護衛依頼と雪の街
23話目。
「それで、セレーネさん。依頼詳細な内容を教えてくれるか?一応俺がリーダーで、メンバーの命預かってるんでな。無茶な依頼だと思ったら俺一人で受ける」
俺はセレーネさんの為なら何でもする。軍隊に単騎で突っ込んで来いと言われれば、そうするだろう。惚れた弱みだ。しかし、コイツらを巻き込む訳には、いかんからな。
「珍しく格好良さげなことを言ったと思ったら、貴方一人で受けるですって?思い上がりも甚だしいはね。気持ち悪い。それに、Eランクパーティである、私達にそんな高難易度な依頼をする訳ないじゃない。セレーネさんの前で格好つけたいのは分かるけれど、少し脳が足らないのではなくて?」
のっけからパンチ効いてんな。口での殴り合いなら誰にも負けない、超ヘビー級パンチですことよ。いつもよりキツいんだけど、何がそんなに気に食わなかったんだ。冷気出んてんぞ、冷気。
「……アルン怒ってる?」
「怒髪天を衝きそうね」
え、怒ってんの?超怒ってんね。なんだそんなに俺のことが好きなら、言ってくれればいいのに。アルン程の美人なら、いつでもウェルカムだ。
「ねぇねぇディル」
フランが、ちょんちょんと慎ましやかに俺の背中をつつく。少し遠慮してる感じが可愛い。おっと、俺にはセレーネさんが居るんだ。自重しないとな。
「何だよフラン?やめろよ。ちょっと可愛いと思っちゃったじゃねーか」
「いや、私いつでも可愛いし」
美人の真顔とか、心臓が凍土に曝されて、水ぶっかけられた感じになるんで、止めてくれませんかね。
「真顔はよせ。で、なんだよ」
「可愛いし!」
「いや、な」
「可愛いし!!」
これはアレだ。肯定するまでループする系だ。同意するまで帰してくれないお姉さん系だ。そして、帰ろうとすると俺みたいなのが、出てくるヤツな。
「あ~はいはい。可愛い可愛い。ドラゴニック超愛してる」
「ふっふーん!」
いいのかそれで、いいのかそれで。もう一回言っとこう。いいのかそれで。
「で、なに」
「そうだった。あのね、アルンあれ怒ってないよ?」
嘘だろ。めっちゃ怒ってんじゃん。ブルードラゴンが、アブソリュートゼロドラゴンに、なっちゃってるじゃねーかよ。
「嘘こけ」
「嘘じゃないし!アルンは、自分が居る時に自分以外の女の子が、男の人に優先されたことが無いから、戸惑ってるだけだよ」
うわ~面倒臭い。アルン意外とメンタル雑魚いな。自分が一番じゃないと許せないとか、傲慢の神の系列なのかもしれん。氷だけじゃなく傲慢も司る神か。新しいな。
「ちょっとそんな顔しないでよ!アルンは自分の美貌に、絶対の自信を持ってるから、許せないんだよ」
「自信過剰過ぎだろ。神でも、もう少し謙虚だと思うぞ」
傲慢も過ぎれば毒だな。いや、寧ろアルンまでいけば、五回ぐらい回って、それも美しいのかもしれんが。
「アルンの家知ってるでしょ?」
「帝国貴族なんだろ?」
「うん。それでネルフの家系は、美男美女が多い事で有名なんだけど、アルンは親兄弟だけじゃなく歴代の誰よりも、美人だって言われてるの」
エルフの様な、非常に顔が整ってる種族。人機族みたいに、顔が作れる様な種族が居る中で、人族で美男美女で有名とか、相当だな。
「ウチのソフィアちゃん怖過ぎだろ」
「ソフィアちゃん?」
「アルンが学者達に付けられた、あだ名らしいぞ。本人には言うなよ、怒るかもしれんから。」
「はぁ~い」
取り敢えず、アルンを落ち着かせて、依頼内容を聞き出さないことには、話が進まないな。
「悪かったよアルン。取り敢えず落ち着いてくれ」
「私が落ち着いていない?……ん、取り乱したは。ごめんなさい」
やっぱりアルンだけあって、一声かければ冷静さを取り戻すんだな。常人なら、こうはいかないからな。
「では、依頼内容をお教えしますね。」
セレーネさんも、やたらと馴れてるな。非常に落ち着いている。
