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特殊個体

27話目

「ねぇ〜ディル〜なんでディルの頭の毛って、そんなに硬いの?」


 陽気から解放されたのか、フランが起き抜けに、しょうもない事を聞いてきた。


「短い硬い毛が集まって鱗っぽくなってる所と、硬い鱗の所が有るんだけどよ、その毛が集まって硬くなってる方だからだな。早々抜けんぞ」


 人龍族は防御特化なんだ。昔鱗と毛の所が違う詳しい理由を、村で唯一頭の良いオババから、聞いた気がするんだが忘れた。


 ほへ〜等と言っていて、強い興味は無さそうだ。暇だよな御者ってないと。


「あっ!村見えてきたよ!」


 今回は、俺にもちゃんと見える。


「フラン、全員起こしといてくれ」

「は〜い!」


 しっかしこいつら、良くあんな硬い場所で寝れるな。まあ、中見てないから、起きてた可能性が、ない事もないけどな。無いな。





 さて、無事に村に着いた訳だが……

 何するか忘れたので、アルンに聞いてこよう。


「お〜い、アル〜ン!」

「何かしら?井戸なら村の中央に有るわよ」

「見りゃわかる。水だけでいいんだっけか?」

「そうね。お願いするわ」

「食い物も売って欲しいし、村長の所に行かないか?」

「そう、じゃあ行きましょうか」


 それに勝手に汲んじゃダメだろ。多分怒られるしな。

 取り敢えず、こういう時は、その辺に歩いてる奴を捕まえてだな…...……


「おい。そこのお前、止まれ」

「な、なんでしょうか?」

「ちょっと!村の人脅かさないでよ」


 そんなつもりは無かったんだがな。だってほら、俺ってば超常識龍だし?常識に"超"って付けちゃう辺りが、非常識っぽいよな。


 村人その1が、俺とアルンを交互に見ている。関係性が理解できないっぽいな。仕方ないか。

 俺とパーティメンバーの、誰か一人の組み合わせだと、美女と野獣、人攫いとお嬢さんだもんな。


「申し訳ございませんわ。この無駄にデッカイのは、私の護衛ですので、おきになさらないで」

「あぁ、成程。それで、何か御用で?」


 護衛とお嬢様ってのも有るのか。今度からは、全部それで通そう。アルンが、冒険者に見えることはまず無いし、いい設定だな。


「村長さんに、お会いしたいのだけれど」

「案内しますよ」

「親切にしていただいて、有難く存じますわ」


 丁寧に話してるの、似合いまくってんな。まあ、本物だもんな、一応。普段の毒舌っぷりからは、逆に信じられないけどな。寧ろ不気味なまである。


 小さな村だったので、割と直ぐに着いた。アルンが直接ってのも変なので、アルンから俺経由で、銀貨を一枚渡し手間賃にしたが、破格だな。


「私がハイラ村の村長をしておる者です。なんでも、お話が有るとか」


 周りより、少しだけ大きい家から、爺さんが出てきた。


「水を補給させていただきたくて、村に寄らせていただきました。井戸を使ってもよろしいかしら?」

「ええ。使っていただいて構いませんよ」


 井戸は知らない人間が、勝手に使ってるとかじゃなければ、こんなもんか。


「後、蓄えがあればで良いのですが、少し売っていただけないかしら」

「申し訳ない、旅のお方。見ての通り小さな村でして」


 やっぱダメか。保存食は、なるべくなら、食いたくないんだけどな。


「ふむ。そちらは護衛のお方ですかな?」


 おっと、俺の方に来た。アルンに投げっぱで楽してたのに。


「はい、私の護衛でございます」

「もし、どうしてもと仰るので有れば、お譲りしても構わないのですが、1つお願いを聞いてはいただけませんかな」


 絶対、面倒事を押し付けられるパターンだろ。俺は嫌だぞ。


「妹にも聞いてみませんと」

「おや、まだお連れ様が居るのですかな」

「えぇ」

「では、皆さんを連れて来てはいただけませんかな。お願い申し上げたい事がございまして……」


 話聞く流れなのな。まあ、保存食ミュー以外には、大ブーイングだったもんな。ミューも微妙な顔してた気もするが、いつも同じ顔してるしな…...。




 村での設定と、話を皆に伝えて、再度村長の家に、全員戻ってきた。

 セレーネさんが妹なのは、無理が有るんじゃないかとも思ったが、貴族なら異母兄弟が何人居ても、何も不思議じゃないな。


「ほお!見目麗しい方がこんなにも。……失礼。この村の、村長をやらせていただいとる者です」

「お嬢様達の護衛を務めているディル・バンディッドだ。同じく右からフラン・ミュー・シェーネ。お嬢様達の紹介は、護衛の都合上控えさせていただきたい」

「これは、ご丁寧に。いえいえ、構いませんとも」

「お気遣い頂き感謝します」

「それで…………」




 村長の話を一言で纏めると「魔物退治」だった。




 少し離れた場所で、話し合いをさせてもらうことにした。流石に、村長の目の前で、やる勇気は無い。


「セレーネさん。どうしたいかしら」


 護衛依頼の観点からすると、保存食で我慢して欲しいんだが。依頼人連れて、わざわざ魔物(危険)に突っ込むとか、頭おかしいだろ。


「ディルさん!その、助けてあげてもらえませんか?危険なのは、分かっているのですけど…...」


 ん〜護衛としては、キッパリ断るべきなんだが、村長の話を聞く限りだと、強くてゴブリンとボガート辺りだろう。大した敵じゃない。

 俺が三人を庇う体制から全く動かなくても、ミューとシェーネだけで倒せるだろう。


 道中の擬態するモンスターみたいに、対応を間違えると不味いとかじゃない限り、なるべく依頼主の意思を尊重したい。


 俺的にはNO一択なんだがなぁ。


「ディル。ちょっといいかしら」

「おう」


 皆大好き耳打ちだ。女の子二人に、目の前でやられると傷付くよな!


