道中街道を抜け
24話目
街を出る前に、闇ギルドに寄って、一応道中の情報は集めたので、兎に角出立する事になった。
のだが、パーティ内がギスギスしてて、非常に気まずい。しかも、俺の味方が一人もいない。
「なぁ、アルン。俺の何が悪かったのか、教えてくれないか?頼む!街を出るまで、ずっと考えていたんだが、さっぱり分からん。セレーネさんも居る手前、なんとか教えてくれ!」
「……はぁ。それよそれ!それが、いけないのよ。貴方、シェーネに謝る時も、シェーネの事全く考えて無かったでしょ?」
うっ……確かに、セレーネさんの事しか考えて無かった。
「貴方、相手が自分に謝罪してた時に、全く別の事考えている様が、目に見えて分かったらどう思うかしら?」
そんなものは許せん。そもそも謝る気があるのか。随分とふざけて…………そりゃあ、シェーネも怒るよな。
「俺の謝り方が、悪かったのは分かった。泣いた理由を聞いてもいいか?」
「貴方が、急に冷たくあしらうから、きっとビックリしたのよ。人を八つ裂きにして、内蔵を貪り喰らうのが趣味みたいな顔なんだから、シェーネみたいな普通の女性は、泣くと思うは」
嘘だろ。確かに、親にも夜に会っただけで、驚かすんじゃないと怒られる事が良くあったが、そんなにヤバイのか。
「そんなに、俺の顔面って凶悪か?」
「えぇ。昼間でも、薄暗い裏路地で出逢ったら、私でも泣くと思うは」
この、高慢ちきなアルンちゃんでも泣くとか、そりゃ寝起きで俺の顔を見た、ミューの感想が極悪な訳だ。そういや、店売りの鏡面の斧を覗いた時に、すこぶる驚いた記憶がある。自覚はあったんだが、そうもはっきり言われると、傷つ……かないな。思ったより強靭だぞ、俺の精神。嘘、ちょっぴり傷ついた。
「シェーネに謝ってくる」
「そうね。気の利いたプレゼントでも、有ると良いかも知れないはね」
あるわけないだろ。旅の途中だぞ。それでも、シェーネの偉いところは、自分の荷物もしっかり俺に持たせてる辺りだ。積み込み全部、俺一人でやったんだけど、俺超偉くない?誰か褒めて。
「別に怒って無いんだからね!」と言う態度で、接して来るあたりが、いじらしいやら、可愛らしいやら。
パーティ内の不和で、連携に支障が出て、護衛対象を守り切れませんでした。では、笑い話にもならんからな。モンスターが、あまり出ない街道を移動している間に、しっかり修復しておこう。
「なあ、シェーネ」
「なによ」
「すまん、悪かった。許してくれ!この通りだ」
「怒ってないって言ってるじゃない!」
ダメだ。取り付く島もない。なんとか、なんとかしないとな。
「どうすれば、許してくれる」
「許して欲しいの?」
「あぁ」
「セレーネさんの為?」
「違う」
「ふーん。じゃあ、許してあげる」
一応許してくれたみたいだ。モノで釣るは気が引けるが、次の大きな街でなんか買って渡そう。あんまり金ないけど。
「肩の上乗せなさいよ!」
シェーネがそう要求してきた。
「馬車で移動してるんだから、俺に乗っても尻が痛いだけだぞ」
因みに、俺は御者である。理由は簡単だ。それに、俺から申し出た。
「だってディル、座ってても私より背が高いじゃない!見晴らしが良さそうだは!」
まあ、それでシェーネの気が済むなら安いもんだ。俺も、シェーネの尻が柔らかくて嬉しい。シェーネは、俺を椅子に出来てストレス解消。双方に利がある、素晴らしい関係だ。
「~♪」
シェーネの機嫌が良さそうで良かった。俺のささくれだった心も、潤うってもんだ。
「ディルとシェーネ、仲直りしたの~?」
背後から、間の伸びた、馬鹿っぽい声が聞こえてくる。フランだ。
「ん、まあな」
「私はディルと違って大人ですからね!」
