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交易都市『シシュ・リーン』

29話目

「よく来たな」


 中に入ると俺の三分の二ぐらいの厳ついオッサンが無愛想に迎えてくれた。全然嬉しくない。人族にしては大分デカイしな。

 隣にセレーネさんという清涼剤が無かったら暑苦しさとむさ苦しさで息絶えるところだった。あ、後ついでにフランな。


「生命の巨人の豪斧亭か。名前が荒々しいな」

「ディルみた〜い」


 ぷぷ〜ってわざわざ声に出して笑いやがった。頭の上から叩き落としてやろうか。てか、降りろよ。頭の上に乗せながら扉くぐるの大変なんだぞ。


「おい、カウンターで騒ぐんじゃねぇ」

「す、すみません」

「悪かったなオヤジ」

「うえ~ごめんね?」

「まあいい。それで、大部屋なら銀貨1枚個室なら銀貨1枚と銅貨10枚だ。2~3人部屋は銀貨1枚に銅貨5枚だぞ」


 2~3人部屋があるのか、名前の割にちょっといい宿だな。安宿は雑魚寝部屋か個室の二択しかないからな。食事も期待できそうだ。


「ここにするか」

「は~い!」

「部屋割りはどうするんですか」

「オヤジ。個室2つと、2~3人部屋1つに馬車の馬の世話を頼みたいんだが」

「あぁ。問題ないぞ。じゃあ、銀貨4枚に銅貨10枚だな。朝食付きだ。出された量じゃアンタはたらんだろうから、追加はその都度金をもらうぞ」

「了解だ。『月華氷焔の盾』で頼む」

「あんたら冒険者か。お前さん以外はそうは見えんがね」

「こっちの2人は戦わないからな」

「ほう。やるねぇ」


 こっちの二人完全に俺の所有だと思われてんな。まあいいか。弁解も変だし、オッサンがニヤニヤして邪推してるだけで、実害は無いからな。


 いい宿がなけりゃ、ちょっとメイン通りを外れた方も見てみるつもりだったが、馬車置いてくる必要なかったな。オッサンに馬車を取ってくると告げて店を後にした。


「ねぇ、ディル?ディルって私たちと一緒に寝るの?」

「いや、んなわけ無いだろ。だから個室二部屋とったじゃねーか。流石の俺もそれぐらいは弁えてるぞ」


 だって、こいつらと同じ部屋だったら、夜抜け出して娼館行きづらいからな。物理的にはいけるけど、精神的に楽かどうかってすごい大事だしよぉ。


「ヤダな~ディル。個室はアルンが使うに決まってんじゃん!」

「そこまでか!流石アルンだな。いや、いいけどよ」

「私が皆さんと寝ましょうか」

「2~3人部屋にアルン、フラン、シェーネ、ミューを詰めるつもりだったから狭いですぜ」

「でも、その狭いところにアルンさんじゃなくて、ディルさんが入るんですよね……」

「……。」

「……。」

「もう、ひと部屋取るか」

「ディルそんなにお金あるの?」

「無い。いや、待ってくれ。なんで俺が一人部屋をアルンに明け渡す前提なんだ!」

「でも、明け渡さなかったら、アルンが思いつく限りの罵詈雑言が飛んでくるよ。しかも、旅の間中」

「何言ってんだフラン。喜んで明け渡すに決まってんだろ」


 今日も手のひら返しが熱い。

 俺ぁそんなのはゴメンだ。もっと、気ままな旅がいい。アイツ若しかして、一日に人を罵倒するノルマがあってそれを達成しないと眠れない呪いにでもかかってるんじゃね?ってぐらい挨拶がわりに罵倒してくるからね。因みに被害者は俺とフラン限定。


 …………明らかに人選んでやがる!許せん。とか思ったけど、相手が誰でも、ほぼ躊躇なく罵倒するから、そんなことないかも知れん。


 固有技能:罵る:Lv.MAXとかありそう。いやそんなねーけど。


 っと、そろそろ門前に着くな。


「あら、お帰りなさい」

「あぁ!アルンだぁ」

「アルンさんお帰りなさい」

「えぇ、ありがとう。それで、宿探しデートは楽しかったかしら、エセドラゴンさん」

「喧しい。誰がエセドラゴンだ。お前がいれば宿さがしもっと楽だったのに。いったいどこで何してたんだよ」

「冒険者ギルドで新種のモンスターの登録申請をしてたのよ。山のような書類だったれど、私が宿を探してる間に、代わりにやっておいてくれるつもりだったのかしら。とても小さい文字が敷き詰められていて、読むだけでもすごく疲れたわ。街に着いてから直ぐ冒険者の宿に行って書類作成をして、つい先ほど戻ってきたところなのだけれど、私でもこれだけ時間がかかったものを貴方が処理したら、一体どれだけ膨大な時間がかかるのでしょうね」

