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出会いは必ず良いものとは限らない

3話目

「ディルさん、ありがとうございました!」


 あの後、酒樽が来てしっかり運んだ。そして、思い出したんだ。さっさと冒険者登録しよ。


「まあ、これぐらいじゃ準備運動にもならんな!」

「そうだ!ディルさん。冒険者に興味は有りませんか?腕っ節に自信が有りそうですし……お金が無いならどうでしょうか?」


 渡りに船とは、まさにこの事だな。ありがてぇ。


「俺も丁度、その話をしようとしてたんだ。詳しく頼む」


 結構長い説明だったが、コタリーによると


 1.Fランク又は☆1と呼ばれる特殊技能を必要としない採取、お使い、街中の手伝い等の依頼はソロでも受領可能。


 2.ランク、難易度に関わらずパーティでなければ討伐依頼と指名依頼は受領不可。


 3.パーティには最低1人以上の戦闘職、1人以上の回復職が居なければパーティとして登録出来ない。


 4.著しく登録した宿の名前又は、パーティ名を貶める行為の禁止。


 5.冒険者同士のトラブル、宿を介さない依頼の個人的受領、依頼で死亡又は重症を負う等のあらゆる事を自己責任とする。


 6.冒険者証の剥奪について、指名手配されている、連続で依頼の失敗、その他宿が不適切と判断し数回の注意と警告を無視した場合。


 7.自分のランク以上の依頼を、受ける事が可能である。


 と言うことらしい。マジか、ソロだと討伐出来ないのか……クソが。

 理由を尋ねると、至極真っ当な答えが返ってきた。


 一番死亡率が高いのが新人だから。中級冒険者でも、下位モンスターに数で攻められると、呆気なく死亡してしまうから。そもそも中級以上のモンスターを、ソロで倒せた例は殆ど無いから。だそうだ。


 俺が思ってるより、モンスターってヤツは危険らしい。金が有る時は、護衛雇ってたがアイツらそんなに強かったんだな……って言うか、通りでソロの冒険者を見ない訳だ。


 試しに、ソロは1人も居ないのかと聞いてみると、少しだが居るらしい。ソイツらは、特別枠と宿では呼んでるそうだ。一般には、特Sランクと呼ばれるんだと。


 5人以上の、お偉いさんの承認が居るそうだ。しかも、否を唱える者が、全体の2割以上居る場合は、認められないらしい。普通に無理だな。


「その、特Sとかいうヤツらは、どんなんだ?」

「本当かどうかは知りませんが、神と戦って勝ったとか、魔神を封印したとか、剣の1振りで山を砕いたとか、魔法で島1つを消し飛ばしたとかだそうです。正直、お伽話の類ですね」

「幼少の頃によく聞く、英雄譚そのままだな」

「今もお2方程名前を聞きますが、見た事も無いですし、本当に居るんですかね?」


 居たらいいなとは思うが、会ってみたいとは思わねぇな。得てして、飛び抜けてヤバイヤツは、大体頭もおかしいからな。


 登録はすげぇ簡単だった。名前と職業何が出来るかを書いただけ。思わずそんなんで良いのか問いかけたら、殆ど死亡確認の後の、登録削除ぐらいにしか使わないので問題無いそうだ。


 この冒険者証なんかこう、凄い魔法的な機能が有るのかと聞いたら……


「Cランク以下は魔力処理されて無いので、盗まれたりして悪用されたら、またFランクからですね!」


 と言われたので、冒険者というヤツは、マジで自己責任らしい。まあ、当然ちゃ当然なんだが。しかも、無くしたり、壊したりしても、再発行とやらは無いそうだ。思ったより大事な物で、ブルっちまったぜ。


 注意事項やら何やらを全て聞いたし、さっきから気になるアイツについて、聞いてみようかな。良く机に突っ伏して、長時間寝てられるな、なんだアイツ。


「さっきからずっと気になってたんだけどよ。あそこで突っ伏してる男は誰だ?」

「男?……あ、ミューちゃんですか?」


 ミューちゃん?年下なのか?


