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朝のひととき

26話目

 爽やかな、小鳥が奏でる即興曲(アンプロンプチュ)。柔らかな陽の光が……熱い!陽の光あっつい!


 これ、陽の光じゃねーぞ。何かコゲくせぇ!


「な、なんだぁ!?火事か!?」


 テントが、燃えてるんじゃ無いかと、慌てて飛び起きた俺は、火の点いた松明を片手に持ってるミューと視線が通じ合う。


「……おはよう、良い朝。小鳥が煩い」


 俺が小鳥に、爽やかさを感じてるのに、煩いと断言しやがった。風流が無ければ、胸も無いな。寂しい奴だ。それはさておき、一応聞いとかないとな。状況証拠のみで国士無双だが、決め付けは良くない。


「お前がやったのか?」

「…………私じゃない気がした」


 言い訳しようよ。頑張れよ。いや、俺とお前しか居ないし、松明持ってるし、お前以外犯人居ねぇけどな。


「起こしてくれんのは、いいんだけどよぉ。テント危ねぇから、火は止せ」

「……ごめん。なんか、ディル美味しそうだったから」


 カニバリズムは止めてくれ。俺の場合はドラゴリズムか。どっちでもいいな。


「硬くて食えたもんじゃないぞ」

「……食べた事有るの?」

「いや、無いけど?」

「……美味しいかもしれない」


 どんだけ腹減ってんだよ。それより、なんでいつも、ミューが先に起きてんだ。そもそも、自分の肉食ったことある奴が居るなら、お目にかかりたいぐらいだ。


「文字通り、歯が立つなら食ってみてもいいぞ。アルンの居る時にしてくれよな。つーか、アイツらどうした」

「……誰?」


 誰もトマトも有るかよ。アルン達の事に決まってんだろ。


「……此処には、私と貴方だけ」


 は?


