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8話 「男子トイレと女子トイレどっちに入ればいいんだ?」

お使い妖精が部屋を出て行った後、樹の言葉に照れたのか顔を真っ赤にし慌て始めたラビアタだったが、照れ隠しで樹に怒鳴り散らし早く魔物パトロールの為に魔法少女になれとせがむ。その後もドタバタと騒ぎ樹がやっとの思いでラビアタを落ち着かせた。

未だにご機嫌斜めなラビアタを尻目に樹は簡単に朝食を作った。メニューは卵かけご飯とインスタントの味噌汁のみと質素な朝食である。

資料雑誌に空容器だらけのテーブルの空きスペースに両手に持ってたお椀置きあぐらをかく、箸を持ったまま「いただきます」の掛け声をし卵かけご飯を一気に口に流し入れ味噌汁もズズズっと口に流し入れる。

途中樹は思い出したかの様にテレビのリモコンを手に持ち日課である朝のニュースを見る為にテレビを点けた。すると昨日モンスターと戦った現場が映し出された。見出しには「駅前にモンスター出現、新たな魔法少女も現る?」と書かれていた。

樹は食べるのを止めてしばらく見入ってると視聴者投稿映像の昨日のモンスターとの戦いが映し出された。映像は遠くから撮影されたのかモンスターと樹の姿が小さい。


「ちょ、これ撮ってた人いたの!?結構危ない事するなぁ・・・」


驚きそして呆れていると映像は樹が愛華を抱えたままモンスターの火炎弾に直撃する場面が流れた。そして強烈な張り手を喰らい建物に激突する場面も流れた。


「うっ、自分がボコボコにされるのは見たくなかったなぁ・・・でもよくあんなの喰らって大怪我しなかったなぁ・・・」


「当たり前じゃない、魔法少女になれば身体の耐久度も上がるんだから。魔法少女ナメんじゃないわよ。」


素っ気なく答えるラビアタ。まだ機嫌が悪い様だ。

その後樹の身体に紅いオーラが纏いモンスターを圧倒し倒した場面が流れる。しかしモンスターを倒した映像は流れずその場でへたれ込む樹の姿が映し出された。恐らくモンスターを粉砕した場面がグロテスクだった為にカットしたのだろう。

この映像を見た番組のコメンテーターは「恐らくモンスターの攻撃に耐えて耐えて強くなる魔法少女なんでしょうね。」と分析する。これを聞いた番組MCが「マゾヒストみたいじゃないですか。」と笑いながら突っ込んだ。


「全然違うよっ!!」


一部始終見ていた樹が思わずテレビに向かって大声で突っ込む。樹の大声にビクっとするラビアタがキッと樹に向かって睨みつける。これを見た樹はすかさず謝った。


「それにしてもあの時の僕、あんな風になっていたんだね。」


「はぁ?憶えてないの?」


「あの時は無我夢中だったからね、記憶が曖昧なんだ・・・」


「えっ、じゃあ・・・まさかあの魔法を発動させたのって・・・あっ」


急にラビアタが黙り込みテレビの映像に食い入る様に見る。映像に映っているのは魔法少女ラビアタではない二人の魔法少女らしき人物だ。内一人は樹が昨日公園で会ったオレンジ色の魔法少女に類似していたのか「あ、あの子昨日の」と呟く。

ふとラビアタの方を見ると体をプルプルと震わせてもの凄い形相でテレビを睨み付けていた。


「ど、どうしたの・・・?」


「あれ!あのオレンジのあいつ!あいつを見てるとムカムカするのよ!」


「あのオレンジって・・・この子?」


樹はテレビ画面に映っているオレンジの魔法少女を指差してラビアタに問い掛ける。ラビアタは「フンッ!フンッ!フンッ!」と何度も首を縦に振って答えた。


「あいつぅ・・・私より先にパートナー見つけて堂々と魔法少女やりやがってぇ~・・・!あぁもう!あいつ見てると昔の事どんどん思い出してきて腹が立つわ!」


「そんなに仲が悪いの?」


「そうよ!あいつ私がやる事なす事全部に文句言うのよ!?人の話をちゃんと聞きなさい~、とか!物事をよく考えて行動しなさい~、とか!あいつ私より先に生まれたからって生意気なのよ!」


文句と言うよりも注意か説教なのでは?樹はそう思ったが口には出せず苦笑いをするしかなかった。


「ていうかこんなゆっくりしてる場合じゃないわ!あいつより先に魔物見つけてあの時の魔法使ってぶっ倒すわよ!そして格の違いという物を見せ付けてやるんだから!ほら樹!ご飯なんて食ってる場合じゃないわ!変身よ変身!」


