難易度☆3の脅威
11話目。歌歌ってたら遅くなった。
段々と頭上に降り注ぐ光と影が逆転する。だいぶ奥まで来たな。
「かなり深いが大丈夫か?」
「んっ……大丈夫」
フランもいつもより警戒してるみたいだな。それも仕方ないか、昨日は最大で4匹の集団にしか遭わなかったが、今日はやたらと多い。勿論遭遇する頻度もだが、一つのグループの数が多い。一般的にゴブリンは3~5匹で活動するらしい。それを逸脱している。
まあ、全部と戦った訳じゃない。適度に戦闘回避しないと、やってられんからな。
更に奥へと進んで行くと、少し開けた場所に、洞窟があった。ビンゴだ。近付くに連れて、秩序だった動きを見せ同じルートを巡回してると思われるゴブリン達に複数遭遇した。
あの奥にゴブリン達を使役している上位者が居るはずだ。ゴブリンの知能は、お世辞にも優れてるとは言い難い。そんな奴らを従わせるのは利益や情等ではなく、純粋な力のみだ。
「ゴブリンを使役しているヤツの正体が分かったは」
俺達はまだ洞窟にすら入っていないなぜ分かったのか。
「どうして分かったのか聞きたそうな顔ね?」
「そりゃな。俺達はまだ洞窟の外で中にも入っちゃいねぇ」
「だからよ」
は?コイツの言ってることは良く分からん。俺が首を捻っているとアルンが続ける。
「洞窟の入口に門番が居るでしょ。アレはボガートと呼ばれるモンスターよ。ランクは☆2ゴブリンと一緒ね。アレを門番に立てるってことは、可能性的に考えてその上位種と判断するのが妥当ね。まあ、ボガートの上位種と言っても直接的な関係は無いらしいのだけれど、何故か必ずセットで見かけるので上位種とされているは」
「して、その暴虐の徒は?」
「レッドキャップね。性格は残忍で、生まれた頃は真っ白なその髪を人族の血で染める事に生き甲斐を感じ、人を見れば恐るべき距離を瞬く間に詰め、斧で殺す。速さと残忍さに定評のある難易度☆3、最低のFランクに於いて毎年かなりの死者をだす、初心者パーティの鬼門ね」
マジか速いの厄介だな。俺はデカイ分護れる範囲も広いが、小回りが利かない。ちょこまか動かれたら先ず当たらんと考えて良いだろう。
それにこちらは、ゴブリンやコボルトとの連戦で、相手が弱いとは言え少なからず疲弊している。今回の依頼偵察で帰った方がいいかもしれん、命あっての物種だ。死んだら飯は食えねぇし、娼館にも行けねぇ。
「速いのか俺は苦手だな。もしその速さで俺が抜かれたら大変な事にならないか?」
「……大丈夫私が受け持つ。速さで☆3如きに負けたりしない」
ミューは自信満々のようだ。アルン大先生に聞いてみよう。
「どう思うアルン」
「ミューなら問題は無いと思うは。少し面倒だけれどアイツらは小声で喋るような知能は無いから、聞き耳をたてて横道を虱潰しにして、後ろから援軍が来ないようにすれば勝率はかなり高いと言えるはね」
なるほどな~細かい作戦は全部アルンに投げよう。
「横道はどうやって見分けんだ?」
「言ったじゃない。フランはレンジャーがメインだけれどシーフも兼ねているの。足跡や話声で、どの道にどれ位の大きさのモノが何体居るぐらいなら分かるは。それに強いモンスターはマナの濃い場所を好むから、ほぼ確実にそこにいるでしょうし」
なるほどフランはエルフだから、マナの濃淡には敏感だ。濃い場所を避けていけば自然と横道から潰していけるだろう。
「他に連絡次項は?」
「フランが危険だと判断したら、ディルを殿として即時撤退よ」
「了解だ」
「……分かった」
「まっかせてよ~!」
門番のボガートは1体だ。洞窟の入口が横にそんなに広くないからな。ミューが引き付けて俺が後ろから一撃でペシャンコにする作戦だ。
ミューがわざと音を立てて飛び出すと、案の定食いついてきた。ボガートは残忍な性格だが、知能は低いらしく目の前の人を襲うことを最優先とする為、洞窟の中に援軍を呼びに行ったりはまずしないそうだ。
「……今!」
よし。背後を取った。
「どっせい!」
綺麗に左右に真っ二つだ。思いっ切り振り下ろした為、返り血が俺とミューにドバドバ掛かった。めちゃくちゃ臭いし、汚い。
