集団戦 前編
19話目
全員で門の前に向かうと、そこには騎士団とおぼわしき、統率と調和の取れた集団と、なんの関連性も見い出せない、無秩序、無法則な見た目の二つの集団が、数にして五百に満たない程居た。
警備兵や憲兵、その他防衛に必要な諸々を除いて、騎士団三百ってところだな。他は冒険者だろう。
こりゃ、苦戦するかもな。最悪他国、このボア・モアの場合は他都市に応援要請が必要かも知れん。
そしてまあ、ご存知の通り、人族の覇権争いは、こんな緊急事態でも自然災害の如くある。他に応援を要請した上で、都市の防衛戦力を削がれれば、同じ人族に呑み込まれること請け合いだ。
コレだから、人族ってヤツは困る。隙あらば同じ人族ですら、食い物にするとか、ある意味魔物達より質が悪い。
「なあ、アルン。予想される事を全部教えてくれ」
「分かったは。先ず、ゼクス発生で予想される敵の数は100以下で、集められた冒険者、騎士団の数から見て、50以上と思われるは」
五十以上か結構多いな、レッドキャップの時の、十数匹とは訳が違うぜ。
「それは魔物の難易度問わずってことか?」
「えぇ。ここに居る戦闘要因は、421人で5人又は、6人のパーティが多いはずよ。そこから、戦闘経験、訓練、対処できる魔物の数、敵の☆1、☆2が含まれることまで考えると、70から85といったところじゃないかしら」
腕を組み、首をかしげて、片目を閉じながら解説するアルンは、それは絵になっている。なんて無駄に似合うんだ。そして、やたらと細かいな。
流石に五百は居なかったか。正直二十人以上居ると、数える気が失せるしな。パッと見で五百とした俺も、なかなか慧眼じゃないか。
後一つ言わせてもらいたいのは、この集団を見ただけで、正確に何人いるか把握出来る、アルンの脳の処理能力が可笑しいだけで、パッと近いところを言った俺は存外優秀だと思うぞ。
正確な人数が分かるって事は、鑑定を使って見えた数を、瞬時に数えたんだろうが、あの一瞬で五百近い情報を、処理できるってヤバくねーか。脳の演算処理能力が明らかに人外だ。まあ、そんな事本人に言えば、ひっぱたかれるだろうから、言わんけどもね。
「人族対人族の戦闘行為でも、攻める側の兵力は3倍から6倍の戦力が必要とされているは。」
「なら、こっちは防衛側で相手戦力を約80とした時に5倍は居るから楽勝なんじゃないのか?」
「最後まで聞いてくれるかしら?まあ、敵が人族ならそうなっていたはね。でも、相手は魔物達よ。危険度が☆4や☆5ともなれば、1パーティ5、6人で1体を相手どらなければならないの」
つまりどういうことだ。目線で続きを促すと、更にアルンは続けてくれた。
「戦力は互角、ゼクスに上位の、何パーティか纏めて対応に持っていかれたとすれば、不利と言って差し支えないはね。その分、敵司令塔を早急に倒せれば、モンスター達の統制が無くなるから、如何に迅速に、敵の頭を叩くかで、勝負が決まるはね」
「速攻をかける必要があるんだな」
「そうね。若干の不利の中私達は、上位パーティ数組を、ゼクスとの戦闘できる余力を残させたまま、辿り着かせないといけないは。そして、時間が経てば経つほど、こちらの防衛線は後退し、不利になっていくでしょうね」
Bランクパーティが居るから、時間を掛ければゼクス討伐を、成せないことは無いが、時間を掛ければ掛けるほど、被害が増えてくってことだな。
「ねぇ、アルン。完全に戦線が瓦解して、都市を放棄する確率はあるかしら?」
急にシェーネが口を挟んできた。止めろよ。珍しく集中して聞いてたから、ちょっとビックリしちゃっただろうが。いきなり出てくんじゃねぇ。
「それはないはね。完全に街まで後退すれば、壁が有るし、街中の守備部隊も戦闘に加わるから、都市を放棄する確率は、無いと思うは」