「だからちょっと待ってって!今食べ終わるから・・・ゴフゥッ!」


樹は慌てて卵かけご飯を掻き込んだせいで気管に引っかかったのか思い切りむせた。

「もう何やってるのよ!」とラビアタも思わず文句が飛び出した。


―――――――


その後もラビアタに急かされるものの朝食を食べ終えて食器を水につけ置きにし、急いで髭を剃りスーツに着替え終える。すると何故か呆れている様子のラビアタが樹に物申す。


「・・・何で昨日と同じ服装に着替える必要があるのよ?魔法少女になればその魔法少女の姿になってどんな服装に着替てても意味無くなるのに・・・」


「意味はあるよ。まずこの部屋で変身はできない。」


「はぁ?何でよ?」


「魔法少女の姿で部屋を出た時に近所の人やこのアパート周辺に住んでる人に見られたら社会的にマズいからだよ。周りは僕がこの部屋に一人で住んでる事を把握してると思うからね。ここにはまだ1~2週間しか住んでないけど近所の人に会ったら頻繁に挨拶してるしたまに世間話するし。」


「ふ~ん、それでなんで社会・・・的に?がマズいのよ?」


「ラビアタにはよくわからないと思うけど、中年の男が一人で住んでる部屋から小学生ぐらいの女の子がコスプレして部屋から出てきた所を近所の人が見たら僕の事を不審に思う恐れがあるんだよ。「あいつ、あの女の子に良からぬ事をしてるんじゃないか」ってね。それで警察呼ばれたら堪ったもんじゃないよ・・・それに、スーツの姿で出れば近所の人に見られても働きに行くか就職活動してるって思わせる事ができるからこの姿の方が好都合なんだよ。」


「そう、この世界って面倒くさいのね・・・」


樹達が住む世界の面倒臭さに片足を組んで顎に手を当てフヨフヨと飛びながら呆れるラビアタ。


「で、どこだったら変身してもいいのよ?さっさとしないとアイツに先を越されちゃうわ!」


「まぁそんなに急かさないでよ・・・その場所を今から案内するから、とりあえず部屋を出ようか。」


急かすラビアタをなだめ、変身出来る場所へ向かう為部屋の鍵を手に取りドアの方へ向かう樹。

ドアノブを掴みドアを開ける。ところが部屋の前に一人の中年男性が立っていた。思わず樹が「うわぁ!」と叫ぶ。後ろにいたラビアタが樹の叫び声にビクッと驚く。しかし部屋の前に立っている男は樹の突然の叫び声にもまったく動じていない。


「お、お隣さん!?」


部屋の前に立っている男はどうやら樹の部屋の隣、2階の一番端の部屋に住む住人の様だ。隣の住人は気だるそうな様子で喋りだす。


「仕事行くついでにアンタに忠告しようと呼ぶ所だったけどちょうどよかったわ。アンタ昨日からうるさいんだけど何やってんの?」


「えっ!?あぁ・・・そのぉ・・・すみません、ちょっと別れた妻と電話で口論してまして・・・」


「ふ~ん・・・まぁ俺が短気でキレやすい奴じゃなかったからよかったんだけど、このアパートアンタが思ってる以上に壁薄いからね。ここに住んでる他の奴等に文句言われない様うるさくするなよ。」


「あっ、はい・・・気を付けます・・・」


「ま、わかればいいや。んじゃ俺仕事行くから。」


「はい、すみませんでした・・・」


自分の仕事場に向かう為部屋の前から去る隣の住人。樹は隣の住人にペコペコと何度も頭を下げて見送る。

今までのやり取りを見たラビアタが「ホンットこの世界って面倒ね・・・」と呟き呆れていた。


―――――――


隣の住人を見送った後樹とラビアタは部屋を出てアパートから離れる。歩いて1分ぐらいで小さな公園に到着すると公園の敷地内に入りある建物の前で足を止めた。


「ここだよラビアタ。ここだったら変身出来るよ。」


「何ここ・・・てかちょっと臭うんだけど・・・」


妖精にも臭覚という物があったのか、ラビアタは小さな鼻を摘み顔をしかめた。


「臭うのは仕方ないよ、ここ公園のトイレだからね。」


「トイレですって!?なんでこんな人間が用を足すとこで変身しなきゃいけないのよ!?」


「ここの公園、外の空気を吸いに来たり休憩したりで何度か利用しているんだけど朝も昼も夜も全然人が来ないんだ。ちょうどトイレもあるから隠れて変身するには最適かなって。」