「ここから北に馬車で二月と半分程行き、山の向こうにある常冬の街『永久凍土ブリザード・レイド』まで、護衛していただきたいのです」
余りに過酷すぎる環境故、街の名前がそのまま環境を表すように決められた街。『永久凍土ブリザード・レイド』
強襲する猛吹雪や暴風雪の奇襲と呼ばれている。まあ、そのまんまだな。だが、ウチのパーティにそんな対環境装備はねぇ。
「あ~セレーネさんすまない。俺らにそんな装備は無いんだ。他を当たってもらえないか?」
パーティリーダーとしては正しい対応のはずだ。アルンだけは怒らせたくないしな。しかし、個人的には超受けたい。セレーネさんと、親睦とか精神的な距離感とか深めていきたい所存。
「あら、俺だけでも受けるんじゃ無かったのかしら?」
うるせぇやい。さっきまで喚き散らしてた、お前に言われとうないんじゃ。
「セレーネさんマジ好みだし受けたいけど、いくら最強最堅の俺様でも、装備無しで彼の極寒の地に踏み込んだら、綺麗な龍の氷漬けの完成だぜ」
「……それは嘘。凍ってるのがディル時点で、全く綺麗じゃない。折角の銀世界も台無し」
アルンじゃなくても鋭いな。もう、セレーネさんの専属護衛になりたい。そして、懇ろにもなりたい。
「もう、そんな大きな声で言われたら、恥ずかしいです」
照れてるセレーネさんも可愛い。顔を真っ赤にするのでは無く、今回は耳だけ赤い。器用可愛いな。手を前の下の方で組んで、モジモジしてるあたりも大変グッドだ。照れると瀟洒感が一気に薄れて、花のような愛らしさだ。里に連れ帰って、嫁にしたい。持って帰ろうかな。いや、普通に誘拐だなこれ。
アルンの月のような、絶対に手の届かない美しさじゃない辺が、男を惑わせる。完璧に見えるのに、完璧じゃないとか、もう。
「大丈夫ですよ皆さん!フロストリザードの鱗とアイスコフィン・ラビットの毛皮で編まれた、極耐寒のローブをご用意していますので!」
非常に良質な装備じゃねーか。どっから出てきたんだそれ。パーティ全員とセレーネさんの人数分揃えたら、普通に俺らEランクパーティに依頼する依頼料より高く付くぞ。
「へ~用意がいいのね?でも、ディルは着れないんじゃない?」
そうなんだよな。シェーネの言う通り、俺は着れない。人族用だから小さ過ぎる。
「じゃあ、私の分と繋げて、大きいのを作りましょう!」
「そしたら、セレーネさんの分が無くなっちまうだろ?」
「ディルさんが羽織って、一緒に入れてくれるって、いうのはダメですか?」
「いいに決まってるじゃないか」
要するに、ずっと一緒って事だろ。おはようからトイレ、水浴びまで、喜んで付き纏うぜ。
「1人で動きたい時もあるでしょう?」
アルン余計なことを言うんじゃない。俺はセレーネさんの髪の毛の一本、爪の一欠片まで、モグモグすることを、たった今誓ったのだ。
「その時は、シェーネさんのローブを、貸してください!」
「えっ!?嫌よ、寒いじゃない!」
「ディルさんと一緒にくるまってれば、ぬくぬくですよ?」
「余計に嫌なんだけど……」
「シェーネ!わがまま言うんじゃない。セレーネさんが可哀想だろ!」
全く、シェーネの奴ときたら、セレーネさんの意見が最も優先されるに決まってんだろ。依頼主だぞ。偉いんだぞ。
「なんで怒られてるの?!私が悪いの!?」
「俺だって、セレーネさんと、ずっと一緒にくるまってたい!シェーネなんかと一緒に、くるまりたいわけないだろ!」
「ちょっと!なんかってどういう意味よ!」
「では、受けていただけるんですね!」
「えぇ。お受け致しますは」
「お前が言うの?」
「なにか」
なんでもございませんのことでしてよ。アルン様の仰せの通りに。
「山の迂回も含めて、3ヶ月近くかかるから、特に大掛かりな支度はしなくて良さそうね」
「山越えするとしたら、ガチャガチャ装備増えるもんな」
山越えを舐めてると死ぬ。モンスターも強いし、過酷だからな。大規模なキャラバンとか、戦争じゃない限り、山越えなんてしない。一歩間違えれば、雪どころか雨に降られただけで、命の危険を伴う。