「それなら、私が居ればなんとかなりそうね!」
喧しい。要らんところで、尊大に喋るんじゃない。下手に周りに聞こえて、ヤバイ場所任されたらどうすんだ。
「……アルン。話長い。寝そう」
今すっげぇ大事な話してるから、起きててくれ。
「寝ると俺のベッドに放り込むぞ」
「……凄く起きた。今の私は、ミュー完全体」
じゃあ、今までのお前はなんだったんだよ。とか突っ込まないぞ、面倒いからな。
「ね~まだなんかあるの~も~座りたいよぉ~」
馬鹿は黙ってろ。大体ちゃんと話を聞かずに、ポカすんのは、こういう、フランみたいなお馬鹿さんだと、相場は決まってるんだよ。
「ん~そうね。ゼクスが実はゼクスじゃなく、☆7以上の実力を持っていれば、その限りではないけれど、それは考えないものとするは。ただし、万が一市街戦になれば、被害は大変な事になるのは確実よ」
「市街戦は避けてぇな。門の近くの飯屋、可愛いウエイトレスのオネーサンが居るんだよ」
するとシェーネに思いっ切り蹴られた。何すんだよ。別に痛くないけどね。シェーネは痛かったみたいで、爪先を押さえ蹲っていた。
「何してんだお前?」
「いったいはねぇ!何すんのよ!バカぁ!」
こっちのセリフだっつーの。蹴られた挙句バカ呼ばわりとか酷すぎる。待遇改善を求めて、デモの為に、シェーネの風呂に乱入するしかねぇ。
「で、結局お前何がしたかったんだよ」
「いくらディルみたいな、全くモテない男でも、これだけの女性と話している中で、他の女性の話をするのは失礼だは!」
人を唐突に蹴たぐった挙句、バカ呼ばわりするのは、失礼に当たらないんですかねぇ……
「お、おう。悪かったよ」
「分かればいいのよ!分かれば!」
うわぁ~釈然としねぇ~超殴りたいこの笑顔。
「続けていいかしら?」
「どうぞ、どうぞ」
ほら見ろ。シェーネのせいで、怒られたじゃねーか。
「だから、進軍してくる魔物の軍勢に打って出るのは仕方ないと思うは。街は無くならないけれど、外壁まで後退したら事実上負けと言っていいはね。そこまで来てしまったら、もう他の街から、援軍を待って街に籠城するしかないでしょうね」
「結局私何すればいいの!」
馬鹿なお子様には、もう限界だったようだ。これだから、身体だけデカくなった奴は困るんだよ。何処が何とは、言わないけども。
「私の言うことだけを、忠実に聞いていればいいは」
「分かった!」
単純明快にして、圧倒的簡略化だった。後ちょっとで、吹き出すとこだったは。犬かよ。
「それって全体の話だろ?俺達は苦戦しはじめたら逃げね?」
「被害の大きさは分からないけれど、街は放棄しないのだから、逃げたのがバレたら、戻りにくいじゃない。話聞いてた?」
「す、スマン」
マジか、逃げちゃダメか。辛。
「それに、苦戦すると言っても、私達は所詮Eランクパーティ。☆4や5と戦うことなんて、無いと思うは!」
「敵に☆1や2が、わんさか居ることを祈るしかねーな」
そう言うとアルンから、氷の華が飛んできた。ため息だ。
「わんさか居る訳ないじゃない。居たら街を襲おうなんて、思わないはよ。まあ、ゼクス未満の知能しか無い、ディルとフランでは仕方ないはね」
「なんで、私今馬鹿にされたし!会話に参加してなくない!?」
俺が馬鹿な事を言うと、自動的にフランも貶められる、この制度が割と好きだったりする。
「とりあえず、リーダーさん?防衛戦参加の旨を、騎士様達に伝えて来てくださらないかしら?」
と言うことで、アルンの命令につき、パーティリーダーである俺は、『月華氷焔の盾』が参加する意を、騎士団に伝えに来たわけだ。伝令だな。いや、意味が少し違う気もするが、まあいいか。気分だよ気分。