「ミューちゃんは女の子ですよ?」

「えっ?」

「え?」


 いやいや、嘘だろ。どう見たって男じゃねーか。その証拠に、全体的にちみっこなコタリーより胸が無い。正しく、すっとんとんだ。どっからどう見ても、線の細い男である。


「本当にか!?」

「流石に、女の子にそれは失礼だと思いますよ?」


 コタリーに思いっ切り、ジト目で見られている。ちょっといいかも知れない。違う。何とか俺の良いイメージを、取り戻さなければ。

 そんなんあったかな……


「ほ、ほら顔が見えないからよ!分かんなかったんだ!すまんすまん」

「本人も、よく男の子に間違われて落ち込んでるので、絶対言っちゃダメですよ?」

「分かった気を付ける」


 良かった。そんなに好感度は下がってなさそうだ。そもそも、あんのかよ、とか思わなくもない。


「んあ……うるさい……」


 机に突っ伏していた女の子?が起きた。起きたんだが、銀髪ショートカットと中性的な顔に無頓着な服装、それにも関わらず全く女性を感じさせない胸元は、ボーイッシュを通り越してどう見ても男の子である。寝起きで髪もボサボサだ。


 コタリーに聞いてなかったら、絶対に男だと思って接していた。数秒後前の俺マジ偉い。超偉い。超魔術的快挙。なんだよ魔術的って、使えねーよ。使えたことねーよ。そもそも人龍族は魔術適性低いんだよ。次いでに、俺は頭が非常によろしくないので、呪文を覚えられない。長いんだよあれ……


「ん?なあ、アンタその無表情っぷり人機族か?」

「ムッ……失礼……私は人族」


 嘘だろ、あんな無表情なヤツが人族だと。まあ、パッと見で人機族で無いのは分かるはずなんだが、それでも連想させる無表情っぷりだ。


 因みに人機族ってーのは、身体の大部分を古代魔術的機械なんちゃらかんちゃらがどうのこうので、俗に言う人造人族だ。


 身体の殆どが機械だが、超魔術的処置により人族とも生殖が可能……らしい。試した事がないので知らない。だって人族じゃないし俺。


 ……魔術的処置が施されて居るため、一般的にはルーンと呼ばれている。魔力で動いており、呪文が施されているのでルーン。覚えやすい。普通に食事でエネルギーを補充出来るらしい。古代魔術すげぇ。


「おう。そいつぁ悪かったな」

「いい。どこからどう見ても人族なのに、よく間違われる……不思議?」


 喋り方も人機族的な抑揚が少なくて、感情の起伏を感じ取り辛い。どこからどう見ても、人機族だと言ってやりたい。言ったら間違えなく、逆鱗に触れるのは話からして明らかだし、気を付けよう。


 と、俺がミューちゃんとやらの逆鱗を確認して、決意を固めてると宿の扉が開いた。そりゃ扉なんだから開くだろう。そうじゃない。


 客らしき人が入って来た。時間はもう、普通に朝と呼んで差し支えない時間だ。客ぐらい来るさと思っていた、次の言葉を聞くまでは。


「え!?もしかしてお客さんですか!?!?」


 この声の主はもちろん、この店唯一の店員コタリーこと、コーガ・タタリアさんだ。


 いやいや、待ってくださいよコタリーさんや。なんで客が来たことに驚いてるんですかねぇ……


 1階は酒場、2階は宿屋それが冒険者の宿の、基本的な形じゃないですかー。そりゃお客さん来るでしょ……来ないんだ。来ないんですね……その反応を見る限り…………



 いや、知ってたよ?冒険者の宿は大きな店だと、24時間どんな時間帯の、なんの日で有ろうと人が多いって。事実、前の大きな街でも、いつ見ても冒険者の宿は人が多く、活気に満ち溢れていた。


 客が来たことに驚くコタリーを見て、薄々感づいてはいたんだが……多分この店経営がヤバイ。間違えない。後、関係無いけど俺は薄くない、親父も薄くない、モーマンタイ。


「いや、客ぐらい来るだろ……」


 と言いつつ、客の方を向くと俺はその後、コタリーに反応を返すことは無かった。


 見蕩れて、見惚れていたからだ。扉をくぐった2人の来訪者に。


 1人は人森族の女。俗に言うエルフだ。長寿と死の直前まで美しく、若々しい肉体を持つことで有名な種族だ。そして、エルフの女性は種族特徴と言ってもいい程、極一部が平坦な事が知られている。