「時間的に、この村か村から少し行った先で、今日は寝ることになると思うの」

「村に入った時の陽の位置を考えるとそうだな」

「なら、どの道遭遇する可能性が高いのではないかしら。どうせ戦うなら、恩を売っておいて損は無いと思うのだけれど」

「お前ら……本当にお人好しだよな」


 ほい。こしょこしょ話終わり。


「私が倒せないと判断したら、即撤退。これだけ守ってくれれば、構わないわ」

「分かりました!お願いします!」

「お前らはどーだ?」


 俺の様な、模範的で素敵で格好良いリーダーは、ちゃんと全員の承諾を得てから動くんだよ。草むしり?いや、そんな指名依頼は無かった。


「アルンいいならいいよぉ〜」

「自主性ゼロかよ」

「……眠い。なんでもいい。私の敵じゃ無さそうなら頑張る」

「護衛依頼だから、相手が強敵な程頑張ってくれ」

「……やれと言われればやる」

「た、頼む」

「依頼主とリーダーがいいなら良いわよ!」

「あれ、お前もしかして良い奴なの?」

「燃やすわよ?」

「スマン」


 満場一致で受けることになるとはな。

 アルンの言う通り、可能性を考えれば、先に潰せるのは有難い……か。


 モンスターの大半は、暗視を持ってるからか、黄昏時から活発に活動しだすからな。


 それに慣れないテントと、夜の交代で行う見張りで、思いの外消耗してるだろうから、全員一度に纏まった休息を取れるのも嬉しい。

 村長も、冒険者に頼むだけの金が無いから、俺らに頼んだんだろうし、泊めてくれと言われれば断れないだろ。


「おっと、そうだ。今回は追撃も、捜索もしない。いいな」

「そうね。依頼内容と報酬を考えると、報酬が全く釣り合ってないもの。仕方ないと思うわ」

「で、でもそれって、村の人達は困るんじゃ」

「勘弁してくれシェーネ。俺らは慈善団体じゃねーんだ」

「そうね。ごめんなさい」

「はいはーい!なんで、冒険者だって言わなかったの?」

「流石フランね。ディルですら分かることが、分からないなんて!」

「うえぇぇ!?」


 疑問の表情を浮かべながら、驚けるとか器用だな。


「ここが、冒険者の居る街から遠い、辺境なら良かったんだがな」

「明確な規約違反では無いけれど、流石にこの距離で、冒険者ギルドに話を通さずに、依頼を受けたと知れたらどう思われるかしら」

「え〜コタリアちゃんなら、怒らないと思うよ?」

「ちっげぇよ!問題は俺らが、新人の仕事を奪ってる事と、ギルドを通さない依頼は推奨されて無いことだよ!」

「それと知れれば、忘却と驚愕の尻尾亭以外のギルドと冒険者達も、いい顔はしないでしょうね」

「うぅ、意外に夢がない……」


 それは俺も思う。冒険者って聞くと、秘境を見つけたり、最難関ダンジョンをクリアして、名声を浴びたりってイメージだもんな。


 魔王を倒す者=勇者みたいなもんだろう。


 まあ、実際の冒険者なんてのは、ただのその日暮らしが大半だけどな。冒険譚に出てくる様なのは、本当に上位の三パーティか四パーティぐらいなもんだ。


 受ける方向で纏まったので、村長に言ってやらないとな。


「村長!」

「おぉ。受けていただけますかな」

