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誰しもが持ってる訳じゃない

4話目

「アルンちゃんそんな事言っちゃダメだよ!ごめんね?強面のお兄さん」


 こっちのエルフは鈴を転がした様な声なのに、どこか甘ったるさの残る不思議な響きだ。耳元で囁かれたら、ムラムラする感じだ。エロい。


「何よフラン。その脂肪の塊を視姦されて、欲情でもしたのかしら?」


 おいおい、本気かよこの生臭坊主基神官様はよぉ。


「え~アルンちゃん酷いよー!」


 このエルフのねーちゃん、大人っぽい美人なのに、喋り方が馬鹿っぽくって色々と台無しだな。


「私だって選ぶ権利ぐらいあるよー!」


 よし、コイツもブチのめす。絶対に許さない。


「お前ら、揃いも揃って失礼な奴等だな!」


 思わず口をついてしまった。だが、言われっぱなしは癪だゆるざん。


「あら?貴方まだ居たのね」


 さっきからずっと居ただろうがァァ。


「イケメンなら構ってあげたのにね!」


 こんのクソエルフシバキ倒す。


 はぁ……なんかもう心の中で突っ込むのも疲れた。このクソビッチ共目。目にもの見せてやる。


「テメェ等!!!」


 あんまりに頭に来たんで、龍の咆哮を乗せた。人龍族の種族特性の1つだ。自分より弱いヤツにフィア(恐怖)状態を一時的に付与することが出来る。


「えうぅ!?!」

「……」

「きゃぁぁ!!!」

「ひゃぁぁ!?!?」


 しまった。まさかの全員に効いてしまった。


 コタリーは涙目でコチラを見つめ。


 ミューは無言で白目をむいて。


 アルンとか言う神官は、尻餅をつき顔を青ざめ。


 フランとか言うエルフは、なんと泣きながら膝から崩れ落ち、失禁していた。


 大惨事だ。紛うことなき大惨事だ。幸いなのは、正面から龍の咆哮を受けなかった2人が、軽傷な事ぐらいだ。


 いくら頭に血が上ってたからと言って、これは無い。普通に純粋に最低だ……


「な、なによ……そんなに怒らなくたっていいじゃない」


 顔を青ざめたまま、目尻に涙を溜め、一生懸命コチラを睨んでくる絶世の美女。うん、正直すげぇいい。涙目なのも、尻餅をついて顔が真っ赤なのも、内股なのもグッとくる、俺のハートに一直線。やはり、見た目が良いのは狡いと思う。


「うえぇぇぇぇ~アルンちゃん怖いよ~私、私売られちゃうんだぁ~」


 フランは、人聞きの悪い事を言いながら大号泣だ。いくら俺が凶悪犯顔でも、その反応はあんまりだと思う。寧ろ、俺が泣きたい。因みに全くそんな気は無いが、エルフは森から出て来たがらないので、奴隷商に非常に高く売れる。勿論、そんなつもりは無い。


 ここがボロ宿で良かった。他に大勢居たら、間違えなく自警団か憲兵さんのお世話になるところだった。


 この状況だけ見れば、誰がどっからどう見ても、俺が悪者なのは確定だ。


「つ、強くいい過ぎたな悪かった……」


 次にどんな罵声が、アルンから飛んでくるかと思ったが、返ってきたのは意外な言葉だった。


「そ、その私も悪かったと思ってるわ……フランは全然言うこと聞いてくれないし、私達今日初めて、冒険者になろうと思って此処を訪れたの……不安と緊張と苛立ちで、初対面の貴方にキツく当たってしまったことは謝るわ。ごめんなさい。で、でも貴方だって悪いのよ!フランの胸を鼻の下を伸ばして、デレデレしながら凝視してると思ったら、私を見て固まるんだもの。しかも、その後全身を舐め回すように、じっくり観察されて怖かったんだから!」


 非常に申し訳ない。確かに初対面の、強面で背丈が自分の倍以上ある男に、ジロジロ見られて良い気のする女性は、まず居ないだろう。


 確かにあの罵倒は聞くに絶えないが、虚勢を張って身を守ろうとしてたのだと思うと、申し訳ないやら悲しいやら、今回は俺が悪いな。後、多分俺がイケメンだったら、見つめられた女性もほんのり顔が赤くなるだけで、好意的に済んだはずなのでイケメンは滅びればいいと思いました。まる。


