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7話 「この地域には4人の魔法少女が存在しています。」

朝日が入り込むアパートの部屋中に怒号が鳴り響く。


犯人はラビアタだ。昨夜モンスターと初めて対峙し瀕死の状態で自身が驚くほどの能力強化魔法を発動させモンスターを倒す事が出来たが著しく魔力の消耗が激しかったらしくアパートに帰還し変身を解いた頃には突如意識を失い深い眠りに落ちていたが、昨夜の弱った状態とは打って変わって「起きろ!」と怒鳴りながら樹を起こそうと連呼してる非常に活発なラビアタに戻ったようだ。

ちなみにラビアタの声はこのアパートの周辺で樹にしか聞こえない為騒音問題は皆無である。

一方樹の方は昨日の疲れが原因なのか歳の所為なのか朝が弱いだけなのか、大音量のラビアタ目覚ましに「う~ん」と弱々しく唸ってばかりで、しばらくしてようやく上体を起こしラビアタに朝の挨拶をした。


「おはようラビアタ・・・困るほどに元気になったみたいでよかったよ・・・」


「当たり前よ!こんなのちょっと寝ればすぐ回復するわ!私の回復力をなめんじゃないわよ!」


ラビアタは腰に手をやり仁王立ちとドヤ顔で自慢げに言い放った。


「ていうかアンタ起きるのにどんだけ時間掛けんのよ!いつまで客人待たせる気!?」


「えっ、お客さん来てるの?よいっしょと・・・」


起き上がった樹はフラつきながら重い足取りで玄関の方へ向かおうとしたがラビアタに「そっちじゃない!あっち!」と怒鳴られながら引き止められラビアタが指差した方へ振り向くと窓の外にラビアタと同じ大きさの妖精らしき生き物が両手に自分と同じ大きさのトートバッグを持ってその場で飛びながら待っていた。

樹は窓の方へ向かい部屋の窓を開け「どうぞ」と部屋の中へ招く。妖精は「お邪魔しますね~」と一言言って部屋の中に入っていった。


「どうも~、大妖精様のお使い妖精で~す。昨日分の報酬をお持ちしました~。」


「報酬・・・?あぁそうか!」


いきなり大声を出す樹にラビアタはビクッと驚く。


「な、何よ突然大声出して!ビックリするじゃない!」


「あっ、ごめん・・・大した事じゃないから気にしないで」


樹がいきなり大声を出した理由は昨夜眠りにつこうとした矢先に何かを忘れていたことに気づく、そして昨日は思い出す事が出来なかったが今その何かを思い出したからである。自分が魔法少女になる決断の最大の理由である「報酬」の事をすっかり忘れていたようだ。

樹とラビアタの一連のやりとりを見向きもせずお使い妖精はゆっくりと床の方へ降下し、トートバッグをその場に置きトートバッグの中を頭から突っ込ませて中を物色し始めた。

もぞもぞしたトートバッグの動きが目的の物を見つけたのかピタっと止まり封筒を両手に持ちお使い妖精が出てきた。

再び浮遊したお使い妖精の手に持ってる封筒は何やら厚い様に見える。

それを見た樹は思わず口を開け封筒を食い入る様に見つめた。


「え~、まずパトロール時間約1時間、負傷者を病院へ搬送、そして一人でのモンスター討伐成功で今回の報酬金額は1,093,630円」ですね~。」


「ひゃ、109万円!?」


報酬金額を聞いた樹は思わず体が硬直し大声を出して驚いた。またいきなり大声を出した樹に隣にいたラビアタもビクッと驚いた。

「だからいきなり大声出すなっ!」樹に向かって怒鳴りながら怒るラビアタ。硬直していた樹はラビアタの怒鳴り声に反応して「ハッ!」と発し我に返った。

やはり二人の一連のやりとりに興味を示さないお使い妖精は樹の側に近づいて語り出した。


「昨日出た魔物はそれなりに大きかったみたいですし戦闘力も高かったみたいですからね~。一人で倒したのでこれぐらいの金額が妥当だと思いますよ~。はい、これ報酬です~。」


樹はお使い妖精に差し出された封筒を受け取り恐る恐る封筒の中身を取り出した。出てきたのは分厚い札束だ。樹はその札束を何度も何度もパラパラとめくるがどれも日本銀行券の1万円札だ。

札束の手前の1万円札を抜き出しその1万円札をまじまじと見る。手触りは自分が記憶してるお札とほぼ同じ感触、1万円札を明るい方向へ向けると透かしも見える、色んな方向へ傾けると出てくる文字や光沢も見えて銀紙のような部分も色んな模様が出てくる、そして札束を1枚1枚ゆっくりめくり記番号を確認したが20枚以上は見たがどれも異なる番号だ。

樹は確信した。この札束は確実とは言えないが全て本物の1万円札だと。


「本当に・・・本当に魔法少女ってお金貰えたんだぁ・・・」


樹は感激した。突然できた借金1億円、正直再就職できたとしても自分が定年退職するまでには返済できるとは思えず、老いても自分が死ぬまで一生返済し続けなければならない、そんな先が見えない状況に不安しか感じず途方に暮れていた。

だが就職先を探している矢先に成り行きで何故か魔法少女になる事になり命懸けでモンスターと戦い倒した事でこんなにも大金の報酬を貰えた。樹は初めて魔法少女になってよかったと心から思った。