パーティリーダーなのに伝達役とか、ざ~んし~ん!すご~い!なんか前にも、フランに似たようなこと言われた気がするな。
思い出したら、やっぱり許せんので、すれ違いざまに数回揉んでおこう。あんだけデカイんだし、少しぐらいバレんだろう。名案だな。
「あ~俺達も、ゼクス討伐隊に行くように、憲兵に言われてきたんだが、どうすればいい騎士様よぉ?」
「協力に感謝する。所属する宿の名前と、パーティ名、人数、ランクを教えてくれ。適切と思われる場所に、隊長が振り分けるから、後はこちらの指示に従ってくれ」
騎士様って~のは皆こんな感じなんかな。妙にエリート臭が鼻について、ムカつく喋り方しやがる。何より、呼ばれてわざわざ来てやってんのに、上から目線なのが気に食わねぇ。俺の見た目とかほぼ、モンスターだし、どさくさに紛れて、何人か殺るか。
いや、止めとこう。パーティにアルンのお嬢様と、一応何となく、自称お嬢様のフランも居るしな、問題にでもなったら、大問題だ。ん?そりゃ問題になったら問題だよな。問題が問題になるから、問題が、問題で、えっと……つまり、要するに、面倒事がジェノサイド級ってことだな。意味分からんけど。よく考えたら、俺モンスターじゃないしな。
よく分からんことを考えながら、騎士様達に伝えてきた事を報告しに戻って来たので、フランの胸を揉みしだく事にした。
「よぉ。戻ったぞ~」ムニュ
「ひゃぁぁぁぁぁぁ!!!」
後ろから鷲掴みにすると、悲鳴をあげられた。
ふむ。相変わらず、とんでもねぇボリュームだな。爆発だぜ!
「いきなり、人のおっぱいになにするしぃ!」
「いや、俺は悪くない。強いていえば、フランとおっぱいが悪いと思う」
「んなわけあるかぁ~!!!」
「そうだな。スマン。フランは悪くても、おっぱいは悪くないもんな!最高だったぜ!ナイスおっぱい!」
「死ねぇ!後、私なんもしてないんだけど!今回に限っては、絶対私悪くないんだけどぉ!!私悪くないからぁぁぁ!」
おいおい、これから、モンスターの討伐に行くのに、死ねなんて不謹慎じゃないかい。ジェスチャーで両手を横にして、ヤレヤレってやったら、フランにめっちゃペシペシされた。勿論、痛いのはフランだけだがな。
んで、そんなくだらないことしてると、フラン共々、アルンにクッソ怒られました。はい。
「うえぇ!私悪くないのにぃ……おっぱい揉まれるし、手痛いし!怒られるし、怒られるしぃぃ!!なんなのもぉ~!!!うわぁぁぁぁん!!!」
フランが、地面にペタンと座り込んで泣き出してしまった。
「悪かった悪かった。泣くなよ、面倒臭いから」
「めんどうくさいってゆったぁ~わぁぁぁぁん!!」
おっと、つい本音が……
「ほら、泣きやめよ。俺が悪かったから」
「……魔石」
「……は?」
「魔石買ってってゆったの!そしたら許したげる!」
「ばっかお前!魔石っつったら、最低でも銀貨5枚はすんだぞ!」
「良いじゃん!お願い!だって欲しいんだもん!」
「お嬢様は、おねだりすればホイホイ買ってもらえるのかもしれんが、俺にそんな金はない!」
「何でもするってゆったじゃん!」
「言ってねぇ!俺が悪かった、とは言ったけども!何でもなんて、言ってねぇからな!」
「やだぁ!買って買って買ってぇ!!買ってったら買ってよぉ!!」
フランとの攻防に誰か援護に来てくれと思い、周りを見渡すと、シェーネは我関せず。
ミューは立ちながら寝てる。無駄に器用だなアイツ。
アルンは少し離れて、全く無関係の他人を全力で装っていた。
少し離れてる奴等からは、だたのバカな男女が、バカな痴話喧嘩してる様にしか見えてないみたいだ。悲しい。俺割と、このくっだらないやり取り、死活問題なんだけど。俺の宿と飯がかかってるんだけど。