「んな訳有るか!アルン達は、何やってるかって聞いてんだよ!」

「……誰?」


 おいおい嘘だろ。ミューは、一体何を言ってるんだ。


「……嘘、だよな?」

「……ウ、ソ」


 はぁぁぁ。俺が脱力して、頭を抱えていると。


「貴方達、いい加減起きたらどうかしら?」

「どあぁ!?」


 ビックリした、いきなり声掛けんなよ。死んだらどうする。アルンのせいで、心臓がクライマックス。


「……どあぁ!……どあぁ!」

「ちょ……やめ……なさい、ミュー」


 ちくしょう。コイツら二人共、焼いて喰ってやろうかな。


「どうしたの?朝からアルンの笑い声が、聞こえるなんて珍しい」


 フランが、アルンに釣られてやってきた。


「……どあぁ!……どあぁ!」

「や、やめ」

「ちょっと!何、ミュー!その顔ヤバッ!!!」


 フランも腹を抱えだした。というか、フランに限っては転げ回っている。正しく抱腹絶倒。もう、本当に何なんだコイツら。


「お前ら、いい加減にしとけよ!」

「……どあぁ?」

「どっせい!」


 あっと、思わず手が出てしまった。


「……痛い」

「すまん。ちょっと力入れすぎた」

「……撫でて。コブになる」

「いや、アルンここにいんだろ」

「……撫でて」

「お、おう」


 ものっそい圧力を感じたので、素直に撫でる事にした。


「気は済んだか?」

「……良い」


 取り敢えず、この件はここで終わりでいいだろ。


「んで?」

「?」


 アルンに投げ掛けると、ぺたんと座ったまま、お行儀良く両手を揃えて、ちょこんと首を傾げていた。何それ、めちゃくちゃ可愛いな。


「いや、お前何しに来たんだよ」

「忘れていたわ。朝ごはんよ」

「お!そういや今日は、まだ生ものあったよな!」

「スープにしたわ。フランが」


 その、無駄な倒置法要らないから。知ってるから、超知ってるから。人をこき使う事が、骨身にまで染み込んだアルンが、朝食用意するわけねーから。


「勿論、シェーネとセレーネさんも手伝ってくれたわ」

「その言葉が聞きたかった。ありがとうアルン!マジ愛してる!」

「知ってる」


 知ってたか~。寧ろ、アルンにとって、男が皆自分の事好きなのは、至極当然だったな。


「アルンは何かしたのか?」

「なんでかしら?」


 どうして私が、何かしないといけないのかしら。が、全身から伝わってきたよ。ありがとうな。聞いた俺が悪かった。

 でも、依頼人に食事用意させて、冒険者が何もしないのはどうなんだ。アルンは極自然体で、依頼人もこき使うけどよ。


「依頼人にさせて、こっちが何もしないのは不味いんじゃねーの?」

「私は美しいのだから、そこに居るだけで、十分な価値が有ると思うのだけれど?」


 それは、そうなんだけどね。そうじゃない。アルン絶対このパーティ以外で、仲の良い奴いないだろ。


「お前、友達いないだろ」

「そうね。下僕とか、ペットなら」


 したり顔で言ってるけど、それ友達じゃねーから。何でそんなに、自信満々で答えられるの。狂人なの。強靭なのは精神ですね。


「皆さ~んご飯ですよ~?」


 天使の調べが流れてきた。『愛の語り部を、にべもなく追い立てる、至高の輝ける紅玉アルン』を置き去りにして、天使の方へ出向く事にした。


「ディルさん、おはようございます!」

「セレーネさんおはよう。今日も朝日を背負って尚、輝いてるぜ!」

「じゃあ、私今神々しいですね!」


 うふふって、笑うセレーネさん流石可愛い。後、三万時間程度なら頑張れる気がする。気がするだけだけど。

 もし、アルンが朝日を背負ってたら『神界の夜明け』と言うタイトルの絵画になりそうだ。水面に映りこんだ、天照の美しさに、まだ少し暗い林と言ったら、それ程までの景色だった。やっぱり旅はいい。勿論、セレーネさんが、絵にならないって訳じゃねーけどな。


「ディルさん、まだ眠いですか?」

「いや、セレーネさんに見蕩れてただけだ!」


 最近美しいものを讃える時、引っ張ってくる対象が、全部アルンになってるな。俺めっちゃ洗脳されてんじゃん。大丈夫か俺。

 目の前の女性の美しさと、それを引き立てる景色の彩りを、他の女性で表現するとか、なかなか酷い事してるよな。気を付けよう。


「……置いてかれた」

「置いてかれたぁ!」

「ディルって酷いのね」


 置いてかれたって、テントからここまで、幾らも距離ねーからな。


「冗談は止せ。冷めるぞ」

「ねぇ、ディル。昨日座っていた所が、無いのだけれど?」

「意味分かんねーし。どういう事だ」


 この才女、時々訳わからん事言い出すから困る。


「座るからハンカチ敷けよ、この駄龍って事だよ!」

「お~なるほどなフラン。後でオマエ、シメルカラ」

「なんでさ!?」

「てか、俺にやらせんな!自分で敷けよ!」

「いいじゃん!甘やかしてよ!」

「うるせぇ!」


 つーか、いつもフランがアルンの座る場所、確保してんのかよ。最早、居候じゃなくて、召使いだろ。


「アルン。自分でやりなさい」

「仕方ないわね」


 アルンは渋々やり出したんだが、何が気に食わないのか、色々やり直している途中、シェーネが捕まって結局やらされてた。フラン使わなきゃ良いって意味じゃ無いからね。後、ハンカチ一枚敷くのに、どんだけ時間掛けるつもりなんだよ。


 昨日は暗くて気にしてなかったけど、水浴びは外で出来るのに、切り株に直接座るのは嫌なのな。アルンもフランも下にハンカチを敷いている。セレーネさんには、俺がシート敷いた。


