14話 「お話ししましょう、全てを、貴方に」
樹とコクシネアが苦戦の末に倒したモンスターは粉々になり、再生能力が無くなったモンスターの肉片は蒸発し徐々に消滅していった。モンスター撃破からの一部始終を見ていた樹は徐々に消えていくモンスターを見て完全に安心しきった様子で「フゥ」と息を漏らす。ふと目線をコクシネアに移すと浮かない顔をしていた。
「弱いモンスターだと思ったのにあんな能力があったなんて・・・ごめんなさいラビアタ、私の安易な判断であなたを危険な目に遭わせてしまって・・・本当にごめんなさい・・・!」
自分の判断でラビアタに危険な目に遭わせてしまった事を後悔し自分自身に憤りを感じ体を震わらせ涙を堪えるコクシネア。そんなコクシネアを見た樹はあたふたして慰めはじめる。
「で、でもコクシネアさんのおかげであのモンスターに食べられずに済みましたし、結果的にモンスターを倒せましたしそれでいいじゃないですか!僕は大丈夫ですから!」
「でも・・・私・・・」
樹は必死にコクシネアを慰めるがなおもコクシネアは啜り泣く。よっぽど自分が誤った判断をしてしまった事を後悔しているのだろう。流す涙も段々と大きくなり、それを見た樹は「どうすればいいんだー!」と再び自分のふわふわツインテールをわしゃわしゃにして叫びだす。すると突然背後からコツンという音が聞こえた。二人は後ろを振り向くとそこには藤色の衣装を着た少女が立っていた。
「あれ、コクシネアちゃんなんで泣いているんですか?」
「せ、セルレア!?仕事で来れなかったんじゃ!?」
「大妖精様をお告げを聞いて無理矢理終わらせたのですよ~、それはさておき・・・」
セルレアという少女はコクシネアの方へゆっくり歩きだした。コクシネアの前に立つといきなりコクシネアのうなじ辺りを掴みコクシネアの顔を自分の胸に押し当てるとコクシネアの頭を撫で始めた。
「ちょ、ちょちょちょちょっとセルレアァ!?彼女が見てる前で何を!」
「まぁまぁ、失敗してまた自分を攻めているのでしょ?コクシネアちゃんは強い子ですから大丈夫大丈夫~」
セルレアは我が子の様にコクシネアの頭を撫で続け慰める。次第にコクシネアは涙を流さなくなったが顔は真っ赤になり「もう大丈夫だから」と言って自らセルレアのなでなで攻撃から脱するとセルレアはとても残念そうな顔をした。すると一部始終を見てこちらも顔を真っ赤になったラビアタに気づきセルレアは放心状態のラビアタに話しかける。
「あ、置いてけぼりにしてごめんなさい。私この地域で活動している魔法少女の「セルレア」と申します、以後お見知りおきを。それより・・・」
ラビアタに近寄るセルレア。するとラビアタの右手を両手で握ると興奮して喋りだす。
「あなたが新米魔法少女のラビアタさんですね!今までニュースとあそこの建物で小さい姿でしか見れなかったのですが改めて間近で見ると物凄く可愛いですね!私が見てきた魔法少女の中でもトップクラスの可愛さですよ!あぁ~尊い・・・尊過ぎます~・・・その尊さは名高い美術館でほとんどの観客に一際注目を集める一つの絵画の様な・・・この尊さ何かに残さなければ・・・そうですわ!今度皆と撮影会を・・・」
「はいはいそこまで、彼女が困ってるわ。」
興奮するセルレアの肩を強く叩くコクシネア。どうやら冷静さを取り戻せたようだ。肩を強く叩かれたセルレアは「ハッ」と声を発しこちらも冷静さを取り戻した。一方興奮するセルレアに圧倒されたのか呆けている樹をコクシネアが「おーいラビアター」と大きな声で呼ぶと樹の意識が戻ったようだ。
「ごめんなさいラビアタさん。私二次元でも三次元でも可愛い娘を見るとつい興奮して周りが見えなくなっちゃうんです・・・」
「そ、そうなんですか・・・それはそうと今握ってる僕の手を離してもらえると助かるんですが・・・」
「あっ、ごめんなさい。」
今まで握っていた手を慌ててパッと離し「えへへ」と頭をかいて苦笑いした。
「さてさて、モンスターを無事討伐できたので壊れた所修復したら早速ラビアタさんの歓迎会をしましょうか。来るかわかりませんがシフォンさんにも声をかけて、場所はいつもの・・・」
「あぁセルレア、歓迎会もいいんだけどその前に大妖精様の所に行かなきゃいけないのだけれど・・・」
「え、大妖精様の所に・・・ですか?」
「えぇ、実は・・・」