「お、おう。そうだな」
空気が読める俺偉い。これで俺もモッテモテ。はぁ、セレーネさんに求婚したい。
「シェーネはなんで、ディルの肩乗ってるの?」
「見晴らしが良いんだと」
「え~じゃあ、私も乗ろうかな~」
コイツ乗せたらまた、尻が痛いだのなんだの喚き出すから、拒否したい。
「フランは、五月蝿いからダメだ」
「うるさくないし!ちょ~静かだし!ちょ~お淑やかだしぃ!」
フランが、物静かでお淑やかなら、山賊娘は深窓の令嬢だな。それぐらいには、言葉の誤用と言っていい。でも、コイツ実は令嬢なんだよなぁ……俺は分類するなら貧民だ。と言うより、普通貧民じゃないと、冒険者になったりしない。世の中不公平である。
「っえい!」
フランが、掛け声と共に肩に乗ってきた。流石エルフ、やはり身軽だな。
「えへ~私も乗っちゃった!お~座ってても、人一人分ぐらいあるから、見晴らしが良い!しかも、馬車の速度で流れてるから、ちょっと新鮮!」
はぁ。なるべく、大人しくしててくれよな。走ってる馬車から落ちたら、洒落にならんぞ。まあ、俺なら落ちても、大丈夫だけどな。
そういや、ゼクスの時から、アルンにずっと聞きたいことがあったんだ。馬車だし、街道は暇だしな。今のうちに聞いておこう。
「なあ、アルン。モンスターについて、教えて欲しいんだが、ちょっといいか?」
背後から、涼やかな声が聞こえてくる。
「えぇ。何かしら?貴方が教えを乞うなんて、嬉しい限りね。ワイバーンでも、襲来するのかしら?学ぶ事は、素晴らしいことよ!」
忘れてた。アルンは学神の信徒だったな。ちょっと怖い。入信させられそう。後、学ぶ気が失せるので、褒めるのと貶めるのを同時にするのは止めろ。
「ハイ・ボガートって居たよな?でも、ボガートの上位種は、レッドキャップなんだよな?意味が分からんのだが、普通ハイ・ボガートが、上位種じゃないのか?」
「あぁ、そんなことね。よく間違われることだし、知識はあって損は無いから、教えて上げるは。感謝なさい!」
人に教えるの、向いて無さすぎるだろ。
「先ず、ボガートとハイ・ボガートは、そもそも種族が違うは。見た目は、そっくりなのだけれど。人族側で例えるなら、エルフとエレメントぐらい違うはね」
「じゃあ、レッドキャップとボガートの違いは?」
「人族側なら、エレメントとエレメンタルヒューマぐらいの差かしら。種族的に、ボガートとレッドキャップのが近いのよ」
成程な。モンスター学って意外と面白いんだな。俺も気が向いたら、アルンに師事してみよう。
「じゃあ、なんでハイ・ボガートって名前なんだ?」
「貴方は、10年前にすれ違った人族と、11年前にすれ違った人族全部覚えてるかしら?」
「覚えてたら怖いだろ」
「まあ、私は特徴まではっきり、覚えているけれどね」
「天才かよ」
「天才よ?」
天才だったは。俺様的には、天災って感じだけどな。
「それが、なんの関係が有るんだよ」
「無いはよ?」
本当ムカつくなコイツ。アルンの場合本、当にすれ違っただけの人でも、全員覚えてそうだから怖い。
「見た目が似てるから、そうなっただけよ。深い意味は無いは」
本当に、何の関係もないのかよ。少しトサカにきたので、アルンにやると怖いから、後で、フランにじっくり悪戯しよう。無論、卑猥な方だ。連帯責任ってヤツだな。トサカ無いけどな。
「他に、聞きたいことは有るかしら?」
「ん~これと言って無いな」
「そういえば、貴方良くテントに、種類があるなんて知ってたはね?大きさぐらいしか、違いが無いものだと思っていたは」
興味が無い上に、お嬢様にとってテントとか、何の接点も無いもんな。知ってる方がおかしい。