「すみませんでしたアルン様。誠にありがとうございます」


 俺なら耐え切れず一枚目で破いて暴れてたはずだ。普通に無理。真面目に書けたとして、読むだけで一月かかるな。

 フランは俺と同じだし、ミューは確実に途中で寝る。一見シェーネは良さそうに見えるが、エレメンタルヒューマなのでダメだ。シェーネは言うなれば所属が違うので、書類を受け付けられない。アルンが言ってた通り、全ての精霊族・半精霊族は、精霊王に帰する。が、鉄則だからな。破ったら大変なことになる。要するに、アルンしか適任がいないのだ。


「それで宿はどうなのかしら?」

「生命の巨人の豪斧亭だ」

「名前からしてダメね」

「見る前からダメ出しとか横暴すぎんだろ」

「では、ディルが選んだ時点でダメね」

「おい!」

「とにかく向かいましょうか」


 わがまま姫は虐げるのがお好き。たまったもんじゃねーな。いや、このパーティアルンだけで保ってると言っても過言じゃないから逆らえんけど。シェーネがいるから大丈夫そうにも見えるが、魔術師だけあって知識が偏りすぎてるんだよなぁ。故に頭脳労働はアルンが全て請け負ってるからな、多少の我儘や暴言は可愛いもんだぜ。


「それで部屋は?」

「個室2つと、2~3人部屋1つだ」

「貴方野宿でもするのかしら。せっかく街にいるのだから、宿ぐらい取っても許されると思うわ」


 予想の斜め上だった。雪女だってもう少し暖かい心を持ってるってーの。許せんので、後でこっそり水浴びを覗こう。制裁じゃ制裁。


「アルンが一人部屋を俺に譲ってくれれば解決なんだが?」

「嫌よ」

「即答かよ。慈悲はないのか」

「……ディルに、慈悲かけるぐらいだったら、パンにつける」

「起きたと思ったら開口一番がそれかよ」

「ミューも良い事を言うのね。感動したわ」


 いや、めちゃくちゃ無感動だろ。アルンの言葉から、感動の片鱗が毛ほども感じ取れねぇんだけど。


「ミューさんも、たまにフランさんみたいなこといいますよね」

「あれぇ!?フランまさか、セレーネちゃんにまで、おバカさんだと思われてるの!」

「大丈夫。皆そう思ってるから」

「シェーネ酷い!」

「事実なんだよなぁ……。悲しいほどに」


 セレーネさんも認める程の、馬鹿代表って逆に凄くね?フランマジで馬鹿の才能有るよ。馬鹿に才能が必要か知らんけどな。


「悲し過ぎるよ!もっと私に優しくしてよぉ!」

「.....無理」

「却下」

「嫌よ」

「無いな」

「.....アハハ」

「セレーネちゃんノータッチなの!?ノータッチなのぉぉぉ!?」

「そんな事より、早く進んでもらえるかしら。疲れたのだけど」

「いや、お前もう俺に乗ってるじゃねーか。どうせ宿の中すら俺に乗って移動する気なんだろ」

「そうよ?」


 当然でしょ?そんな事も分からないから、貴方はいつまで経っても馬鹿なのよ。貴方乗り物癖に何言ってるの。頭を使いなさい。その耳は飾りなら、切り落として売った方が余程良いのではないかしら。って聞こえる「そうよ?」って凄くね。

 ここまで酷いと、寧ろ愛を感じるレベル。若しかしたらアルンは俺を愛している.....?うん。自分で言ってて無いなって思った。

 アルンに悟られたら、心の距離が世界の反対側まで行くこと確実だな。


「さて、ここが生命の巨人の豪斧亭だ」

「.....眠い」

「貴方ずっと寝てたでしょ」

「ディルが選んだにしては良い所ね。強いて言うならディルが減点してるかしら」

「俺の存在自体がマイナスに振り切ってると言いたいのか」

「よくわかってるじゃない。偉いわね。頭撫でてあげましょうか」

「いらんいらん。止せ、小っ恥ずかしい」

「あの、ディルさん」

「どうしましたかセレーネさん」

「フランさんが居ないようなんですけど」


 そういや、馬車で頭から降ろしてから見てない気がする。


 あれ?不味くないか。


「エールのエール割とかねぇかな」

「それエールじゃない」

「そうだな」

「馬鹿なの」

「それ以外に見えるか」

「私が悪かったわ」

「分かればいいんだよ」

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