コクシネアはラビアタがまだ大妖精に会っていない事と「魔法少女」と「モンスター」についてまだ理解していない事をセルレアに教えた。
「そうだったのですね・・・では私は壊れた所を修復しているのでお二人は大妖精様の所へ行ってください。」
「えぇ、お願いねセルレア。」
「コクシネアさん、さっきから気になっていたのですが「壊れた所を修復」とはどういう事ですか?」
「え、そのままの意味だけど・・・今セルレアがやるところだから見てて。」
コクシネアに言われセルレアの方へ視線を向ける樹。セルレアは右手を上げロッドを召還した。セルレアのロッドは自身の背丈よりも長くロッドの先に付いてる大きな円形のパーツには五芒星の模様が描かれており五芒星の中心には青い水晶が埋め込まれている。長いロッドを右手で掴みセルレアは嫋やかに歩き出し、モンスターとの戦闘の際に損傷した道路の前に立ちロッドを損傷部分に向けるとセルレアの体が淡く輝きだしロッドはより強く輝く。ロッドが強く輝きだした瞬間損傷した部分がみるみるうちに平面の道路の一部に戻っていった。樹は今の光景を見て思わず唖然とした表情をした。
「魔法少女にはそれぞれの固有魔法以外にもいろいろと備えられている魔法があって、その一つが「修復魔法」よ。建物とか無機物の物であれば直す、というか時間を巻き戻して元の状態に戻す事が出来る魔法なの。ちなみに生き物には修復魔法は使えないのだけれどセルレアは生きていれば怪我を治す事が出来る魔法少女の中でも数少ない「治癒魔法」の使い手でもあるのよ。」
「へぇ・・・すごいんですねセルレアさんって・・・」
「ま、修復魔法に関しては私達にも扱える魔法だけどね。あなたにも使える筈だし本当だったら昨日の戦闘の後に残っていてほしかったけどね。あの後私とセルレアもそこに来たから教えようと思ったのに・・・」
「え!?あ、すみません・・・知らなかったとはいえあの時近くで負傷した女の子を早く病院に送らなきゃいけないと思ったのですぐあの場から離れちゃったんです・・・」
「あ、そうだったの・・・?ごめんなさい、先走った事を言ってしまって・・・でも人命救助を優先する事はいい判断よラビアタ」
昨日の戦闘の後にラビアタがすぐにその場を離れたとてっきり勘違いした事をフォローするかの様にコクシネアはラビアタの頭を撫で褒め称える。
「あの、コクシネアさん・・・僕あなたよりも大分年上だと思うので頭を撫でられるのはちょっと・・・」
樹にもオジサンなりのプライドがあるのだろう、苦笑いをして頭を撫でられる事を嫌がった。コクシネアは彼女の中身が昨日出会った憔悴しきったオジサンだという事を忘れていたのかすかさずパッと手を引いて「ごめんなさい」と謝った。
「ま、まぁ、修復魔法を使用するにもマナを消費するからある程度まで直したら後は業者の人達に任せていいと思うわ。さて、ここはセルレアに任せて私達は大妖精様の所に行きましょうか・・・」
「そうですね・・・あ、そういえばどうやって大妖精様の所へ行くんですか?」
「あぁ、さっきは「扉」を作る途中でモンスターが現れたから見せてなかったわね。あなたの妖精も作り方はわかっていると思うけれど今回は私が作るからよく見ててね。妖精、お願い・・・」
コクシネアは何もない所で右手を前に出した。すると右手の先から光が現れ、徐々に人並みの大きさ程になると光の中心から別の世界が映し出された。まるで現代の世界とは思えないほどファンタジー映画の世界の様で幻想的で綺麗な世界だ。思わず目を奪われていた樹の手を突如コクシネアが掴む。
「行きましょ。大妖精様の所へ」
「え、ちょ、ちょっとま…」
コクシネアは樹の手を引っ張り二人は光の「扉」の中へ入っていった。
―――――――
それは一瞬で世界が変わったかのようだった。
二人は光の扉の中へ入った瞬間にさっきまで自分達がいた世界から光の扉から覗いた世界に移ったのだ。樹は周りを見渡すと自分がいた世界とは打って変わって綺麗で澄んだ所であちらこちらで妖精と同じ大きさの妖精達が飛び交っていた。よく見ると魔法少女らしき少女が何人かいるようだ。
「ここは大妖精様が住む世界よ。ここは魔法少女であれば誰でも来れる場所なの。もう見えてると思うけど私達以外の魔法少女達もここに来て他の魔法少女と情報交換したり、中にはこの世界を経由して自分のいる場所から他の場所へ移動する魔法少女もいるの。例えば日本からこの場所に来てアメリカのどこかに出るみたいな。」