「俺は人龍族の里から、ずっと旅して来たんだぜ?その間、危険地帯とかは、冒険者を雇ったりもしてた。旅慣れてるだけだ」
「その話で1番驚くべきは、貴方に冒険者を雇うだけのお金があったことかしらね。何処から盗んできたのかしら?」
アルンは、ちょっとした冗談のつもりで、盗んだんじゃないのかと言っているが、本当に村長の所から盗んできたんだよな。ただ、言いづらい。
「……。」
「貴方、まさか本当に盗んだんじゃないでしょうね?」
仲間を疑うなんて、とんでもない聖女様だ。許せん。
「違う。村長から、借りたんだ」
「帰る気は、全く無いのでしょう?殆ど、盗んだ様なものじゃ無いかしら?」
そうとも言うな。いや、返すよ。返す金と機会が有ればね。
「……いや、すまん。本当にかっぱらってきた」
「呆れた。どれぐらい盗ったの?」
「一応手加減はしたぞ?」
「覚えてないのね」
「全く、これっぽちもな」
悪びれる気も、悪いとも思ってないからな。寧ろ、もっと盗ってけば、良かったと思ってる次第だ。
「ねぇ。あれなに?」
街道を少し抜けた所で、フランが何かに気付いたらしい。
「俺には、見えんがなんだ?」
「真っ直ぐ行った所になんか、落ちてる?倒れてるよ?」
倒木かなんかかな?まあ、街道抜けたし、木ぐらい倒れてる時も、あるだろう。もう少し進めば、なにか分かるだろ。
更に進むと、若い女性が地面に倒れ伏していた。
「あ!あれ人だよ!」
「なら、スグに助けないと!」
フランとシェーネが、耳元で騒いでる。五月蝿い。
「落ち着いて。助けるにしても、セレーネさんの許可が必要よ。護衛依頼なのだから、余計なものを抱えるかどうかは、私達が判断することでは無いは」
今日もアルンは、全力で他人に冷たいな。倒れてる人を指して、余計なものと断言しちゃう辺が。まあ、言ってることは正しいんだけどな。人としては残念だが、冒険者としては、この上なく正しい。
「行き倒れて居るなら、助けてあげましょう!皆さん、早く助けてあげてください」
セレーネさんは優しいなぁ。ちょっと行ってくるか。
「じゃあ、俺が様子を見てくる。お前らは、待ってろ。2人とも降りてくれ」
「あ~!若い女の人だからって~!」
「とんでもない下衆ね?私も着いていくは」
アルンとフランからは、酷い言われようだ。まあ、人助けて、抱えるにしても、なんにしても、力仕事でコイツら邪魔にしかならんからな。
「いいから!お前らは、ここで待ってろ」
「お、怒んなくたって良いじゃん!」
「怒ってない。兎に角、邪魔だから大人しくしてろ」
「邪魔ってなんだし!」
「俺なら重傷でも、担いでこれるが、お前らが運ぼうとしたら、引き摺っちゃうだろうが。助けたいのか、拷問したいのか、どっちなんだよ」
倒れてる人を引き摺って運ぶとか、正気の沙汰じゃねーぞ。
「変なことしたら怒るよ!」
「へいへい。分かっとりますよ。つーか、重傷者だったらこんな事してる間に死ぬっつーの」
「そ、そうね。急な出来事だから、少し驚いただけよ。行ってきなさい!」
俺は意外と、アルンの自分が絶対に上であることを、疑わないスタンス、嫌いじゃないぞ。ウザイけどな。
さて、一見血が付いてて怪我してるっぽいが、取り敢えず女に声を掛けてみるか。
「おい。大丈夫か?」
「あぁ!旅のお方。助けてください!」
倒れてる女が、俺に縋り付いてきた。十代後半から二十代前半の人族だな。容姿は、悪くない。モンスターにやられたかな。街道を少し外れるだけで、いつ、モンスターに襲われても、おかしくないからな。
「どうした。誰にやられた?」
「その、盗賊に」
「そうか」
俺はゆっくりと、背中の斧を抜き
グチャ!
女の脳天に振り下ろした。