「……次の獲物はディル。ドラゴンのソテーにしてあげる」
お怒りだ不味い……しかもコイツ俺を食う気だ。物理的に。
「待ってくれ俺が悪かった。殺さんでくれ」
どうしようかとあたふたしているとフランが助け舟をだしてくれた。
「ここから少し離れるけど、川が有るよ!音が聴こえるから間違えないよ!」
俺には全く聞こえない。フランて超上的な耳してんだな。
「……良かった。ディルが晩御飯になるところだった」
「あら、それは残念ね」
「ディルって美味しいのかなぁ~」
「止めとけ。皮膚が硬く、肉も筋肉質で硬いから筋張って美味くないと思うぞ」
割と本気で物理的に食われそうで怖い。性的になら大歓迎だがな。
それに人族の肉は、雑食だからめちゃくちゃ不味いらしい。俺ら人龍族も雑食だから、柔らかくして、筋を取り除いてやっとの思いで食べたらクソ不味い訳だ。マジ食用に向いてねぇな俺。因みにモンスターは味覚が殆ど無いので人もバリバリ喰う。モンスターからすれば、皆等しくただの肉なのだ。
川で返り血を落としたが、特筆することは無かった。ミューを覗こうと思ったらアルンの知略と罵倒で全力で阻止された。残念。
さて、洞窟の前に戻ってきた訳だが特に洞窟に変化は無い。門番は排除したが、一緒に川に捨ててきたからなバレないように。
見張りが一定時間居なくても問題にならないとか、やっぱ知能低くかろうと高かろうと、下っ端てのサボるもんなんだな。それもこれだけの時間居なくても、警戒すら見られないとかよっぽど普段からサボリなんだなさっき殺したボガート。
中に入り少し奥に行くと、十字路と言うと少し変だが、三方向に道が別れていた。左前、正面、右前だ。
「何処から潰してくんだ?」
「右、左、正面の順番かな!右はスグ行き止まりで、2体小型モンスターが居るだけだから」
実際に行ってみると、ゴブリンが2体居り奥は行き止まりだ。フランの索敵とマッピング能力が高過ぎて笑うしかねぇ。
フランは自分の索敵能力に随分自身が有るらしく、右に入った時点で後方の警戒に当たっていた。隊列を組み直したりすること無く即戦闘に入る。
ミューが最初に飛び出し先ず1体を仕留めた。ゴブリン達は流石にもう慣れたな。
とりあえず戦利品を回収し左に向かった。
「左は奥に続いてるけど、1番最初に拓けた空間には何もいないと思うよ」
拓けた空間に着くとそこには何も居らず、左右に道があった。
「どっちも行き止まりで、先ず左かな。足跡的にボガートだと思うけどなんで1体だけなんだろ?」
「好都合じゃねーか」
一瞬トラップかとも思ったが、そんな頭が有ったら門番を何時間も放置したりせんだろうしな。
フランの言う通り、ボガートが1体木箱のような物を背に突っ立っていた。
2対1だから戦闘は直ぐに終わったので、フランに木箱を見てもらうと、レッドキャップ達の戦利品を1箇所に集めておくものだったようだ。良く探すと、銀貨や銅貨の入った袋や、魔力を帯びていない普通の小さな宝石等が有った。コイツはラッキーだ。
自然の洞窟なので右側はただの行き止まりで、フランも無いもないと言ったが一応調べた。これで左側も終了だ。
一番最初の十字路に戻り、残った通路を進むことにした。真っ直ぐ進むと通路が左側折れて居たので、トラップもモンスターも無いか一応調べてから曲がる。洞窟で曲がり角では基本動作だと、フランが胸を張っていた。
暫く道なりに進むと、大きな空間に出た。ゴブリンとコボルト、そしてボガートが居る。全部で上から3.2.2だ。そして、正面奥と右に道が続いている。
流石に7体は多いし面倒だなと思っていると、コボルト2匹は俺達を見るなり、右の通路へ逃げ込んだ。
「コボルト達はボスに助けを求めに行ったみたいね。レッドキャップが来る前にこの5体は倒してしまいたいはね」
アルンの判断で、先ず龍の咆哮でゴブリン3体の動きを止めその内にボガート2体を討つ。勿論同じ☆2のボガートにも効くみたいなので、ゴブリンより一回りデカく、数の少ないボガートを優先で倒すそうだ。