「お嬢様達は、受けてもいいと言っている。しかし、俺達は冒険者でも無いし、お嬢様方の安全が最優先なので、追い払うだけだ。それでもいいか?」

「えぇ、十分ですとも。強い者が居ると分かれば、あの手のモンスターは、少しの間襲って来なくなりますからな。追い払っていただけるだけでも、本当にありがたい」

「モンスターが来るのは夜だな?」

「夕暮れ時から夜にかけて、遅い時間なのは確かですな」

「では、一晩宿を提供してもらえるか」

「小さな村でして、旅人の為の宿はありませんで、私の粗末な家でよろしければ」

「感謝する」



 ―――――――――――――――――――――――



「おい、モンスターが来たぞ!逃げろ!」


 屋根の上に居る青年が叫んだ。


 ようやく出たか。待ちくたびれたぜ。


「いくぞ!」


 よしよし。ちゃんと村に入る手前で抑えられた。


「コボルト4!ゴブリン3!」

「楽勝ね」

「あの、ちょっと大きい赤いコボルトがボスだよね?」


 ……は?ちょっと待て。赤いコボルトなんて、見た事も聞いたこともねーぞ!


 思わず、アルンの方に向いてた意識と首を、強制的に正面に戻してしまった。


「おい、アルン!大丈夫なんだろうな!あの赤いの!」

「私も知らないから変異種だと思うけれど、ステータス的には、☆3に届かない程度よ」

「はぁ!?何それ、聞いてない!っていうか、ギルドへの報告案件じゃない!」

「シェーネ。変異種なら、強いのが居てもおかしく無いんじゃないか?」

「違うわ!コボルトで有る限りは、☆1の範囲内でしか強さは上下しないはずよ。ねぇ、アルン本当にただのコボルトなの、ハイコボルトとか、コボルトリーダーじゃなくて?」


 どうやら、一大事らしいが、そんなに強くないんだろ?何をそんなに慌ててるんだ。


「鑑定では、コボルトよ」

「そうか、同系列のモンスターでも、強いのや、進化したのは、別の種類として呼ぶもんな」

「ね〜もしかして、名前付きとかじゃないの?」

「ネームドのコボルトなんて、聞いたことないし、居たらギルドで注意喚起があると思うけど」

「って事は、変異種じゃなくて、特殊個体って事ね」


 それ、なんか違うの?


「???ん〜?何が違うのぉ?」


 アチャー。やっぱ俺はフランと同レベルか。


「変異種で更に特殊個体だと思うんだけど」

「アルンとシェーネは何言ってんだ。取り敢えず、議論は後にしてくれ。死ぬまで殴れば死ぬんだろ?」

「まあ、そうだけど」

「それと強さが分かってんなら、何だろうと関係無いだろ」

「いや、だからね。意外に大問題なのよ!」

「あー!もう、うるせぇ!倒してから考えろ!アルン指示よこせ!」

「ディル、龍の咆哮!シェーネ、コボルトに向けて、ファイアアロー!ミュー、咆哮終わると同時にゴブリンにダッシュ!フラン、赤いのの動きに注視して!」


 思考に没入してる状態から、一瞬で戻ってこれるとか流石だな。


「うおぉらぁぁ!!」


 咆哮が終わるとほぼ同時に、ミューが飛び出す。相手を釘付けに出来るのは、楽でいい。


 なぁ!?!赤いコボルト突っ込んで来やがった!


