6話 「こんな僕でもいいのならこれからもよろしく」
さっきまで樹とモンスターが戦った現場に二人の魔法少女が現れた。
「結構早めに来たつもりだったのですが・・・もう終わっちゃったみたいですね」
そう語ったのは衣装がラビアタよりも露出が多く白と藤色を基調としたメイドのような容姿の魔法少女だ。辺りは先程まで戦闘が行われていたとは思えないほど静寂であり、新人の魔法少女、モンスター、一般人すらいる気配がしなかった。
「新人って聞いたけど・・・近くでモンスターが暴れてる様子は無さそうだし、もしかして新人の子がモンスターを倒したのかしら・・・?」
顎に手を当て辺りをキョロキョロと見渡しながら語ったのは、樹が今日の昼に会った長いポニーテールのオレンジ色の魔法少女だ。
「それかダブルロッドのお姉様でしょうか?」
「「シフォン」さんか、あの人だったら1人でも余裕でモンスターと渡り合えるし人一倍モンスター討伐に執着してるから私達より早くここに来て新人の子を助けてモンスターを倒したって事かしら?それにしても・・・」
オレンジ色の魔法少女は再び辺りを見渡した。
「ここ周辺の建物や道路の損傷が激しいわね。初めての戦闘だから仕方ないと思うけど・・・これは私がいろいろと教えてやらないとね。」
「あのぉ、私も早く新人さんにお会いしたいですし「コクシネア」ちゃんのお手伝いしたいのですがぁ・・・明日リアルで仕事がありましてぇ・・・」
「仕事?うん、私一人でも大丈夫だから気にしないで。新人の子は明日私が会って直接指導するから。でもいつも通り建物とか道路の修復はお願いね、出来る範囲でいいから。」
「はい、お任せを!」
「それじゃ、私はここの周辺に怪我人がいるか見て回ってくるから後は頼むわね「セルレア」。」
藤色の魔法少女は敬礼のポーズをし「御意です!」と応えた。自分の身長よりも長いロッドを召喚させると魔力を込めたロッドを近くの大きく損傷した道路の一部に向けた。
すると見る見るうちに損傷した道路が元の状態へと修復されていく。その様子を確認したオレンジ色の魔法少女はこの場を離れた。
―――――――
先程、樹に連れられて病院に来た愛華はその後、左腕の状態の検査を終えた後診察室で怪我の治療をし三角巾で左腕を固定してもらった。
治療を終えた愛華は病院の待合室で椅子に座って親の迎えを待つ。連絡は治療中に看護師がしてもらったようだ。
しばらくすると一人の女性が病院にやってきた。辺りをキョロキョロと見渡し愛華の姿に目をやると「愛華!」と叫び急いで愛華の元へ駆け寄った。
「愛華が怪我したって看護師さんから電話きたけど・・・腕は大丈夫なの?」
「ママ・・・うん、骨にヒビが入っちゃったみたい。全治3週間だって。」
愛華に駆け寄った女性は愛華の母親のようだ。
「全治3週間って・・・一体何があったの!?」
愛華は母親にモンスターが現れて襲われたという本当に起きた事だが「嘘」を言った。
魔法少女とモンスターの戦いに巻き込まれたと言えば「娘に負傷させた魔法少女が悪い」と母親が自分を助けた魔法少女に非があると思われてしまう。
ましてや一度は魔法少女に「逃げろ」と言われあの場から離れたにも関わらず魔法少女の事が心配で戻ってきてしまいモンスターの攻撃に巻き込まれたと言えば母親を動揺させてしまうだろう。
そう思った愛華は母親に嘘をついた。愛華の母親はその理由に納得したようだ。
「それでね、私がモンスターに襲われてるところに魔法少女さんが現れて助けてくれたの!ラビアタっていう魔法少女さんなんだ!」
「そう、ならいつかそのラビアタさんにありがとうって言わないとね・・・それにしても」