咆哮でビビったボガート達を首チョンパし、フィアが解けたゴブリンをミュー1、俺2で受ける。
ゴブリンの攻撃は俺に通らないので、ミューがゴブリンを1体ずつ倒すまでじっくり待つ。
なんとか、レッドキャップが来る前に倒せた見たいだな。
右はレッドキャップが居ることが確定しているので、正面を調べる事にした。
結局特に何も無く無駄足だったのだが、脇道を全て潰したのでこれでバックアタック、挟撃の心配は殆ど無くなった。
そして、最後の通路から拓けた場所に出ると、先程逃げたコボルト2匹とボガートが1体、レッドキャップとおぼわしき赤い帽子みたいな髪をしたヤツが1体だ。
コボルトならアルンとフランも襲われても逃げ回れるとの事だったので、コボルト2体は放っておいて俺がボガート、ミューがレッドキャップを担当する。
今回の最終戦だ。
レッドキャップが吼えると同時に、コボルトがミューに襲いかかった。すれ違いざまに1体を殺すと、もう1体は怯えて戦闘から離脱してしまった。
奥に逃げるコボルトを尻目に、俺はボガートと対峙する。アルン曰く、レッドキャップとは関連性が無いらしいが、下位互換と呼ばれるだけあってゴブリンよりも速い。
舌打ちをしつつ横目でレッドキャップとミューの戦闘を見ていると、最低ランク依頼とは言え☆3のモンスターの強さがよくわかる。どうやらアルンをもってして、初心者殺しの異名をとるレッドキャップは伊達じゃ無かった。
アルンはミューの回復に専念し、ミューが数発もらう度に回復している。ミューがレッドキャップの速度についていけるか、俺がボガートを倒して庇いに行くかしないと、あのペースではアルンの魔力が先に尽きる。
とは言ったものの、焦りとボガートの速さに慣れず、中々斧が当たらない。
「ディル!落ち着いて。ボガートはゴブリンより一回り大きいけれど、そんなに強くないは!ゴブリンの攻撃をものともしない貴方なら、防御を気にせず突っ込めば勝てるはずよ!」
アルンから激が飛ぶ。そうだった。ボガートは☆2今付けてる古い鎧がイカレても、コイツの攻撃が俺の内臓まで達したりはしないし、万が一貫通してもアルンは神官様だ。要するに死ななきゃ安い。
「後でちゃんと回復しろよなぁぁぁ!!!」
斧を無闇に振り回すのを止め、盾で1度思いっ切り力任せにボガートを後方に吹き飛ばす。んで、そのままの敵に盾をぶん投げる。当たれば儲けもんだが、壁に頭をぶつけてフラフラしてる奴には当たらんでもいい。盾を離し、斧を両手で振り下ろせるようにしただけだ。
「チャンスだ!死ねやコラァ!!」
俺はあらん限りの力でボガートを縦に割った。圧倒的薪割り感だ。モンスターを狩れなくなったら、薪割りを生業にしようそうしよう。
「ミューどっけぇぇぇ!」
俺はすかさず盾を拾いミューとレッドキャップの間に割って入る。
「……ありがとう。ちょっとキツかった。」
「防御は任せろ!だが、俺じゃ攻撃が当たらんから悪いが休むのはコイツがミンチになった後で頼む」
休憩時間はミンチ後に。
ミューを見るとアルンの適宜回復で、怪我こそ見当たらないがすごい疲労だ。
敵さんを見やると多少は疲れているようだが、背後に通さない様に気を遣いながら戦っているミューと、何も気にせず全力で突っ込んでくるレッドキャップとでは、どうも部が悪かったようだな。
レッドキャップには決定打が殆ど入らなかったようだが、ミューは見るからに器用な感じじゃない。だが、攻撃に専念させれば……
レッドキャップの攻撃を全て俺が受けるとしたら、ミューは間違えなくこのパーティで最高のダメージディーラーだ。
タンクの必須技能、『挑発』これは単に相手を煽る訳じゃない。そもそも、モンスターに言葉は通じないからな。デカい声と盾で小突き回しながら、常に相手の目線を塞ぐように盾を当て続ける。勿論技能としてのそれが有るらしい。魔力とか、闘力(気力だったっけかな?)は俺にはよく分からんがな。
因みに知能が低いとされるモンスターにしか効果は無いが、結構便利である。