 事実、彼女のエルフ特有の金髪と耳を見なければ、エルフと分からなかっただろう。


 何故ならこのエルフ、極一部が圧倒的質量を誇って、俺の視線を掴んで離さない。圧倒的だ。今まで見てきた女性の中で、文句無しに一番デカイ。


 しかもエルフなので、形が整ってるのが確定情報だ。絶対的にして圧倒的な彼女のそれは、神々しささえ感じさせる程の破壊力だ。


 あれに抗える男性諸君らはいない。顔もおっとり顔の美人で、装甲の厚さも合わさり最強に見える。子供の頃にすれ違えば、間違えなく初恋のおねーさんだ。


 何より危険なのが、エルフは軽装を好むため、その暴力的なまでの胸元が、惜しげもなく晒されていることだろう。アレはヤバイ。エルフの連れが後から入ってこなければ、脳が沸騰していた。



 もう1人の女性。神官服と静謐な空気を身に纏った、その黒髪の女性を見た瞬間、周りの音は遠くに聞こえ、まるで時が止まった様だった。1分だろうか1秒だろうか、一瞬にも永遠にも感じられる。彼女は、瞬きすらも惜しませる美しさを持っていた。


 スタイルも非常に整っており、あのエルフが隣に居て尚、劣ることなく、寧ろ勝る程の洗礼された美しさ。


 一目惚れだ。完全に確信した。


 エルフでも特別なエルフが居ると、聞いたことがあるが、それだろうか。いや、上位のエルフは森から絶対に出てこない。事実、数百年上位のエルフは確認されていない。ならば普通のエルフだろうか。


 だが、有る事実が俺を驚愕へと突き落とす。そう、彼女の耳は尖ってい無いのだ。それは彼女が人族であることを、如実に証明していた。


 時を忘却の彼方へと置き去りにした俺は、その彼女が俺に声をかけるまでずっと凝視してしまっていたようだ。


「なにかしら?ジロジロと不躾だわ」


 綺麗な声だ。楽器の調べの様な美しさ。一度聴いたらもう、この声を忘れることは無いだろう。そして、彼女の纏う静謐さとは裏腹に、非常に苛烈で刺々しいその音は、俺の心を深く抉った。


 冒険者に尻を撫でられた、酒場のねーちゃん達だって、本人を目の前に、ここまで露骨に声と顔に嫌悪感を示したりしない。


「聞いてるのかしら?それとも、聞こえているけどそれを理解出来るだけの脳が無いのかしら?それだったら私が悪いわね。ごめんなさい」


 嘲笑。目に余る程の嘲笑。


 分かった、分かってしまった。この女アレだ自分の容姿をモロに鼻に掛けるタイプだ。見た目詐欺だ。喋らなければ、神官服と静謐さを身に纏った正に聖女。


 だが、これ。口を開けばこれ。確かにジロジロ見てた俺が悪いのは仕方ない、それは、謝る。


 でも、初対面の一言すら言葉を交わした事の無い人に、ここまで痛烈な罵声を浴びせられる人が居るだろうか……


 詐欺だ。俺の一目惚れを返して欲しい。一瞬運命の人かと思うぐらいには、強烈で鮮烈な一目惚れだった分落差が酷い。金に切羽詰まった状況じゃ無ければ、1年ぐらい引きこもってるほどのショックだ。


「あ、あぁ。すまん」


 何とか言葉を絞り出したぞ。さて、どうくる。


「すまん?それが謝罪の言葉のつもりなのかしら?それに貴方は何に対して謝罪をしたのかしら、訳も分からず謝ったの?自分が謝った理由すら分からないのかしら?デカイ図体なのに頭は空っぽなのね」


 こんのぉあまぁ、絶対泣かしちゃる。人が下でに出てれば好き放題言いやがって。


 一目惚れとほぼ同時に失恋した俺は、深く深く復讐(嫌がらせ)を誓った。





エルフちゃんの方まだ一言も喋ってねーな。

罵声を浴びせてる子もいい子なんですよ?多分。

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