愛華の母親は愛華を優しく抱きしめた。
「あなたが無事で本当に良かった・・・」
「ママ・・・ごめんね、心配掛けちゃって・・・」
愛華も母親に抱きしめ返した。その後、母親が医師の話を聞き終えた後二人は病院を後にした。
―――――――
愛華に別れを告げた樹はそのまま自分が住んでいるアパートに向かっていた。
アパート近辺に到着すると辺りに人がいないか確認し、人がいない事を確認すると一気に自分の部屋の前に飛び乗った。
急いで腰に付いてる巾着袋のような物から部屋の鍵を取り出し鍵を開けてすかさず部屋の中に入り「ハァ」と大きい溜め息を吐いた。すると樹はふと疑問が湧きラビアタに問いかける。
「ねぇラビアタ、これちゃんと元の姿に戻れるよね・・・?まさか一生この姿ってわけじゃないよね!?」
「うるさいわね・・・ちょっと待ってて」
樹の胸元から光が放ちそこからラビアタが出てきた。そして樹の体が眩く光りだし徐々に成人男性の身体の大きさになり元のスーツ姿の樹に戻った。樹は部屋の鏡でスーツ姿の中年男性の自分を見てホッとする。
安心して後ろを振り返るとラビアタの様子がおかしい事に気付いた。出逢った時はガミガミと文句を言ったりしつこく魔法少女になる様せがまれたりと活気溢れていた様子だったが今のラビアタはその場でフラフラと飛ぶのがやっとという様子で活気が無い様に感じた。
樹は心配になりラビアタに声を掛ける。
「ラビアタどうしたの?なんかフラフラしてるし元気が無いようだけど・・・」
「んん・・・実は・・・能力が超絶的に上がったあの魔法・・・ものすごくマナを消耗するみたい・・・で・・・やばっ・・・もう・・・限・・・か・・・」
突然ラビアタが意識を失い床に真っ逆さまに落ちようとしていた。樹は慌てて飛び込み床に激突寸前にキャッチし、フゥっと息を吹いた。
と、安心してる場合じゃないと気付きすぐさま何度もラビアタに声を掛けた、しかし冷静になって自分の耳をラビアタに近づけるとスースーと寝息を立てていた。どうやら疲れて眠ってしまったようだ。
「なんだ・・・寝ちゃっただけかぁ」そう呟くと樹は、まだ使っていない新品のバスタオルを手に取り畳んでその上に眠ったラビアタを乗せた。次に空のダンボールを持ってきてその中にラビアタを乗せたバスタオルを入れ簡易的なベッドハウスを作った。
すると、樹は寝ているラビアタを見て思わず呟いた。
「寝てる時はかわいいんだけどなぁ・・・」
樹の声に反応したのかラビアタは「んぅ」と声を出し寝返りを打った。
樹は起きたと思ってビックリしすかさずダンボールから離れた。恐る恐るダンボールに近づいて中を覗き込み、ラビアタが寝ている事を確認するとホッと溜め息を吐いた。
「いきなり魔法少女になれだなんて最初はビックリしたしわけがわからなかったけど・・・実際に魔法少女になって戦って正直今も戦うのは怖いけど、こんな僕でもモンスターから人々を護る事ができるってのは案外悪くはないかも。だから・・・」
樹は自分のひと指し指でラビアタの頭を撫でる。
「こんな僕でもいいのならこれからもよろしく、ラビアタ。」
今の言葉に反応したのかラビアタの羽がピクっと動いた。それを見た樹は再び慌ててダンボールから離れる。少しの沈黙が流れラビアタが起きていない事を確認しまた溜め息を吐く。
その後樹は着ていたスーツを脱ぎ部屋着に着替え布団を敷き直し部屋の電気を消し布団の中に入った。
「あれ、何か忘れているような・・・」
樹は何について忘れたのか思い出そうとしたが、「まぁいいか」と思い出すのを諦め眠りについた。
こうして市井樹の長い1日がようやく終わりを迎えるのであった・・・