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新しい盾とゼクス発生

17話目

 草むしりの報酬で念願の盾を買った。早めに買わないとスグ使っちまうからな。



 ずっと欲しかった人族成人男性の身長ぐらいある、めちゃくちゃデカいタワーシールドだ。多分人族の男が持つなら2人がかりでも辛いだろう。3.4人は必要だな。


 普通に考えて、自分と同じ身長の鉄の塊を、1人で持ち上げられるわけ無いんだけどな。約俺の3分の2弱だ。この大盾を持った俺がタンクとして敵正面からぶっ込んでくんだぜ。対人戦とか超有効そう。


 前の盾は軽くて小さ過ぎたからな。今ぐらいの重さが丁度良い。勿論この盾に変えても、アルン達全員と荷物を担いでくぐらいわけないぜ。タダでさえ屈強だった、俺の馬鹿みたいな筋肉が、冒険者生活で更に磨き上げられ始めてきたからな。


 大盾を装備した、余りの威圧感にシェーネはドン引きしてたな。


 まあ、シェーネは面倒臭い言動を除けば、パーティである意味1番の常識人だからな。


 この間まで、1番の常識人枠だったミューは懲戒免職だ。どの辺が常識に欠けてるかって言うと、言わんでも分かると思うが、アイツ自分が言いたいこと全部言ったら、人が喋ってても普通に寝るからな。


 懲戒?俺に難しい言葉を聞くんじゃない。響がカッコよければ意味なんてどうでもいいんだ。



「貴方その盾ずっと眺めているけれど飽きないかしら?」

「飽きねぇんだなぁ~コレが」


 全然飽きないぜ。見ろよこの光沢。鈍く光るいぶし銀の俺に相応しい大盾だ。


「でも、銀貨18枚でしょう?」

「……そうなんだよなぁ」


 そうなんだよなぁ……草むしりの報酬残り銀貨2枚しかないんだよな。


 前の討伐報酬も結局アルンやらフランに奢らされて、そうすれば当然ミューやシェーネも集ってくるわけで……ってなんでパーティで1番金が無い俺に集ってくんだこいつら鬼か。


 ここは1発ガツンと言ってやろうじゃ無いかこのディル様がよぉ。


「そもそもお前らに、強請られなければもう少し懐に余裕があったんだがな。大体なんで、パーティ1の貧乏男に集るかねぇ……」

「あら、ディルなんかでも、男の人に奢ってもらえるのは嬉しいはよ!」


 中身はともかく、アルン程の美女にこう言われちゃ俺の負けだ。一緒に食事する相手が、全く自分と釣り合わない俺なんかでも、こんなに素直に喜んで笑顔を返してくれるのだ。相手が絶世の美女なら、こんなに嬉しいことは無いだろう。男冥利に尽きるってやつだな。


「お前らなら、一緒に食事したいって男のが多いんじゃねーの?それにアルンやフランは、俺が奢れるやっすい飯じゃ無くて、家のが美味いだろ?」

「他の男は面倒なのよ。つまらない会話に驚いてあげたり、下らない武勇伝を大袈裟に褒めてあげたり、隠してるつもりの下心に気付かないふりをしながら、やんわりとプライドを傷付けない程度に断らないといけないもの」


 心底鬱陶しそうに溜息ながら言われると、そういう誘いが頻繁にあり過ぎて辟易してるのが良くわかる。


「お前男に対してそういう配慮出来たんだな」

「私に声をかけてくる男性は、みな自分に自信のある殿方が多いの。そしてそれは自然と貴族とかAランク冒険者様とかになってくるのよ。プライドばかり高くて困ってしまうは。特に貴族だと断わりづらくって」


 鼻っ柱が強いチャンピオンのアルンを持ってして、そう言わしめるとか遭遇したくねぇな……帝国貴族のアルン様でも、相手が貴族位だとやっぱ気を使うんだな。家の評判とか有るもんな仕方ないか。


「その分ディルは気楽でいいは。下心が丸出し過ぎて、警戒する必要すら感じられないもの」


 何がおかしいのか彼女はそう言って少し笑った。その横顔は儚げで美しかった。女性が花に例えられる意味が良くわかる。触れれば折れてしまいそうだ。




 そんな神妙な気分に浸っていると、皆で席を囲っていたことを忘れていた。


「アルンに見蕩れてるところ悪いんだけど、集られるのはディルのせいだとフランちゃんは思うよ?」


 んだよ。割と綺麗に心を纏めてたのに邪魔すんなよこのおっぱいエルフめ。


「んだよ!なんで、俺が悪ぃんだよ」

「え~あったりまえじゃん!いつもおっぱい見て鼻の下のばしたり、お尻触ったり、偶然を装って胸に肘当てたりしてるの皆気付いてるんだからね!」


 げぇ、バレてた。


「露骨すぎるもん!気付かない女の子なんていないよ!それでもその度怒ったりしてないんだから、ご飯ぐらい奢ってくれてもいいと思うよ!寧ろ安すぎるぐらいだし!ご飯と雑用に免じて許してあげてるんだからね!本当ならもう100回は通報してるんだから!」