俺が『挑発』を使用すると、間髪を入れずにミューがレッドキャップの死角に回り込む。レッドキャップは今俺を殺すのに夢中だ。モンスターに好かれてもぜんっぜん嬉しくねーな。どうせ好かれるなら綺麗なエロいネーチャンが良い。
防御も背後も気にかけなくていいミューの一撃は、スピードも乗り、良い一撃が頻繁に入る。レッドキャップが目に見えて弱っていってやがるぜ。
だが、一つ問題があってだな。
「アルンすまねーが回復くれ!盾持ってる左腕がそろそろ折れる」
『挑発』の弊害だ。相手のヘイトを一心に受ける代わりに、敵がガードも何も一切せずに本能のまま突っ込んでくるので、一撃一撃が重くデカいのだ。相手が自分より速くては俺じゃそもそも避けられんしな。
「分かったは!」
ちゃんと詠唱待機しており、直ぐに腕の痛みが引いていく。回復量的にもかなり優秀だ。
「サンキュー!」
後はミューが決め切るまで、腕が折れようと脚がもげようと、ただ背後に通さなきゃいいだけだ。アルンも結構限界だったみたいだしな。
俺はそろそろ切れそうな『挑発』を掛け直す。
「オラオラどうした!レッドキャップさんよぉ!そんなヘナチョコ攻撃じゃ龍の鱗は通せないぜ!」
男は煽って痩せ我慢だ。そんなことわざが有るかは知らんがな。
「ッガァ!クッソ腕が取れそうだ!ミューそろそろ決めれるか?」
「……後少しだと思うんだけど、やっぱり☆3ともなると体力も頑健さもゴブリンとは全然違うみたい。私は一撃が軽いからもう少しだけ踏ん張って!」
「任せろやぁ!!」
ごめんなさい嘘です。マジ早くしてください。左腕から変な音がしたので、斧を捨て右手に持ち替える。
せめて右腕がイカれる前に頼むぜ。
「……これで!」
ミューの細剣がレッドキャップに深く刺さり、魂を切り取られる。俺達の勝ちだ。
「……お待たせ」
ミューが疲労困憊で声を掛けてくる。
「おっせえよ……マジ両腕とももげるとこだったは!」
皆揃って安堵と共に座り込む。
「……ことある事に私達のお尻を触ろうとするから、もげた方が良かったかも」
「げぇ、それぐらい許してくれたって良いだろ?スキンシップってやつだ」
こんな軽口を言い合って居ると、魔素化した薬草を煎じてアルンに飲ませたフランが会話に入ってくる。魔素化した薬草ってのは平たく言うと魔力の回復アイテムだ。まあ、ちゃんと知識が無いとただの草なんだがな。
「それ、スキンシップじゃ無くて痴漢だし」
「いや、そんな軽装で目の前歩かれたら、尻の一つや二つや三つ触りたくなるってーの」
「お尻が三つあったら怖いし!」
「……ディルは神官服で露出の無いアルンも触ろうとするから関係無い」
暫くして、魔力と体力の戻ったアルンが話に混ざる。
「そんなどうしようも無い男だけれど、今回は両腕が折れても守り通してくれた御礼にその腕治してあげるは。一時的に回復しただけだからまた、魔力切れになると思うから担いで帰ってもらえるかしらセクハラ大魔王さん?」
腕を治療しながら、アルンも緊張が解けたようで、罵倒してくる。いや、おかしい。なんで緊張の糸が切れたら罵倒してくんの。もうコイツだけずっと緊張状態で良いんじゃ無いの。まあ、事実だし俺が悪いんだけどね。
「私もずっと洞窟の中で警戒してて疲れたなぁ~」
「……私、頑張った」
チクショウ。コイツらめ。
「わぁった分かったよ。全員乗せて帰りゃ良いんだろ!」
こうして帰路についた俺達は……いや、俺は肩に乗せる時全員の尻を一撫でして、3人からひっぱたかれ、彼女達の気が済むまで罵詈雑言を受けるのだった。そんなに嫌なら降りろよマジで。
今日はすげぇ苦戦したが、逆にやりきった感があって満足だ。今日の課題は戦える奴をもう1人パーティに入れる事だな。普通にミューが危なかった。
そんな充足感と頭の上の喧騒を音楽に、明日を夢見るのだった。
なんか今回長いな。絶対クトゥルフの邪神みたいに同じ意味の似たような言葉をどっかで4回ぐらい繰り返してんな多分。
しつこい表現があったらミスじゃ無いで~す。表現の一つで~す。(言い訳)