティに異性が居ると、ずっとソイツと寝泊まりする訳だ。この不安は妥当。


「ん~でもさアルンちゃん。ゴブリンやオークに襲われた後食べられるより、ディルの方がまだマシじゃない?」


 俺が、見境無く襲う前提で話すのはフランだ。なんて失礼なヤツだとも思わなくは無いが、俺は聖人君子じゃないので、この容姿レベルの女性達に、何日も囲まれて何もしない自信は殆どない。


 あるヤツが居るなら、是非教えて欲しいぐらいだ。見境無くってこたぁ無いが、魔が差す事は十分に有り得る。


 そんなことを考えているとフランが続けた。


「それに女だけのパーティだと、侮られるってよく聞くしさ~報酬とかも女だからって難癖つけられて、ピンハネされちゃうかもだし~その点ディルを全面に出して交渉すれば、難癖なんてよっぽど勇気がなきゃ出来ないと思わない?」


 フランはアルンに護衛役として、交渉のカードの1枚としての有用性を説いた。


 確かに、アルン見たところは実利を取るタイプだ。リスクとリターンの計算で、リターンのが多いと見れば、受け入れるだろう。


「そうね。フランは私と依頼中にはぐれて、奴隷商にでも捕まったら性奴隷としての未来しか見えないものね」

「直接的だぁ!」


 アルンの容赦ない言葉を聞いて、フランは喚き出す。


「それに、いくら私が美しいからと言っても、ディルがモンスターより理性も知性も無い、と言うことは無いでしょうし……襲われるなら、確率的にフランが一番高いと思うから、万が一の時はディルがフランに、夢中になってるうちに逃げるは」


 フランには目もくれずに、俺にそう言い放った。


 おっそろしい女だな。コイツ本気で怖い。


「えぇ!?助けるフリでも良いから、希望を持たせてよ!」


 フランの抗議が、切実過ぎて泣けてきた。お前、流石にもうちょっと友達選べなかったの。それとも、アルンに洗脳されたのか。なんにしても、余りの容赦の無さに、コタリーの笑顔が引き攣っている。


「す、少しぐらい俺を信用してくれても、いいんじゃないの?」

「あら、ある意味信用してるわよ?事ある事に、フランの胸を凝視している貴方を」


 近年稀に見る、最低な信用のされ方だった。


 弁解させて欲しい。俺は悪くない。あんな軽装で、子供の様に全身を使って、感情を表現するフランが悪い。フランが何か感情を出す度に、アッチでバルンバルン、こっちでブルンブルンしていて、いつ溢れるのかとヒヤヒヤドキドキしている俺は、絶対に悪くない。


「ミュー。貴女はどうなのかしら?コレに襲われるかも知れないけれど、それでもいいの?」


 コレ扱いはやめて頂きたい。泣くぞコラ。


「私は前衛職だから、襲われても逃げる時間ぐらいは稼げる……はず。ディルは人龍族だから、私の膂力では倒しきることは、固くて無理。それでも、ディルの巨体で寝ている間に覆い被さられれば、絶対に抜け出せ無いので、心配するだけ無駄。そんなに貞操が心配なら、街でもそこそこ危険なので、教会に引きこもってるべき」


 ミューは元々孤児だっただけあり、現実がしっかり見えているようだ。


 勿論自衛は大事だが、女性冒険者がずっと貞操を気にかけて、ビクビクしていたらノイローゼになってしまう。


 モンスターに怯え、仲間にも気を張って、昼夜問わず身構えて居たら、間違えなく参ってしまう。だから、女性冒険者は多少不利益があったり、侮られたりしても、女性だけでパーティを組むことが多い。


「私は戦闘はからっきしだから、ディルはパーティじゃなくても襲われたら逃げれないし、諦めがつくと思うんだ~ね?アルン。逆に考えれば、可能性だけで荷物持ち兼肉盾が手に入るとしたら、安いほうじゃない?」

「そうね。リスクばかり追っていては、冒険者は出来なさそうね。人龍族はこの辺りでは珍しいし、近接戦闘に非常に適した種族だとも聞いているは」


 流石に、肉盾扱いは無いんじゃないの?と思いつつも口にはしない。何故なら、神官の宛が皆無だから。


 寧ろ、最硬たる龍の力を見せてやる。肉盾上等だコノヤロウ。


「では、パーティとして登録しても、よろしいですか?」


 コタリーはもう、その気の様だ。


「えぇ。お願いするは。それでいいかしら?」

「あぁ。よろしくな」

「……よろしく」

「あと1人欲しかったな~主に魔術師」


 そりゃあ、魔術師が居るのなら、それに越したことは無いが、居ないものはしょうがない。いつだって無い物ねだりだ。


「リーダーはどうしますか?」


 まあ、アルンだろうなと、ボーっとしていると。


「ディルで。交渉は私がメインでやるけれど、代表は男性の方がいいは」


 そういや、さっきそう言う話をしてたはずだ。なんとなく仕切ってるから、アルンがやるものだとばかり思ってた。


「リーダーなのに雑用係って、斬新だね!」


 フラン。お前は本当に、言わなくていい事しか言わないな。


 良く考えたら、会話が必要最低限のヤツと、一言余計なヤツと、余計な事しか喋らないヤツの構成辛いな。最早、パーティの存在がギャグだと言っていい。


 こうして、パーティはコタリーのお節介で結成され、俺は一抹どころか、十抹ぐらいの不安を抱えて盛大に肩を落としたのであった。

ただし、魔術師が足りない模様。

剣と魔法の世界なのに。

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