 そんな事して無いのは、俺とミューとシェーネぐらいだ。ん、普通に半数だな。


「なあ、シェーネ」

「大丈夫。アルンじゃないけど、今なら貴方の言いたい事、分かるから。私達が普通で、向こうの、お嬢様組が異常よ」

「だよな」

「……ハンカチ敷かなきゃ座れないとか、アルンとフランは冒険者に向いてない」


 すまん、それは知ってる。アイツら、お嬢様抜けてないから、全然冒険者らしくないからな。


 因みに、何でこんな所に、切り株が在るかって言うと、俺の装備が斧だから。相手の頭蓋を粉砕する事に特化した斧とかも有るけど、そもそも陣地作成用や、壁破壊用、ついでに杖にも使える優秀な武具だ。


 しかも、刃こぼれしても剣や槍程影響が無い。俺見たいな脳筋は、力加減、急所を気にして戦う武器より、力任せに振り回して当てればダメージになる。そんな武器の方がいい。


 まあ色々有るんだが、そもそも人龍族はナチュラルにデカいので、小型のヤワな武器だと握り潰しちまうから、兎に角頑丈で有れば何でもいい。作りの悪い短剣とかだと、マジで柄がトマトのように潰れる。なので、人龍族が武器を選ぶ時の基準は、力一杯握って柄が潰れない事だ。


 更に、人龍族の中でも一際デカくてパワーの有る俺は、装備出来るモンが、斧か鎚ぐらいしか無かったのが理由だけどな。強過ぎる弊害って格好良くね?



「今日は何かしら?」


 俺は設営したり、フラン達は料理したりしてるんだから、アルンも何かしてもいいんだぞ。


「きょーはねー!がま?エル?だよ!」


 なんだそれは、聞いたことも見たこともねぇぞ。おい、本当に食えるんだろうなそれ。多少腐ってたり、変なもんでも俺の胃袋なら大丈夫だけど、セレーネさんとかアルンが食えるのか。フランの奴セレーネさんに何かあったら承知しねぇからな。


「まあ、よく分からないけど、フランが料理したなら、毒では無いは」


 信頼してるのか、して無いのかハッキリしてくれ。毒の信頼より、味の信用が欲しいんだけど。


「おい、アルン!毒じゃなくても、食えない可能性とかあんのか!」

「私も料理名は分かりませんが、変なものは入れてないので、大丈夫ですよ!」

「2人共失礼だし!味の調整は、シェーネと一緒にやったから、大丈夫だしぃ!」


 フランが詰め寄ってくる。止めろ、近寄んな。暑いから!


「安心して、ちゃんと食べれるわよ」

「シェーネのその言葉を待ってた」


 シェーネちゃんマジ愛してる。今度、良い酒を奢ってやろう。


「ってゆうか、昨日も私作ってたじゃん!」

「忘れてたんだよ。はいはい、すまんすまん」

「うにゃー!!!」


 人猫族かよ。猫耳生やしとけ。後、尻尾もな!うむ、実に素晴らしい!


「ディル~?そんなに見つめても、見えたりしないよ?」

「いや、日課だから」

「面と向かってゆっちゃう辺りが、ディルだよね。普通、女の子にゆうかなぁ」


 猫耳の妄想の結果が、毎日胸を凝視してる事を、直接本人に伝える、挑戦的な変態になってしまった。


「私は気にしないけど、他の女の子にやったら、ちょ~嫌われるよ?」

「反省はして無い」

「ある意味、尊敬するよね~」


 おう、尊敬と軽蔑って紙一重なんだな。知りたくなかった。


「ちょっと、2人共!そんな所で話してないで、早く食べましょう!」


 相変わらず、シェーネは煩いな。プリプリさせるのは、二箇所ぐらいでいいんだよ。眉間にシワ寄ってんぞ~。


「今いく~!ディル連れてって~」

「何10秒もかかんねーんだから、歩け」

「あ~い」


 やっと食事にありつけたな。朝起きてから食事するまでが、大変過ぎるだろ。毎回こんなんやらされてたら、心労でセレーネさんと結婚出来る気がする。意味分かんねーな。そうじゃなくて、セレーネさんと結婚したい。いや、違っ違わない!


