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好奇心は龍をも殺す

10話目やっと2桁ぞな。

「しっかしあれだな。今日は人が居ねぇな」


 俺は依頼の西ボア・モアの森について辺を見回しながら言った。


「いつも薬草採取を主としている人達が、例えゴブリンと言えどモンスターが増えているという情報を受けて、わざわざそんな時に来るわけないじゃない。貴方馬鹿なの?」


 ちくせうアルンめ。今日は俺が全面的に悪いので強く言い返せない。こっちは日銭が無く、わざわざ付き合ってもらってる身なのだ。懺悔は今。


「ちっげーよ!ただ、居ねなーって言う感想だよ!理由がわからなかった訳じゃない!」

「あら、そうなの?ごめんなさい」


 この勝ち誇ったドヤ顔本気で殴り飛ばしたい。


「ディルってアルンに罵られるの本当好きだよね~」

「んなわけねーだろこのおっぱいオバケ!」


 少し後ろからクスクスと笑い声が聞こえる。


「……おっぱいオバケ…………」


 ミューだ。盛大に肩を震わせ吹き出さんと耐えている。良く見るとアルンもミューの陰に隠れ、プルプルしていた。


「……おっぱいボーン!!!」


 フランの不意打ちにより、アルンとミューが吹き出した。


「うぅ~!酷いよ2人とも笑うなんてぇ!」


 フランは涙目だ。


「ふ、不意打ちなんて卑怯よ」


 アルンは口元を押さえ腹を抱えて笑っている。フランに返す声は込み上げてくる笑いを、必死に堪えながらの為、非常に震えている。別に泣いてる訳じゃない。寧ろフランがアルンを泣かせられるなら見てみたいいいぞもっとやれ。


「……フラン面白かったから、これあげる」


 ミューがゆっくりと拳を開くと、中に握り込んでいた綺麗な小石をフランに手渡した。


「……さっき拾った。あげる」

「いらないよ!?!」

「……ジョーク」

「ミューちゃんわかりずら過ぎるよ!真顔でジョークは止めて!!」


 すまんミュー。今のただの石を渡されたフランのなんとも言いがたい、遺憾ともしがたい表情は超面白かった。是非もう一度見たいので、ミュー先生の次回作に期待。


「うわぁ~ん皆が虐めるよ~!」


 ぐずりだしたので慰めてやるか。


「お~お~フラン可哀想になぁ~みんな酷いよなぁ~」

「……うん。ディル~」


 泣きながらこっちに来る。その姿はどう見ても、小さい女の子だ。


「…………って、良く考えたら元はと言えばディルのせいじゃん!ディルのバカ!!!」


 おっといけねぇ。バレちまったでやんす。


「良く気づいたはね?少し賢くなったんじゃないかしら?」

「本当!?やったぁ~♪」


 御機嫌だ。因みにアルンとミューのせいでもある。やっぱ馬鹿だコイツ。


 ここまで馬鹿だと、いっそ何処まで馬鹿なのか試してみたくなるのが心情ってもんだ。



「知ってるかフラン?人龍族の男性におっぱい揉まれると頭が良くなるらしいぞ!人龍族の男性が分泌するドラゴンセンスが良いらしいんだ!」


 さて、流石にここまで露骨に嘘だとわかる法螺話なら乗ってきたりはしないだろう。


 ふと、アルンに視線を向けると氷の視線が飛んできたが、直ぐに俺が何をしたいか理解したらしく、ニヤリと笑い返してきた。


「え~そんなの絶対嘘だよ!ディルがおっぱい揉みたいだけじゃん!」

「いえ、フラン。実はねドラゴンセンスで頭が良くなると言うのは、学術的、魔術的に証明されていて、ドラゴンセンスの学名をニュートドラゴノイドニウムというのよ!つい、最近の著書で『人龍族の生態と真実』にも書かれている、世紀の新発見なの」


 おいおい。まあ、良くそこまで瞬時に口からでまかせ、嘘八百並べ立てられるもんだ。二枚舌ってレベルじゃねーぞ。


 俺が先についた嘘じゃ無かったら普通に俺も騙されてたぞ。さて、フランはどうでるかな?