「寒いところって、肌が荒れそうで心配」
「大丈夫だろ。お前ら顔は良いしな」
「ディルさんって、誰にでもそう言うこと言うんですね」
「いや、待ってくれセレーネさん!違うんだ!これはそうじゃないんだよ!」
「女の子は、自分だけに優しい男の人が好きなんですよ?」
そうなの。俺女の子に優しくして、好きになられたこと一度も無いよ。例え、嘘でも可愛いから信じちゃうけどね。
「乳繰りあいたいなら、部屋でやってもらえるかしら?」
今、夏なんだけど。なんで、この空間だけ氷点下割ってんの。怖いんだけど。セレーネさんマント下さい。
「ね~3ヶ月かかるんだよね?食糧とか水とか、大掛かりになるんじゃないの?」
は?何言ってんだ、このおっぱい。
「フラン、お前まさかボア・モアで3ヶ月分用意してから、行くとでも思ってんの」
「えっ違うの」
ちっげーよ。食糧腐るっつーの。まさか、3ヶ月も保存食で過ごすつもりなのか。冗談だろ。言っとくけど、あれクソ不味いからな。長期保存が最大の目的だから、味とか、二の次どころか三の次ぐらいだからな。
良く考えたら、このパーティ俺以外、長旅した事無いんじゃないか。アルンとシェーネは、知識ぐらいはあるかも知れんが、知識と実地じゃ全然違うなんて事は良くある訳で、多分任せっきりにしたら崩壊する。お嬢様方や、引きこもり姫達の思わぬ弱点だ。下手したら、護衛依頼で野垂れ死ぬぞ。
「さて、テントを買いに行くか」
「あら、テントならいつもコタリーから、借りているじゃない」
「やっぱりか。旅慣れてないんだな」
「ディルのくせに、この私に対して上から喋るなんて、いい度胸じゃない。発言を認めるは」
え、何。俺の発言認可性なの。アルンの許可がないと、喋れもしないのかよ。
「おう。じゃあ、言わせてもらうが、いつものテントだと、寝たまま凍死するぞ」
「えっなにそれ怖!!」
当たり前だろ。街の名前が、暴風雪の奇襲だぞ。いつも使ってる、雪山用じゃないテントとか、凍死するに決まってんだろ。後、いつも使ってる横に口の広いテントは、傾斜や深い雪の所では設営し辛かったり、設営できない場合もある。因みにテント自体が凍り付くと、酸欠で死んだり、死ななかったりする。
「で、でも、マントが有るじゃない!」
「じゃあ、シェーネは外で寝ていいぞ」
「なんでよ!酷い!」
「い~や酷くないね。深雪を舐めすぎだ」
「うぅ……」
……泣かせてしまった。いや、でも、俺悪くなくね。悪くないよね。
「ディル、女の子にひどーい」
「貴方冷たいのね」
「ディルさん。言い過ぎですよ?」
「……そんな言い方しなくてもいいと思う」
セレーネさんどころか、ミューにまで非難されてしまった。俺は悪くないと思うんだがなぁ……セレーネさんの手前だし、取り敢えず謝っとくか。
「ちょっと言い方がキツかったかもしれんが、そんぐらいで泣くなよ」
「貴方女性を慰めるセンス皆無ね。だから、モテないのよ」
「ディル。今、自分が悪くないって思ってるでしょ?そういうの態度で分かるかんね!」
ちくしょう。見透かされてやがる。あの、優しいセレーネさんまで、敵に回すとか俺そんな酷いこと言ったか。
「べ、別に泣いて無いはよ。大丈夫なんだから」グスッ
「いやでもな、間違ったこと言ったつもりは無いんだが……」
本当に何がいけなかったんだ。
「そういう問題じゃないし!ディルのアホ!」
結局、何が悪いのか分からないまま、最悪の空気で依頼は開始されたのであった。ままならないものだな。後でちゃんと、何がいけなかったのか、アルンに聞いて謝罪しよう。出発するまでずっと考えていたが、俺にシェーネの心が分かることも、読めることも無かった。
まさか、二月になるとは……
ディルが男らしい気がするのに、モテない理由が判明しましたね。
ちゃんと仲直りして欲しいものです。