 うわぁスゲェ恥ずかしい。割と苦心してたんだがなぁ…頻度が高すぎたかな……


「いや、目の前にぶら下がってんだから仕方ないだろ!美味そうなのが悪いんだ!」

「開き直った!この男最低だぁ!?」


 自分に都合が悪い時は開き直る。だって人間だもの…龍だけど。


「……私が机で寝てる時に部屋まで運んでくれるのは嬉しいけど、胸囲をガッツリ掴んで肩まで運ぶのはやめてほしい」


 揉むほど無いだろ。ただ持ちやすいところがたまたま胸なんだよ。


「……今そもそも揉むほどないだろって顔したのでディルは殺す」


 顔に出てたらしい。ヤバイ殺される。


「いや、たまたまだって!掴んだ場所が悪かったのは謝るよ」

「……毎回肩に担いだ後、スカートを捲りあげてお尻を撫で回しながら運んで無ければ信じてあげたかもしれない」


 あちゃー起きてたか。つーか起きてんなら言ってくれよ。後皆の前で暴露されるのは辛いです。


「いや、それもたまたまめくれあがっただけで……尻は落ちないように掴んでただけだって!」

「……なら、肩に乗せるときに反対向きに担げば良いし、めくれてるなら戻してくれるのが紳士」


 ぐぅの音も出ない。完敗だった。チクショウ。


「……毎回部屋まで自分で歩かなくていいのと、ご飯奢らせてあげるので、許してるので、切りつけないであげている。感謝して欲しい」

「あ、ありがとうございます」


 コタリーが今裏に行ってていないからまだ良いが聞かれてたら自殺ものだった。セーフセーフ。


「私も言いたいことがあるんだから!」


 なんだよシェーネもういいよ。お腹いっぱいだよ。


「お風呂覗くのは構わないけれど、もう少し隠れる努力をしなさいよね!」


 構わないのかよ……普通構うだろ。


「まあ、見られて困るようなプロポーションしていないつもりだから見たければ見ればいいけど、脱衣場に忍び込んで下着を漁るのはやめて。何度履くものが無くて困ったか分からないは!特にスカートの時は止めてよね寒いんだから!」

「悪かったよ」


 犯行の一部始終バレてるじゃねーか。


「はい」


 シェーネが手を突き出してきた。なんだ一体。


「盗んでナニに使っても私は咎めないし返せとも言わないけれど、アルン達と違って一般市民なの。下着の代金は請求させてもらうは。感謝しなさいよね!」

「寛大な処置に感謝します」


 そうだよな。冷静に考えたら下着盗むのここには俺しか居ないもんな。


「なあ、シェーネ。脱衣場に居るってわかってたならなんでその時に注意しなかったんだ?」

「当たり前じゃない。下着を盗まれても寒いのとお金ぐらいしか困らないけれど、素っ裸で貴方の前に出て行ったら間違えなく襲われるもの!まだ下着盗まれた方がマシよ。出て行って咎めたところでディルに勝てるわけないんだし。最初は普通に怖かったんだからね!反省しなさい!」


 や~本当ごめんなさい。もうしませ……いや、するな俺だからな。


「ディルさん?そんな事してたんですか?」


 へ?