「へぇ、そうなんですか・・・」
「さ、大妖精様のいる場所に行きましょ。」
コクシネアは掴んでいた樹の手を放して前に歩き出した。樹は慌ててコクシネアについていく。板石の道をしばらく進むと泉が現れ泉の中心には大きな噴水がある。これを見た樹は観光に来たのかの如く早歩きで泉に向かい泉の前に立つと大きく深呼吸をした。先程の戦闘の疲れが一気に吹き飛んだようだと感じた。コクシネアは寄り道した樹を手招きをして呼び戻し泉の脇の板石の道を再び進む。泉の向こう側に来ると大きな遺跡の様な建物がそびえ立っていた。
「ここよ、この中に大妖精様がいるのよ。」
「こ、ここに大妖精様が・・・」
樹はこの建物に大妖精がいるとわかった途端一気に緊張が増した。しかしこれで一体何が起こっているのか、何故モンスターが自分達の世界に現れたのか、何故自分達が魔法少女になって戦わなければいけないのか、ようやく全てを知る事が出来る。樹は生唾を飲み意を決して歩き出した。すると突然妖精が樹の体から飛び出した。
「ら、ラビアタ!?いきなり出てきてどうしたの!?」
「どうしたの?じゃないわよ。これから大妖精様に会うのよ?それなのにいつまでもアンタの中にいたら大妖精様に失礼じゃない。」
「だからって僕の体から離れたら変身が解かれ・・・あ、あれ?」
以前は妖精が樹の体から出たら変身が解かれたが、たった今妖精が樹の体から離れはしたが何故か変身は解かれず樹は魔法少女の姿で維持しているみたいだ。樹は不思議そうに自分の体を見回した。
「ここは空気中にマナが多く含まれているから妖精が離れても魔法は使えないけど魔法少女の姿のままでいられるのよ。このようにね、出ておいで妖精」
そう言うとコクシネアの胸からオレンジ色の妖精が出てきた。しかしコクシネア自身も変身は解かれずそのままの姿でいられるようだ。ちなみに、今出てきた妖精は魔法少女によく似ている。妖精はコクシネアから出てきた妖精を見るや否や「ガルル」と犬の様に威嚇し始め、それを見た妖精は未だに自分に盾突く妖精に呆れた様子だ。
「まぁ、妖精の任意でこの世界でも変身を解く事は出来るけどね。さて、遺跡に入りましょ。大妖精様が待っているわ。」
「う、うん、そうですね。」
樹とコクシネアと2匹の妖精は遺跡の中へ入った。遺跡の中は広いが道は1本しかなく奥には小さな泉があり、その泉に一人の女性らしき人物が後ろを向いて立っていた。樹達は歩き出しその女性の前に立ち止まった。「来ましたね。」そういうと女性は樹達の方を振り向いた。
「初めまして、私はこの世界で生まれた全ての妖精を司り、そしてこの世界とは別の二つの世界を監視をしております。大妖精ファレノプシスと申します。おかえりなさい妖精。そしてようこそ、妖精のパートナーの市井樹さん。」
「大妖精ファレノプシス」と名乗る女性は妖精とは思えないほど成人男性程の大きな女性で、身丈ほどの長いブロンドのロングヘアーで背中には大きな妖精の羽が生えており、姿は妖精とは思えない程神々しい。
「あなたが大妖精様・・・あ、あれ、なんで僕の名前を?」
「大妖精には何でもお見通しですよ、フフフッ。」
ファレノプシスは手を口に当て微笑んだ。
「妖精、あなた大妖精様に言うべき事があるんじゃないの?」
「な、なによ突然!何を言えっていうのよ!」
妖精は妖精のもとに行きヒソヒソと話し始め、小さな声で揉め始めるが「わかったわよもう!」と妖精は反論するのを諦めたのか素直に受け入れ大妖精のもとへ飛び、大妖精の顔の前に止ると
「泉から旅立つ時に大妖精様の話を聞かずに飛び出していってごめんなさい。」
と深々と頭を下げ大妖精の前で謝罪した。
「気にしなくてもいいのですよ妖精。こうして貴方のパートナーと一緒に無事ここへ戻ってこれたのですから、それだけで私は嬉しいのですよ。」
ファレノプシスは妖精の体をやさしく包むかのように掴み妖精頭を撫でた。妖精は顔を赤くしたがどこかまんざらでもない様子だ。
「さて、市井樹さん。貴方がこうして魔法少女になり魔物と戦う使命を負ったからには先程私が言いました「二つの世界」で今何が起きているのか全てを話す必要があります。しばらく私の話にお付き合いして頂けますか?」
「はい、その為に僕はあなたにお会いしに参ったのですから。」
「ありがとうございます。ではお話ししましょう、全てを、貴方に・・・」