「えぇ!?!?そうなのディルって実は凄かったんだね!えっと……少し恥ずかしいけど……私のおっぱい揉んでくれませんか?」


 ジャストミート。但し肉で無い。ガッツリ引っかかったよコイツ。


 しかし、上目遣いで顔を赤らめながら胸を揉んで欲しいとお願いしてくる美女はヤベェ。普通に理性が吹っ飛ぶところだった。


「……と言う嘘を今考え付いたの。」


 直ぐにアルンがネタバラシしてくれ無かったら危なかったな俺の理性。


「うえぇぇぇ!?!うぅ~それはあんまりだよぉ~恥ずかしかったのに~うわぁぁぁん!!」


 ヤベェマジ泣きだ。早く落ち着かせよう。


「ごめんなさいフラン。どうしても手伝わないと襲うってディルに脅されてたのよ。許してくれないかしら?」

「え!ディル酷い!最低だよ!女の敵ぃ!!!」


 クッソこいつマジ音速もかくや速攻で裏切りやがった。弁解しないとヤバイな。


「いや、違うんだ。聞いてくれちょっとした思い付きで脅しては無い。ジョークだジョーク。フランは素直でいい子だから、騙されやすくて心配だなって話をアルンとしてたんだよ。な?」


 頼むアルン様後でなんでもするんで乗ってください話に。おねげぇしますだぁ。


「えぇ。そうなのよフラン。私達で良かったはね?これが本当に悪い人だったら捕まって売られてたはよ貴女」


 さっすがアルン様。ありがてぇ、ありがてぇ。


「……本当?嘘じゃない?」

「えぇ。本当よ?ね、ディル」

「あぁ。そうだぞ。俺がお前等にそんな酷いことする訳ないだろ?」


 ミューは終始俺達の視線でのやり取りを、感じ取っていたらしくニヤニヤしている。話の結末がどう転がるか面白がっているのだろう。アレだな、コイツもこのパーティに居るだけあって結構黒いな。


「……私いい子?素直で可愛い?」

「とってもいい子よフラン」

「そうともさ、フランはとっても素直で可愛い子だよ」

「うん。分かった……信じる!」


 あらら、信じちゃったよ。アルンさっき思い付いた嘘だって、言ってたじゃねーか。


 これだけ人を信じやすいヤツを、いつも独りでお守りしてたんだと思うと苦労が伺える。買い物時とかお釣り誤魔化されたり、粗悪品掴まれたりしそうになって、その度にアルンが助けてたんだろうなぁ……