 おいおい、俺の咆哮が効かないって事は俺と同等の強さか、知能が高いって事か。コボルトだぞ、嘘だろ!?


 明らかに後衛を狙ってる動きだ。確かにコボルトよりは強いが俺には届かない、頭が良いから効かなかったんだな。


「おい!コイツは抑えとくから、早く周りの雑魚を殺せ!」

「炎の精よ、敵を貫け!『ファイアアロー』」


 通常の☆1コボルトは一撃で倒れた。残り二匹のコボルトは慌てて逃げてったな。咆哮じゃ恐怖状態が短過ぎたか。……とか、言ってる場合じゃない。


 赤コボルトの野郎、人間の剣士みたいな動きしやがる。どうにかテクニックで俺を抜いて、後衛を叩こうって気がバンバン伝わってくる。


 おいおい。この犬モドキ、俺よりめちゃくちゃ頭いいぞ。


 俺は得物的に、大振りなのは仕方ないが、コボルトに当てられない程じゃないはずだ。

 俺の動きを読んで、的確にフェイントと、攻撃を織り交ぜてきやがる。何でこんなに戦い慣れてんだよ。


「コボルト如きが、人龍様なめんじゃねぇぞ!」


 くっそ、くっそ!俺の体で、上手く魔法の射線を外してきやがる。シェーネが後ろで「あー!もう!」って叫んでるからな。


 シェーネが無理に射線を確保しようとして、前に出てこないでくれて良かった。赤いのが上手く反転して、シェーネに行ったら、俺じゃ追い付けないからな。


「……お待たせ」

「ミュー!助かる。コイツやたらと器用だから、俺の背後から上手く当ててくれ!」

「……面倒、けど、分かった」

「ディル、そいつを一撃で倒せるだけの攻撃をして!ミューは敵の側面から突いて、ディルが振った斧に敵回避を無理矢理合わせて」


 ミューが了承したと思ったら、アルンから指示が飛んできた。勿論、アルンの指示が最優先だ。


「……無茶を言う、でも、やってみる」


 ミューが敵側面に踊り出す。


「盾を横に薙いで!」

「ドラァ!」


 うお!?盾重っ!


 人族の戦士にこれやらせたら、腕の筋肉千切れるんじゃねーかな。そもそも、タワーシールドの使い方として間違ってるし、人族がタワーシールド振れる訳ねーや。


「今よ!」


 タワーシールド片手で振り抜いた体制から、斧を振れってか?無茶苦茶過ぎるぜ!だが、その頭のおかしい提案、筋肉にものをいわせてやってやんよ!


 ミューも俺の動きに合わせて、連続で叩き込み、相手の回避範囲を狭める。


「くたばれぇぇぇぇ!!!」


 盾の薙は飛んで躱すしか無かったらしく、空中で身を捩り、ミューの追撃を避けようとしたコボルトに、俺の斧を防ぐ術は無かった。


 そして、赤いコボルトを二つに裂いた瞬間、俺に何かが流れ込んできた。不快感や違和感は無く、鑑定で戦闘をずっと見ていたアルンが何も言わないので、呪いや、そういう類でも無いだろし、気のせいか?


「……ゴブリン1匹だけ逃げられた」

「コボルトも2匹逃がしたけど、大丈夫だろ」

「元々追い払うだけの予定だったのだし、ボスも倒したのだから、問題無いわ」

「取り敢えず、村長に確認してもらいましょうよ」

「そうね」




「まさか、倒してくださるとは!」

「モンスターの死体はもらってくぞ」

「勿論ですとも!ささやかですが、宴を開かせていただきたい。是非、参加していってくだされ!」

「それは、ありがたいんだが、食べ物を売ってくれる約束と、寝床だけもらえれば構わないぞ」

「いえいえ、この体色の赤いコボルトには、ほとほと手を焼いていたのです。知能が高いらしく、非常に狡猾でして」


 パワーもスピードも☆3には劣るが、素人じゃ手を焼いただろうな。


「食べ物も大した量では無いですが、是非持っていってください」

「よろしいのかしら?」

「えぇ、えぇ。お嬢さん。冒険者に依頼すれば、結構な額の仕事でしたからね!寧ろ、申し訳ない程ですとも」

「では、有難くいただきますわ」


 こうして、一時の村の英雄となった俺達は、いつもより枕を高くして、眠りにつくのだった。

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