 とりあえず、アルンの言い分を聞いたところで、フランにも声をかける。


「お、おい。あの……」

「ヒィィッ!!た、食べないでくださいぃ!美味しくないです!」


 いえ、非常に美味しそうです肉付きが良くて。何処とは言いませんけど。


「く、食わねぇよ!俺をなんだと思ってんだ!」

「う、売り飛ばしませんか?」

「約束しよう」

「破ったら怨むよ?」


 お、聞き辛い敬語じゃなくなったな、徐々にフィアが抜けてきたようだ。まあ、呪文じゃないし、そんなに効果時間が長くないからな。こんなもんだろう。


「責任とってよね!うぅ……もう、お嫁にいけない……」

「あぁ。責任を持って俺が床を掃除しよう」


 流石にこれは、俺が多少クソ野郎でも、弁解の余地がない。


「うぅ~アルン着替える~私の下着何処ぉ~」


 泣きながら、アルンに縋りつこうとするも。


「こっちに来ないでもらえるかしら?下着は多分荷物の一番下よ。お風呂に入るまで近付かないでね?絶対よ?」


 酷でぇ女だ。この神官。


「うわぁぁんアルンの鬼!悪魔!邪神官!」

「あら?私を貶めるのも許さないけれど、私の信仰する学神を辱めるのも赦さないわ。大体、学神の教え通り励まないから、貴女は馬鹿なのよ」

「ひ、人を貶める為だけの事実確認は良くないと思います!」

「うるさい。早くお風呂に入って来なさい」


 力関係が凄くよく分かる。悲しい程に。頑張れフラン……合掌。


「……驚いた」


 コタリーと一緒に、床をごっさごっさ掃除してると、ミューちゃんとやらの意識が、浅い所まで戻ってきた様だ。実に驚きを感じさせないその声に、俺は驚いた。


「よう?目覚めはどうだ?」

「極悪……」


 極悪ときたもんだ。最悪じゃないのかよ、なんだよ極悪って。顔か、意識が戻って最初に見たものが、俺の顔だからか。


 クソまじ許せねぇが、同じ轍は踏まない。俺ってば本気で賢いからな。


「不愉快……」

「なんでじゃ!」


 次は不愉快かよ、そろそろ泣くぞ本気で。


「アナタに好かれたい訳では無いけれど……アナタが私を見ても、さっきの2人の様な反応を見せないのは、私が女性らしさに欠けると、間接的に言われてるのと同じ」


 だから不愉快であると、彼女はそう言った。成程、感情表現が下手なのか。声の抑揚も表情の変化も無く、事前情報の男に間違われるのを気にしてるってのが無けりゃ、絶対にからかわれてると思ったな。彼女は怒るまで行かないも、確実に不機嫌だ。


 なんとか弁解しなければと思いつつも、時は戻らないのでリアクションについては、どうしようもないだろう。それに、言葉ってやつは重ねれば重ねる程嘘っぽい。


 空は明るいのに空気は白んでしまった。とりあえず何か言わないと、彼女の言葉を全肯定してるのと変わらない。何か言おう。


「えっと、いや、俺は好きだぜ?顔が良ければ誰でも」

「………………最低」


 確かに最低だった。褒めようと思ったのに、何故これを口にしたのか……時を刻む律動と、心音を刻む鼓動が交差した時。俺の思考は時空を超越する。


 ちょっとカッコいい風に適当な言葉を用いてみたが、あれだ、ようするに現実逃避だ。やだ、なにそのただの現実。




 沈黙が耳に痛い……そして、呆けてる俺は絶望的にカッコ悪い。絶望的だ。


 だ、誰でもいい。誰か来てくれ。この沈黙の帳を穿つ力を俺にくれ。


「アルンちゃ~ん!何処~?お風呂入ってきたよ!」


 よく来た馬鹿。実にナイスなタイミングだ。視界の端でアルンを探すと、カウンターの隅で、まるでそこが最初から彼女の指定席だったが如く、悠然と聖書に耽っている。


 声をかけることを躊躇う程の集中の壁を、うるさいフランは容赦なく破壊する。


「あ~居るなら返事してよ!」

「フラン」

「ん~なになに~」

「煩わしいわ」


 おう……正直鬱陶しいより、五月蝿いより酷でぇ気がする。

 鬱陶しいはまとわりつくなって感じだし、五月蝿いは声がうるさいって感じだが、煩わしいは存在ごと否定されてる感じがしてえげつない。


 お陰でフランは思いっ切りぶーたれている。


 だが、さっきの沈黙を見事に粉々にしてくれたお礼に、俺はフランに構ってやることにした。


「おいおい。流石に本を読んでる最中に、あれだけ騒いだら誰でも怒ると思うぜ?」


 まあ、じゃあ酒場で読むなよって話なんだが、ここは俺ら以外客がスーパーウルトラ無茶苦茶居ないので、例外ってことでひとつ。


「え~じゃあ、さっき脅かされたお詫びに構ってよ~」

「良いぜ俺はディルだ。ディルさんと呼べ」

「んーディルね~おっけー。フランちゃんは、フランちゃんだよ~ちゃん付けてくれないと、可愛くないからやだ」


 どうもこっちの話を聞く気がないので、意趣返しにこう呼ぶことにした。


「フランな。りょーかい」

「むー大人気なーい」


 不評だった。当然だった。


「……はぁ」


 深いため息が聞こえる。なんだと思うと、アルンがこっちを睨んでいた。


「貴方達、自己紹介もまともに出来ないのかしら……私はアルセイン・ネルフよ。長いからアルンでいいわ。余りよろしくするつもりは無いけれど、ビックリさせられた代わりに、エールでも奢ってもらおうかしら?」


 すっかり調子を取り戻したアルンは、それはもう可愛くない。続いてフランが言葉を発した。


「え~っと、フランソワーズ・アージェスだよ!フランちゃんって呼んでね!さっきも言ったけどね!チャームポイントはおっぱいかな~」


 そうだろうそうだろう。それだけ実に、豊か且つ艶やかなら自慢の逸品だろう。目の前のおっぱいについて、ジックリ考えジックリ観察していると、横から声が飛んできた。


「ミューはミュー。ミューだからミュー」

「貴女、家の名前ぐらい言ったらどうなの?それとも言う必要はないということかしら?」


 さっすがアルンさん。突っかかる突っかかる。それはもう誰彼構わずに。全然大人な対応じゃねー。ミューに至っては、喋り方で話すのが苦手って分かるだろうに。鬼かお前。


「孤児だから……」



 ミューはそう呟いた。吐いた言葉は戻せない。覆水は盆に返らない。アルンは非常に気まずそうな顔をしている。


「あ、あの……ごめんなさい。」

「いい。気にしてない」


 言葉は刃とはよく言ったもので、使用方法を誤れば容易く他人(ひと)も自分も傷付ける。


 まるで、ぬかるんだ雨上がりの後の泥の様な不快感が、空気を支配し俺はそっと瞑目した。

アルンちゃんはどうしても一言余計。

コタリーあんまりでなくてごめんね。コタリー可愛いよコタリー。

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