結局周りの目がキツくなり、最後までいい歳して、駄々っ子を貫いた、馬鹿な子には勝てなかったよ。手持ちが銀貨3枚と少ししか無かったので、アルンに地面に頭を擦り付けて、残りを貸してもらった。代償は、プライドと、この討伐報酬の半分だそうだ。
この討伐依頼、依頼元が都市で、緊急依頼だから、最低でも金貨は堅いのに、その半分とか、アルン様強欲過ぎません?10日で五割とか、10日で十割の、危ないオッサン達のがまだ、良心的な件について。今日銀貨2枚借りて、今日返すのが、最低でも銀貨50枚とか、ボッタクリとかいうレベルじゃないんだけど……
しかも、半分って事は、報酬が上がれば、払う金も増えるって事だ。足元見る商人だって、もう少し良心的だぜ……
かと言って、ミューは俺と同じ前衛で、防具と武具に金がかかるから金持ってないし、シェーネは個人の魔法研究につぎ込んでるから金がない。このパーティアルンしか、金持ってないんだよなぁ。フランはと言うと、良く分からん小物とか、使い方が不明なアイテムとか、無意味なものに金を使うせいで隙あらば、俺に集ってくるからな。
やっぱり、アルンに借りるしか無かったので、あの無茶苦茶な要求をのむことにしたのだった。
「とりあえず、俺の手持ちじゃこれしか買えんかった。」
俺はそう言いながら、一番小さい石ころみたいな魔石を、フランに手渡した。
「ううん!すっごく嬉しいよ!ありがとう♪大切にするね!」
フランは大事そうに、その小さな石を両手で包み、胸に抱いた。
フランの笑顔がめちゃくちゃ輝いている。店先にあった、一番安い、しかも内容もよく見ずに適当に選んだもので、そこまで喜ばれ、大事そうにされると胸が痛い。
「それにしても、なんだかんだ言って、ディル私の事好きなんだね!」
「はぁ!?!」
「だって、男の人が、女の子にピンクの、回復の魔石渡すって事は、大事な人だから怪我しないで欲しい。って意味なんだよ!」
「な!ちょっばっか!!違ぇ!アホ抜かすなら返せ!」
「や~だよ!ふふっ♪ジョーダンだよ、じょーだん!ディルってばおっもしろ~い!」
クッソ不覚にも、一瞬ときめいてしまった。可愛いじゃねーか。コレだから女の子ってズルイ。美人に貢ぐ男の気持ちがよく分かる。それに、こんなに素直に喜んでくれるのが、目に見えて分かれば、嬉しいしな。
いつも通り、全身で喜びを表現するフランには、とても疲労回復に効果がありました。まる。
あの後、騎士様の隊長から振り分けが決められ、街を出ること数時間。俺達は遂に、ゼクス率いる、魔物部隊と戦闘を開始した。
「どっひゃぁ~いっぱいいるねぇ~!!すごい!すごい!」
フラン。仮にもお嬢様なら、どっひゃぁ~は如何なものかと思うぞ。後、ピクニックじゃないんだから、はしゃぐんじゃありません。怒られんぞ。
「そう。そんなに嬉しいなら、フラン1人で、アレに突っ込んで来てもいいのよ?」
やっぱりアルンが怒ってた。いや、なんかすまん。
「死んじゃうじゃん!」
「ちょっとアンタ達!真面目にやりなさいよね!」
シェーネもうるせーから吠えるな。
「ディル!とりあえず突っ込みなさい!」
「任せろ!」
こっからは俺のターンだ!
「シェーネ!打ち合わせ通り、ディルごと全てを焼き払いなさい!」
「アルン!テメェ!!」
やりやがったなあの女
「全力で行くはよ!『炎の理を統べし、原初の精霊よ、湧き上がる魔力の奔流よ、破壊せよ、再生せよ、頂きたる紅蓮の炎よ、我が敵を焼き払い、全てを業火に閉ざせ、逆巻け、侵略しろ、我が名の元に、大いなるその姿を示せ!』」
「おまっ!?!?精霊魔法!?人に向けて10音節以上の、魔法放っていいわけねぇだろ!ふっざけんな!!死ぬっ!?死ぬっつーの!!!」
「『全てを統べる炎』」
ギャアアァァァァ!!!グゲグキョォォォォ!!ジビヴァゴボォォォォォ!!!
