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趣のある宿

2話目

  うっすらと陽の光が差し、身体全体を冷気が優しく包み込み、余りの冷たさに飛び起きた。起床はくしゃみと共に。


「ゔぇっくしょい!?!チクショーバーロー!う"あ"ぁぁぁ……寒っ!!!」


 甘かった。認識が甘かったと言わざるを得ない。


  ヤバイ超寒い。夏でも体温を奪われる石畳の上、やっぱ夏でも早朝は冷え込む。


 誰だよ、石畳の上はヒンヤリして気持ちいい、とか言ったヤツ。許さない。絶対にだ。


 はい、え~犯人見つかりました。まあ俺ですね。そりゃそうだ、寧ろ俺以外だったら怖い。超怖い。


 え、許さないのはどうしたって……人は自分に甘いのさ……ッフ


  さて、一通り格好つけたしどうするかな……残り銅貨は3枚。いやあそりゃね、食いますよ飲みますとも。だって、数日ぶりに保存食から解放されたんだぜ。


 ともあれ銅貨3枚、朝食1食分。かっこ俺には全く腹の足しにならないかっことじる。


「流石に、野垂れ死にはカッコ悪すぎる……仕方ねぇ働くか…………」


  やる気を数十年ぶりに出したのはいいんだが、昨日来たばかりの俺は身元不確か、コネもねぇ金もねぇ、なんならさっき出たやる気も今無くなった。惜しい奴を無くした。きっと、奴はもう戻ってこない。


「仕方ない、あそこに行くか」


 あそこは俺みたいな、何も無い奴らの吹き溜まり。地獄の底、底辺、どん詰まり。


  そう、スラム街だ。幸い腕っ節と非堅気顔には自信がある。泣いてる迷子に俺が声をかけると、泣き止んで一目散に逃げるぐらいには、剣呑なお顔立ちだ。……泣いてない……泣いてないぞ俺は(涙)


  全てを諦め、スラム街を探していると、俺は女神に出逢った。そう、出逢ってしまったのだ。俺の腹を満たしてくれる女神に。その名も食肉。食用の肉の事だ。冒険者風の男が出て来た扉の奥に、見つけてしまったのだ、肉を食ってる奴を。


  俺は思わず、ふらっと入ってしまった。金なんかない。正確には、肉を食える金なんてどこにも無い。……ん、待てよ。冒険者だと………


「これだぁぁぁ!!!」


 俺は思わず叫んだね。天啓を得たんだ。そうだ冒険者だ、冒険者なら腕っ節さえあれば、最低限の飯と宿ぐらいは、確保出来るはずだ。


  天啓から少し経って、落ち着いた俺は周囲を見渡す。店の出入口を巨体で塞ぎ、唐突に奇声を発した俺は、それはもう屠殺される前の家畜でも、見るかのような目で見られた。辛い、当然の結果だった。


  それはさておいて、冒険者になるために、俺は一度外に出た。猫に見つかったネズミの様に、デカイ体を縮こまらせて外に出た。勿論、視線から逃れる為である。そして数秒後、俺はその浅はかさを呪うのであった。


  店の外観を見ると、まさにそこが冒険者の宿だったからである。入って来たと思ったら、奇声を上げ立ち尽くし、挙動不審で出て行った男が、さっきまで奇行を重ねに重ねた場所に入らなければならないのである。


  ヤバイ。

  超帰りたい。

  むしろ死にたい。


  しかし、ここで此処を離れると野垂れ死にする。ほぼ確実に野垂れ死ぬ。野垂れ死には嫌だ。どうする。どうるるよ俺!


 噛んでないしパニックでもばい。俺は腐っても人龍族の男。だっだ断じてそんにゃことは無い。無いったら無い。



  数分後意を決して再度扉をくぐった。


「い、いらっしゃい……ませ?」


 綺麗な声だ。この少し古臭い……正直ボロい客も疎らな宿には似つかわしく無い、小柄な可愛らしい人土族、俗に言うドワーフの少女が俺を見て、おっかなびっくり挨拶をしてくれる。


  当然だ。寧ろ、挨拶が出てきたことに驚きだ。俺が店員なら、間違えなくご退場願う、力づくで。


「あ~あの、なんだその……はらへった」

「……え!?っとお、お食事ですか?」

「金はない……」

「……。」

「……。」


  まあ、そうりゃこうなる。店員に向かって、食い逃げ宣言したようなもんだ。


「あ、あうぅ~え、えっと私の残りで良ければ食べます……か?」

「いいのか!?!」

「うえっ!だ、大丈夫ですぅ~あ、あの賄いなのであんまり美味しくないですし、ごった煮ですけど……それでよろしければどうぞ」

「あ、ありがてぇ!」


  うん、本物の女神様かもしれん。見ず知らずのしかも、自分の店で奇行に走った、強面の異種族に自分の食べ物を分け与えられるなんて、そう出来ることじゃない。


  しかし、本当に食べかけだ。食べかけ感がMAXだ。石畳の上で寝れる人が、そんな事気にする訳無いんですけどね。


  ただ、少女は違った様で顔を赤らめている。断じて、俺がカッコイイからでは無い。男性そのものに、余り免疫が無いのかもしれない。あっても、年齢的に気恥しい年頃なのだろう。