「だからってこんな場所で変身って・・・う~ん・・・」


ラビアタは鼻を摘みながら目を瞑ってその場でフヨフヨと浮かびながら考え込む。


「仕方ない、今日はここで我慢してあげるわ。でも今日のパトロールが終わったら別の所で変身出来る場所探すのよ?いい!?」


「わ、わかったよ・・・それじゃ早速中に入って変身しようか。」


何とかラビアタの了承得た樹はトイレに入ろうと足を踏み入れる。ところが直前になって踏み入れようとした足を引っ込むた。

「何やってんの?」と問い掛けるラビアタだが、樹はラビアタの問い掛けを聞こえていなさそうな様子だ。

この時、樹はある重大な問題を見つけてしまったのであった。それは・・・


「男子トイレと女子トイレ、どっちに入ればいいんだ・・・!?」


と・・・。

変身する前は頼り無さそうな40代前半の中年男性、変身すれば魔法少女とはいえ見た目はかわいらしい小学校高学年相当の女の子になる。

入室する変身前と退出する変身後でどちらかのトイレを出入りするのはかなり不自然なのである。

変身前の男の状態で女子トイレに入ろうとすれば、すでに中に入っていた女性と鉢合わせて悲鳴を上げられてしまったり女子トイレに入った所を見た目撃者が不審者だと思われ通報される可能性がある。

逆に変身後の状態で男子トイレを出ようとすれば、鉢合わせてしまった男性利用者や公園の敷地内にいた人に見られ「変な子」と思われてしまう事や、もう既にニュースで紹介されているので今度は「男子トイレから出てきた魔法少女」というレッテルを貼られてしまう可能性もある。

最悪の事態でこういった幼い子に性的嗜好のある男と鉢合わせれば襲われる可能性も。

普通の男性であれば悩む事無く男子トイレに入れば済むものの、魔法少女になる資格を持ってしまった男の樹にとって今この瞬間究極の選択を迫れているのであった。

ダラダラと顔から汗を流し瞳孔が開きっぱなしで必死に決断しようとしている樹、すると遠くの方から話し声が聞こえてきた。

若い女の子の声だ。しかも2人以上はいて徐々に話し声は大きくなる。どうやらここに近づいている様だ。

樹はミスをした。部屋を出た時間、ちょうどこの時間は学生が学校に登校する時間と重なっていたのだった。この公園前の道を通学路として利用している学生がいてもおかしくはない。

段々公園に近づいてくる女子高生達、トイレの前に立っているだけでも不審者と思われてしまう。そう感づいた樹は成すがままにトイレの中に駆け込んだ。息を潜め女子高生達が公園から離れていったのを確認するとホッと溜め息を吐く樹。


「結局男子トイレに入っちゃったか・・・」


「さっきから何やってんのよ!さっさと変身するわよ!ここ臭いし!」


「そ、そうだね。周りには人もいなかったし、早く変身してここから出れば大丈夫だよね・・・よし、おいでラビアタ!」


腕を広げ変身する体勢になった樹、「よし来た!」とラビアタは威勢よくその場で宙を描くかの様に飛び一気に樹の体の中に入り樹の体が眩い光に包まれる。そして光は小さくなって消滅し、魔法少女・ラビアタに姿を変え変身完了した。


「よし、早くここから出よう!」


2回目の変身にも関わらず余韻に浸かる間もなくトイレから出ようとする樹は出口の方へ一目散に駆ける。

しかし、樹の予想を裏切るかの如く出口には一人の老人が立っていた。樹は足を急ブレーキさせ老人の手前で止まるが、この時心身も共にフリーズしてしまった。

老人はプルプルと体を震わせながら魔法少女の樹に問い掛けた。


「お嬢ちゃぁん・・・こんな所で何をしておるんじゃ・・・?」


「え・・・す、すみ・・・すみませんでしたぁーーー!!」


樹は慌てながら老人の体を避けトイレから出ると近くの建物にジャンプし老人が見えなくなるまで逃げるかの様に建物から建物へジャンプを繰り返した。

樹は誓った。「二度とトイレで変身しないようにしよう」と・・・

そして老人は樹が近くの建物へ大きくジャンプする所を見てぼやいた。


「最近の若ェ女子おなごはすごいのぉ・・・」

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