「てっめぇ!!!焼き殺す気か!ふざけんな!例え下位魔法でも、第4位精霊魔法はダメだろ!」
本来魔法ってのは、戦闘時に使う為、二音節とか、三音節が普通である。それに見合った魔力を消費し魔法を発動させるもんだ。勿論魔力量が足りなければ、発動しない。
しかし、十音節以上の精霊魔法は、別だ。魔力と周囲のマナ、自分の生命力を贄として、精霊を呼び出し、強制的に発動させる代物だ。
本来使役出来ないレベルの精霊を呼び出すため、制御は不可能。まあ、今回はシェーネの魔力量が少な過ぎたのと、周囲に火のマナが少なかったので、幸いスグに帰ってった。が、下手すれば、精霊が満足するまで、暴れ倒してくこともあり得た。
「アルン!テメェ!集団戦で、範囲精霊魔法許可するとか正気か!」
肝心のシェーネはと言うと、生命力をごっそり持ってかれたようで、既に虫の息だった。
「今シェーネを治してるから、後で聞くは!いいから、敵をこっちに通さないで!」
コンチクショウ!後で覚えてろよぉ!!
「早くシェーネを回復して、俺にも回復飛ばしてくれ!割と死ぬ!!」
シェーネは、精霊魔法は第二位までしか、知らなかったはずだ。自滅覚悟の十音節を使うなんて、シェーネが自分からする訳ねぇ。さっき街中で、シェーネが調子に乗った時、アルンの頭に来たんだろうなぁ……
でもまあ、俺の前に居た、ゴブリン、コボルト、レッドキャップとかは、死にかけだったり、死んでたりするしな。死んでるのは五体、大ダメージを受けたのが三体。纏めて八体も焼けるとか、流石、第四位の精霊魔法。下位でこの威力とか、シェーネが虫の息になる訳だ。
つーか最初に突っ込んでったのが、俺じゃ無いEランクの前衛だったら、モンスターと一緒にご臨終だったぞ。
勝つためなら、仲間にも容赦無いとか、やっぱりアルンは別格だぜ。キチガイ過ぎる。パーティメンバー俺達じゃ無かったら、間違えなくフレンドリー・ファイアで追放もんだな。次いでに、アルン程の美女じゃ無かったら、俺が喰い殺してた。これは間違えない。
にしても、☆3のモンスターは第四位と言え、下位の精霊魔法じゃ焼き切れなかったか。レッドキャップの中に、重い攻撃を入れてくる、別の☆3個体が居るせいで、さっきの火傷が身体に響きやがる。思った以上にピンチだ。
「『癒せ!キュア・ライト』お待たせして、ごめんなさい!シェーネが思ったより重症だったのよ」
「お前のせいだけどな!ナイスタイミングだ!相変わらず、恐ろしいほど的確な、体力管理で」
「当然よ。だって私だもの」
チラリと背後を見ると、そう言ってアルンは回復魔法の後に、ウィンクを飛ばしてきた。
「決まり過ぎだろ。危うく惚れるとこだったは!」
「あら、まだ惚れて無かったの?」
本当にマジ火傷の大ダメージが、コイツのせいじゃ無きゃ惚れてたは。危ない危ない。ホンットカッコイイな、うちのアルンちゃんはよぉ!