 メニューは、藻のスープに一口サイズに切った野菜とか入れて、更に穀物でかさ増した、リゾットって感じだな。女性陣は、一口サイズでいいんだろうけどよ、俺は全然食った気がしねぇぞ。


 海藻って言うと皆「美味しいよね」みたいな反応するのに、藻って言うと一瞬躊躇する奴が居るのは何でだろうな。アルンとか、偏見だけど躊躇しそう。毒素を出す藻もあったりするけど、アルンとフランが大丈夫ってなら、大丈夫だろ。


「ん~足りない。圧倒的不足」

「ディルの体で、足りるはず無いわよね」


 そうだぞ~シェーネちゃ~ん。もっと、もっと食べたいプリーズ。オナカスイタ。


「え~ディルが寝る前に聞いたら、朝は軽くでいい。って言ってじゃん!」

「言ったけど、お前との体格差を考えてくれよ」


 身長、体重、筋肉量まで考慮したら、龍と亜龍ぐらいの差があるぞ。


「ディル、私の食べてなさい。移動中に、食べられるものでも作ってくるわ」

「ありがとよ。お前腹へんねーの?」

「私は神官生活が長いから粗食に慣れているし、元々朝は余り食べないの」


 アルン様本当良い人。アルン様ありがとう!アルン様万歳!


「アルンは何でも出来るのな」

「えぇ、そうよ。何か希望は有るかしら?」

「……希望など、無い」


 おい、黙ってろちんちくりん。斧で砕くぞ。眠たそうな半目で、唐突な冗談は止せ。分かりにくいから。ミュー先生、前回のようなインパクトに欠けるので、今回は駄作。


「肉」

「ダイレクトね。素直なのは良いと思うわ」

「……2人で無視は泣く。メソメソ」


 泣く時に、口でメソメソはおかしいだろ。そんなん初めて聞いたぞ。しかも、相変わらずの無表情っぷり。悲しみが感じられない。寧ろ、吹き出すとこだった。ミュー先生、まさかの二段構え。何て、隙を生じさせないんだ。これからは、大先生と呼ぼう。



 暫くして、アルンから料理が出来たと告げられ、その間に粗方片してた俺らは、直ぐ出発する事にした。


 そして俺は、早速アルンが作ってくれたモノを、御者の片手間に食べている。料理とか他でもそうだけど、その場所に合わせたり、状況に合わせて、考案した人の名前が付けられたりする。


 さしずめ、この料理の名前はアルセイン・ネルフが考案し作った料理なので『アルセイン』と言ったところか。


「おっ!これ美味いな」

「そう、良かったわ」

「何だ?しおらしいじゃねーか。当然でしょ!って言うもんだとばかり思ってたぜ」


 傲慢でも、冷たくもないアルンは、最高だな。棘も刃も飛んでこない。ちょっと、物足りなく感じてる俺も居るけどな。


「料理は家にいた料理人には、到底届かないわ。上位鑑定も持っているけど、それは理解出来るのであって、元から知っている訳では無いのよ」


 なまじ頭がいい分、知らない事は苦痛なのだろう。流石に学神の信徒と、言ったところだろうか。そして、アルンは酷く臆病だ。知らない事が、怖い事だと理解している。知らない事を、全て知りたい。若しかしたら、それが彼女の上位鑑定技能の、根幹を成してるのかもしれない。


「自分を正しく理解する。みたいなやつか」

「客観的と言いたいのかしら」

「それだ」

「そうね。謙遜もしないけれど、誇張もしないように、してはいるつもりよ。人間何て、どこまでも主観なのだから、どれだけ自分を客観的に見れているかは、分からないけれどね」


 俺の物差しで測れるとは思わないが、彼女の尊大な態度は、怯える自分を覆い隠す盾なのだ。俺は未知の恐怖に対して、力をつけた。彼女は知恵をつけた。きっと、そういう事なのだろう。


 まさか料理一つから、アルンの新しい一面が見れるとは思わなかった。面白い事も有るもんだ。こいつ等をもっと良く知って、もっとちゃんと仲間になろうと、そう思えた。


 馬車の後ろは嫌に静かだ。気温が上がりきる前で暖かい。きっと、誘われたのだろう。


 風の踊る音と、二人の息。何者にも邪魔されず、馬車はゆっくりと村へ向かう。

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