「もしかして私のお風呂とかも覗いてましたか?」


 真っ赤な顔で俯いてぷるぷるしている可愛い生き物が足元に居た。コタリーだ。


「いや、覗いてない!覗いてないです!クズ龍と名高い俺でも良くしてくれてるコタリーにそんな事する程、流石にそこまでクズじゃ無いです!」

「確かにコタリアは愛らしいけど……貴方まさか幼j」

「おっと、それ以上いけいない!」


 アルンやフランにエロいイタズラをして怒られるんならまだ制裁ぐらいで済むけど、流石にコタリーは色々不味い。


「本当ですか?」

「罪を悔い改めるなら早い方がいいはよ?」

「ディル。私の裸を見たいのは男の人ならしょうがないと思うけど、流石にコタリアちゃんはドン引きだよ」

「……私達にする卑猥なイタズラならまだ、笑いながら制裁を加えて許せるけど、コタリアにするのはどうかと思う」

「えっと、そんなに下着が欲しいなら私のあげるから、コタリアさんのは止めてあげて欲しいは」


 このままだとマジでしたことにされてしまう。


「待て待て待て待て!ちょっと待て!やった前提で話すな!そこ!ドン引きするんじゃない!後お前ら意外と裸に関しては寛容だな!」

「私は存在が芸術だから、ディルが見たいと思うのは仕方のないことなのよ」

「フランちゃんが魅力的なのは当たり前だしね!」

「……冒険者をやってて水浴びの度に恥ずかしがっていたら、冒険に出れない」

「女は見られて美しくなるの。それに見られるだけなら実害は無いしね!別に見たければ見ればいいは」

「わ、私は恥ずかしぃですし、困っちゃいますぅ」


 パーティ四人はいっそ清々しいな。潔すぎて最早男らしい。恥じらってるコタリーちゃんガチ天使。後60年ぐらい早く出会ってたらお近付きになりたかった。


「大丈夫だ安心してくれ!コタリーにだけはそんなことしてないから!」

「わかりました。信じてます!もし、嘘だったら泣いちゃいますよ?」


 ウルッとした大きな目が非常にそそるんだが、そんな事はしないぞ。後超可愛い。



「やっぱり、えっちぃのはいけないと思いま~す!」

「なんだろうな。多分コタリーが言えば、すごい可愛かったんだろうが、フランが可愛い言い方しても全然可愛くねぇな。無駄にエロい」

「歩く卑猥物だから仕方ないはね」

「……見た目が青少年向けで無い」

「貴女そんな格好で良く街中歩けるわよね」

「なんでこっち来たし!ディルをいじってたハズなのに!うわぁぁ!」


 痛い痛い。バシバシするんじゃない。凄い勢いで揺れてるだろうが、巨龍が歩いたってこんなに揺れねーよ。


「痛ぇよ。いつまで人様ぶっ叩いてんだよ」

「痛くないでしょ!ッてゆーか叩いてる私の方が痛いんだけど!」


 そうだな。痛いって言うか金属鎧が、ガッシャンガッシャンうるせぇって感じだな。


「私の細腕じゃ私が痛いだけで全然楽しくないよ!」

「人叩いて楽しいとか割と最悪だなお前」

「……そういうのはアルンの方が似合う」

「確かにそうね!」

「貴女達少しお話があるは」


 ……逃げたいんだけど。もしもし。シェーネさん離してくれませんか。


「私しーらないっと!」

「……!」


 フランはミューが超速で確保した。


「……旅は道ずれ」

「えぇ!?!今私関係無いし!アルンに怒られるのはいやぁ!離してぇ!」

「諦めろ。時に諦めが肝心だぞ」

「なんで勝手に悟ってるし!私は嫌だからね!離してぇぇ!」


 暴れんな。色々危ないから。机とか椅子とか、おっぱいとかおっぱいとか危ないから。今にも溢れそうだから。


「ディルは逃げないでくれるって思ってたは!」

「じゃあなんで腕掴んだんですかねぇ」

「ちょっと肌寒くて人恋しかったのよ……」

「変に上手い言い訳するんじゃねー。ちょっとドッキっとしちゃっただろうが」


 何お前俺の事好きなの。止めろよ勘違いしちゃうだろ。


「それは気持ち悪いは」

「酷でぇ」


 この後アルンにたっぷり絞られた。


 膝が痛い。

 なんで、俺だけ外なの砂利痛いんだけど。


 平謝りでやっと宿の中に入れてもらえた。コタリーのおかげでだけどな。


「夏でも外で座るのは少し可愛そうですよ」

「コタリアは優しいものね。仕方ないはね。コタリアに免じて許してあげるは」

「ありがとうございます……」


 良かった日差しで焼けて地味に暑かったんだよ。




 暫くして、いつもは開かない扉が今日に限って開いた。憲兵がゾロゾロと入ってきたのだった。


「あら、ディルついに通報されたの?」

「違ぇ。え、違うよね?」


 どうやら違うようだ。憲兵に俺を取り押さえる挙動は無い。って言うかなんで、俺が通報された前提。俺しか憲兵呼ばれる可能性のあるヤツ居ねぇってことかオイ。


「通報は受けていない。ゼクス発生の為、冒険者の宿『忘却と驚愕の尻尾亭』に協力を要請する。出撃可能な冒険者諸君は、可及的速やかに、街の門の前に集まるように。門の前に行けば、討伐隊編成の騎士達がいるので、指示に従うように」


 おい待て。ゼクスってなんだ。

「えっと…えっちぃのはいけないと思います!」

「えっちぃのはいけないと思うのだけれど!」

「えっちぃのはいけないと思いま~す!」

「…ディルは存在がいけないと思う。」

「えっちぃのはダメなんだからね!」


「やっぱコタリーが1番可愛いな!次にシェーネ。ミューに関してはなんだ。やる気ゼロか。」

「…私がディルを楽しませてあげないといけない意味が不明。」

「よし。ミュー以外には酒を奢ってやろう。」

「……ショック。」

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