精霊魔法騒動が、一通り収束し、他のパーティの前衛も前線に出てきた。ミューも上がってきたし、先制攻撃も入れれた。楽勝かも知れん。
頑張れよ。ゼクス討伐をする中央突破の部隊と、俺らと逆側の部隊さんよ。こっち側はアルン先生の頭の可笑しさが有れば負けそうにねぇからな。
アルンとミューは仕事したんだ。こっからは俺達前衛の番だぜ。
「ミュー!ディルのレッドキャップを2体とも引き付けて!」
「……分かった」
この、レッドキャップに混じって来た、やたら一撃が重いのそんなにヤバイ奴なのか。お陰で、レッドキャップの素早い連撃が無くなった分楽になったけどよ。
「ディル!ソイツを確実に抑え込みなさい!『ハイ・ボガート』のパワーは☆3の中でもかなり危険なの!」
「大丈夫だ!さっきの回復ので、コイツぐらいなら余裕でもつ。ミューと他のパーティの奴等を気にしてやってくれ!」
「分かったは!危なくなったら呼びなさい!いいはね!」
一体一で俺とパワー勝負だと。モンスターとはいえ、いい度胸じゃねーか。
「オラァ!お前ら全部俺の金に成りやがれ!斬首だ、斬首!」
「グぎゴゴギゃ!!!ごギャがゴギ!!!」
「何言ってるかわっかんねーだよ!くたばりやがれぇ!!!」
俺は斧を思いっ切り、横に薙ぎ払った。しかし、血は出たものの、倒れない。
「おいおい。魔法で焼かれた挙句、俺の膂力でぶち抜けないとか、どんだけかてーんですか、コノヤロー。人龍族の俺より堅いなんて、認められねぇんだよ!このドカスが!!」
これはアルンが教えてくれた、攻撃方法を試して見るか。人龍族の特性を使った、限定的な戦闘方法だ。なんで、人龍族の俺が、人族のアルンに聞いてるんだとか、言った奴は後で焼く。
先ず、一歩後ろに全力で跳ぶ。翼で土埃を巻き上げ、相手の視界を奪う。そのまま空に飛び、天空から相手の頭上に落下する。
グシャ!!
エクセレント!グッチャグチャだぜ!脳天から一気にいったな。綺麗な肉片と、血溜まりの完成だ!
「次ィ!!」
「ディル!土埃の左15歩に走ってて!」
感知優秀過ぎだろフラン。俺には何も見えんぞ。
「了解だ!」
14…15!
「そこで横に薙ぐ!」
「ドラァァァァシャァァァ!!!」
バギャ!
この骨を力づくで、ひん曲げた様な音と手応え、ビンゴだ!
「ディル!ミュー!一旦引いて!近付いて!纏めて回復するは!」
範囲回復まで使えるとか、アルンお嬢様相変わらず、ぶっ飛んだ優秀っぷりだな。帝国貴族のスーパーサラブレッドちゃんは格が違うぜ。
「おう。ミューさっきぶりだな。さっきの2体どうした?」
「……細切れにした。食べる?」
「……お前、俺をなんだと思ってるんだ。」
「……泥団子?」
ダメだ。万年寝女の感性は、常人には分らん。俺に対する感想を聞いて、返ってきたのが、泥団子とか訳わんねぇ。
「……お前、もう少し会話出来るタイプのキチガイじゃ無かったっけ?」
「……それ程でもない」
いや、別に全然褒めてねぇけど。
「お、回復したな!」
「……そう。じゃあまた、後で」
アルンの指示が無いと、割と自由だなコイツ。
「待って、2人とも。はい!補助魔法よ。『交差し、重なり合う、2つの鐘、クロッシング・ディ・ベル』この鈴が、消えるまでは、ディルはミューの速さを、ミューはディルの守備力を少しだけ得られるは!では、2人は私達3人から、離れ過ぎない位置で戦ってちょうだいね。具体的に言うと、この乱戦で目視できる範囲に居なさい。いいはね?」
「おうさ」
「……分かった」
おぉ!いつもよりかなり速く動ける。コイツは便利だぜ。
「おっしゃぁぁぁ!!!これで3匹目!」
アルンの補助魔法のお陰で、☆1.2の駆除がいつもより楽だ。
今、俺とミューはアルンからの指示で、苦戦しているところや、強そうな魔物は放っておいて、雑魚を殲滅し、見た目の数を減らすことに尽力している。
曰く、敵の数が目に見えて減れば、それがそのまま、指揮の向上に繋がるらしい。さっきの隊長より、よっぽど隊長っぽいな。
戦闘は関係ないが、アルンはその頭脳を買われて、古語の解析や、古本の整理をしてた事があるそうだ。今も気が向いたらやってるらしい。その優秀さ故に、付いた二つ名が、『叡智の名を冠する者』なんて、呼ばれているそうだ。
よし、雑魚が目に見えて減ってきたな。こんなもんだろ。一旦戻るか。鈴も消えたしな。
俺は意気揚々と、アルン達の元に戻るのだった。
1話で終わらせるつもりだったのに、結構長くなってしまったので、前後編にすることにしました。