樹は持ってた札束を自分の胸に当て天を仰いだ。まるで神様に感謝を伝えるかの様に。それを見たラビアタは不思議そうに首を傾げ樹を見つめた。


「あぁそうそう、あともう一つ渡さなければいけない物がありました~。少々お待ちを~。」


お使い妖精は再びトートバッグに頭から突っ込み物色し始めた。そして何やら携帯端末のような物を取り出し再び樹の前に浮遊した。


「はいどうぞ~、この世界で連絡する時に必要な便利道具「スマートフォン」です~。」


お使い妖精からスマートフォンらしき機器を「ありがとうございます・・・」と言って受け取った。

見た目は普通のスマートフォンと変わりないが大きさは自分が使ってるやつよりも小さめで色がピンク色、そして丸みを帯びたフォルムと女の子が持っていそうな見た目のスマートフォンである。


「連絡するって言っても・・・一体誰に?」


「それはここの地域にいる魔法少女に、ですよ~。そのスマートフォンにあなた以外の魔法少女の連絡先が載ってると思いますのでご確認下さい~。」


樹は持ってたスマートフォンの電源ボタンを押した。ホーム画面は自分の使ってるスマートフォンのOS「Andouroid」とさほど変わりない。ただアプリの数が極端に少ないみたいだが、それはさておき樹は電話帳のアプリを起動させた。

すると電話帳には「コクシネア」「シフォン」「セルレア」という文字があった。

「確認しました~?」とお使い妖精が尋ね「はい」と樹は答えた。


「それに書かれている人達があなたと同じ、この地域でこの地域に現れる魔物と戦っている魔法少女達です。あなたを含めこの地域には4人の魔法少女が存在しています。」


「この人達が・・・」


樹はスマートフォンに書かれている3人の魔法少女の名前を見つめた。すると樹はある疑問を抱きお使い妖精に質問した。


「ここにいる魔法少女って4人しかいないの?他の所もこれぐらいしかいないの?」


「そうですね~、他の地域はもっといますね~。大体10人ぐらいですかね~。」


「10人!?ここはこんな少数の人数で大丈夫なの!?」


「まぁあっちの世界のここに繋がってる地域が最近占領されちゃいましたが規模は小さいですし、境界を破るほどの力を持つ魔物もそんなに育ってないんで今はこの人数で大丈夫かと~。もちろん状況が悪化したとわかったらここの魔法少女の数を増やすと思いますよ~。まぁこの世界の人間さんに背負わせる事になっちゃいますがね。」


「あっちの世界?占領?ごめん、ちょっと何言ってるかわかんないのだけれど・・・」


「あれ、大妖精様に聞いてませんでしたか?」


正直そんな話は聞いていない。昨日初めてモンスターと対峙した時にテレパシーみたいな感じで大妖精らしき人物と会話はしたが状況が状況だった為に魔法少女やモンスターの事は何も聞かされていないし樹も質問する余裕が無かった。


「まぁわからない事があれば今度大妖精様に聞いてください~。それではまだ巡回が終わっていないのでこの辺でおいとましますね~。」


詳しい事は全て大妖精に丸投げしたお使い妖精は床に置いたトートバッグを持ち上げやや強引に別れを告げる。

何か腑に落ちない樹だったが「巡回中」と言われ無理に引き止める事が出来ず「あ、ご苦労様です。」と軽く会釈をした。

「それではまた明日~。」と別れの挨拶をしお使い妖精は窓からふわぁと出て行き、樹の部屋を後にした。

お使い妖精が出て行ったのを確認した後部屋の窓を閉めると窓を見つめたまま樹はラビアタに問いかける。


「ねぇラビアタ、君は知ってるんでしょ?僕らの世界にモンスターが現れた訳とか、僕達この世界の人間が魔法少女になって戦わなければいけない訳とか・・・さ。」


「さぁ?知らないわよそんなの。」


樹はお笑い芸人よろしく、ガクっと体勢が崩れた。ただキッパリと「知らない」と告白したラビアタの様子を見ると何か隠している様には見えず、本当に知らないようだ。


「そんなの知らなくたって私は魔法少女の妖精としての生を全うするだけよ。それにアンタだって報酬貰って早く借金返したいんでしょ?」


「そ、それはそうなんだけどさ・・・」


「だったらそんな余計な事考えなくてもいいじゃない。私は妖精としてアンタを全力でサポートする、アンタは魔物を倒して借金を返す。それでいいじゃない。まぁ、今日みたいな報酬は貰えないかもしれないけどさ・・・私の力のせいで・・・そこは、ごめん・・・」


急にしおらしくなるラビアタ。どうやら昨日の戦いで知った自分の能力が原因で樹に気を使っている様だ。


「・・・まぁ、今日はこんなにもお金を貰えたのはびっくりしたけど、今後はコツコツ稼いで借金を返していければいいよ。それに僕以外にも魔法少女はいるみたいだし・・・」


樹は持っていた魔法少女用スマートフォンを見つめて語る。


「その人達と協力してやればやっていけると思うからさ、魔法少女やモンスターの事もこの人達に聞けばいい事だし。だから気を使わなくてもいいよラビアタ。」


落ち込むラビアタを労う樹だが、樹の言葉を聞いたラビアタは顔を真っ赤にし慌て始めた。


「べ、別に気なんて使ってないしっ!!ほらっ!さっさと魔物パトロールに出かけるわよっ!」


「ちょ、ちょっと待って!さっき起きたばかりだし朝飯も準備も」


「うるさい!さっさと魔法少女になりなさいよ!」


再び樹に怒鳴り散らすラビアタ。その後もラビアタが落ち着くまでドタバタしたそうな・・・


【補足】

「Andouroid」

いわゆるAnd○oid、この世界では日系アメリカ人の「アンドウ」さんが開発したOSだそうな。

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