  腹が膨れると、申し訳なさを感じ始める俺がいた。少女の朝食を、全て平らげてしまった挙句、金は無い。それに食い終わって気付いたが、さっき外から見えた肉も、その中にあったのだ。


「あ~すまん。美味かった」

「良かったです!」

「金はない……が、なんか手伝わせてもらえんか?流石に申し訳ない」

「い、いえそんな……お客さんに手伝ってもらうなんて……」

「大丈夫だ。俺は金払ってないから、そもそも客じゃない」


  俺がそう言うと、彼女は小さく笑った。


「じゃあ、酒樽運んでもらえますか?いつも、もう1人の子と一緒に運ぶんですが、結構手間でして」

「力仕事なら任せてくれ!見ての通り、力だけは有り余ってる!しかし、人土族なら力仕事はお手の物じゃねーのか?」

「ドワーフで良いですよ?いえ、重くは無いんですけどね……小さいので、酒樽を抱えると前も足下も見えなくって……」

「あぁ。そりゃ、あぶねーな」


  確かに彼女は小さい。俺に話し掛けるのは、さぞ首が痛いだろう。


「そう言えばお客さん、人龍族ですよね?街では余り見かけないんですが、皆さんそんなに背が高いのですか?」

「いや、俺は人龍族の中でも、一際デカイ。里でも一番デカかったな」

「私の3倍ぐらい有りますよね!」

「そうだな、見た感じ丁度3倍ってところだな」


  くだらない話をしながら、店内を見渡すと客は殆ど居ない。机に突っ伏して寝てる、線の細い男が1人だけ。酒樽もまだ来てないらしく、手持ち無沙汰だ。決して、手持ち豚さんではない。


  しかし、なんでこんなに客が居ないのか、不思議に思い店員の少女に聞いてみた。そう言えば店員も、この少女しかいない。何故だ。


「なあ、この店っていつも、こんな感じなのか?」

「えっ!えぇまあ、大体こんな感じですね!でも、まだ朝早いのでもう少ししたら、少し増えますよ?」


  そうだった。まだ、草木も眠る時間だった。こんな時間に押し掛けて、奇声をあげたのか……恥ずかし過ぎるとかじゃなくて、純粋にすげぇ迷惑な奴だな俺。


「なぁ、アンタなんでこんなに早起きなんだ?」

「それはそのぉ~見ての通りと申しますか、なんと言いますか……」

「あ~…………すまん。ボロt……古めかし……趣のある宿だもんな……」

「うっ……はいぃ」


  いかん。食事を分け与えてくれた、しかも見た目が明らかに歳下であろう女性を、思いっ切り落ち込ませてしまった……


  とりあえず、酒樽が来るまで話し込んでいると、ふとこんな話になった。


  良く考えたら、里を出てから余り女性と話した記憶が無い。多分最後に女性に発した言葉は、前の前の街だから凡そ数ヶ月前。放った台詞は「エール1つ」勿論、ウエイトレスのオネーサンだ。可愛かった。


  そんな俺は、初対面のしかもあんまり関わりの無い女性に、名前を尋ねていいものかしばし迷ったが、話の流れで解消される事となった。先に尋ねたのは俺だ。


「なあ」

「はい?」

「いつまでも、なあ、とか、おい、とか、あんたとかだと不便なんだがアンタ名前は?」

「人に名前を尋ねる時は先ず自分から名乗るのが礼儀ですよ?」

「あ"?」

「ご、ごごごごめんなっさい……ええっとコーガ・タタリアですぅ」


  コーガ・タタリアと言うらしい。恩人の名前ぐらいは覚えておきたいもんだ。まあ、咳払いしたら恫喝と間違われたんですけどね……この顔だからね……仕方な……仕方なくねぇよ。酷でぇ。


 しかし、ここは務めて冷静に。


「今のは俺が悪かった。すまんかった」

「い、いえ……えっとお客さんは?」


  お!俺が恫喝基咳払いをしても、思ったよりビビってない、良かった。やっぱ見た目少女でも、流石酒場のウエイトレスさんだな。関心関心。


「俺か?俺の名はディル。ディル・バンディッドだ。ディルでも、バンでも、ディートでも好きに呼んでくれ」


  出来れば、年齢種族問わずに綺麗な子と可愛い子には、名前で呼んで欲しいが、あえて選択肢を用意してみる。ドキドキだぜ!いや、そこまででもねーな。


「分かりました!では、ディルさんとお呼びしますね!私はコタリアとかコタとかコタリーって呼ばれてます!」


  よっしゃ勝った、いい笑顔。


「じゃあ、コタリーで構わないか?」

「お!お客さん珍しいの選びましたね~良いですよ!」


  これも勝った。一体全体、何に勝ったんだかサッパリ分からない俺は、調子に乗ってコタリーと呼ぶ事にした。


  酒樽はまだ来ない。


いや、やっと主人公の名前出てきましたね。

コーガちゃんはロリドワーフです!

主人公はロリじゃなくておねーさんが大好き。

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