 そんな事を思いつつも、こんなに純粋な女性を、好奇心と探究心を満たすためだけに、騙したのだという現実は俺の心を苛む。


 いくら俺がろくでなしの、クズ龍でも心は有るのだ人並みに。


「お騙した詫びに、帰ったらなんでも好きなもん食わせてやるから機嫌直せよ!」

「本当!もしかしてディルいい人!」


 んなわけねーだろ。いい人は最初から騙したりしない。


「なら、私も御相伴にあずかろうかしら」

「……私もいい?」


 アルンとミューも入ってきてなんとか丸く収まりそうだ。今回はちょっとヤバかった。好奇心猫をも殺すだ。気を付けよう。


「おう。勿論いいぜ!ただ、知っての通りあんま金ないから高いのは勘弁な!」

「え~かっこわいるーい」

「甲斐性なし」

「……ケチ」


 他人の懐事情だと思って好き勝手言いやがって。


 ってか、宿出る前の引き締めた気何処行ったんだよ。帰ってこーい。



 そう。まるで帰り道みたいに和気藹々と話しているが、今は依頼に行く途中だ。まだ森の中には入ってないが、森の中では気を付けんとな。


「さて、こっからは気を引き締めて行くぞ!頼んだぞフラン!」

「任せてよ!って言いたいところだけど~さっきの仕返しでディルだけ置いてこっかな~」


 置いてったらお前等が困るだろうが。


「おいおい。フランちゃんよぉ。置いてくのは構わねぇがそしたら誰がお前等守るんだ?」

「あっ!!やっぱ連れてく!肉盾になれ!」

「前回も文字通り肉盾だっただろうが」

「あれ?もしかして扱い変わんない?」


 残念だったなフラン。俺の扱いは元々最低だ。最低より落ちることはねぇんだよ、どうだ悔しいだろ。ヤベェ悲しくて泣きそう。


 パーティ内カースト最下位である事を確認し、打ちのめされた俺は、フランへの罪悪感などとうにどっかに行き、今度はどんなイタズラと嘘で困らせてやろうかと、思考を巡らせるのであった。パンツ食ってやろうかな。



 一歩一歩進む度に緑が深まる。帰ってコイツらに奢る為にも、今回は討伐を成功させなきゃなんねぇ。


 流石に俺ほど馬鹿みたいに食ったりはしないだろうが、奢るって言った手前やっぱり足りませんでしたじゃ、格好がつかんからな。俺は常々カッコイイ龍であり続けたいと思っている。さも、場合によりけん。


 ……今回出費いくらだろうな。痛いなぁ。銀貨18枚の盾とか、夢のまた夢だぜ……


 闘技場で賭けようかな、1発当てさえすれば金貨だって夢じゃない。そうだ。そうだよ!


 1発オッズが10.00倍ぐらいの選手に掛ければ、今回の依頼で銀貨7枚として、あっという間に銀貨70枚だ。これならいける。


 これならわざわざ危険な想いして、モンスターを狩らなくてもいいし、盾だって余裕で買えるぜ。パーティ組んじまったから、俺だけ他の街に行くわけにゃいかねえから冒険者はちゃんとやろう。


 それでも、懐に余裕があるのと無いのじゃ全く心持ちが違ぇからな。


 最近行ってなかった、いや、行けてなかった娼館にも行けるなウハウハだぜ。


 こういう勝率の計算みたいなのはアルンにご教授願おう!俺はルンルンランランルンタッタと、アルンに俺の崇高且つ完璧な投資プランを話した。どんなすげぇ勝率の計算方法が有るのだろうとワクワクしていると、思いっきり冷水をぶっかけられた。


「貴方正真正銘の馬鹿ね。何故そのオッズ?が10倍の人が勝つと分かるの?その人が負けたら貴方一文無しじゃない。それに話を聞いている限りだと、そのオッズって言うのが、高ければ高いほど勝率は低いはずよ。選手の人気を測るシステムの、詳細までは分からないけど、10倍ともなれば無名、又は新人でしょうね。十中八九貴方が、勝ちの目を拾えることは無いは。地道に稼ぎなさい。パーティメンバーとして付き合ってあげるから」


 俺の夢はいとも容易く、粉々に打ち砕かれた。でも、良かった賭ける前で。アルンの話を聞いていなければ、確実に素寒貧になっていただろう。


そして、フランが会話に横から入ってきた。


「ディル、もしかしてあんまり奴隷が身近じゃ無いのかも知れないけど、奴隷に落ちる原因って、大体ギャンブルがもとの借金だよ?ディルって1度負けると熱くなるタイプでしょ?そういう人はギャンブル向いてないよ」


なんとあのフランにも教えられてしまった。屈辱だ。


「そ、そうか。地道稼ぐとするよ……」


 泡沫の夢を振り払い、ゴブリンを森の外側へ追いやっているのが、あんまり強いモンスターじゃないことを願いながら、俺はまた一つ奥へと歩みを進めるのだった。


大博打をしていいのは逆境無頼のカイジだけ。

地下のビールのシーンが好き。



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