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12話 「ピンチはチャンスってやつよ!」

突如出現した境界の亀裂の周辺にいち早く到着したラビアタとコクシネアだったが、亀裂の拡がり具合から現れるモンスターが弱い可能性があるのとラビアタ(樹)が1億の借金を抱えている事を踏まえて、討伐報酬を全て譲る為に今から現れるモンスターの討伐をラビアタ一人に任せる事にしたコクシネア。

ラビアタのそばから離れ逃げ遅れた人がいないか探すべく移動しながら建物の窓という窓の中を見て周り、建物の屋上に上がりそこから見渡しながら探す。するとコクシネアは別の建物に見覚えのある人物を見つけた。

浅黄色の衣装に大きな帽子を被った少女。彼女は昨日ラビアタがモンスターと交戦しているのを眺めていた魔法少女のようだ。


「シフォンさん!」


コクシネアは浅黄色の魔法少女に「シフォン」という名で呼ぶと彼女のいる建物に飛び移った。コクシネアの存在に気付いた浅黄色の魔法少女はコクシネアに軽く会釈する。先程コクシネアとラビアタの間で話題に上がっていた「シフォン」という魔法少女は浅黄色の魔法少女の事のようだ。


「こんにちはシフォンさん。ごめんなさい、また私達が先にモンスターの出現ポイントを先取りしてしまって。」


「お気になさらないで下さい。先に獲物を見つけた者に狩りを行う権利が与えられると私は思っているので。しかし・・・」


シフォンという魔法少女は視線を境界の亀裂からモンスターが出てくるのをオドオドしながらロッドを構えて待つラビアタに移した。


「彼女一人にモンスターの討伐を任せて良いのですか?新人の魔法少女なのでしょう?」


「えぇ、心配はしてますけど何事も経験ですし危なくなったら私が助けに入るので。それに彼女はモンスターと戦わないといけない深い事情というものがあるので・・・」


「深い事情・・・?」


「はい、あまり他人のプライベートな事を言わない方がいいんですけど、実は彼女借金を抱えていてその借金を魔法少女の報酬で返済する為に魔法少女になったみたいです。」


「借金ですか・・・確かに単体で討伐に成功したら報酬は彼女の物だけになって返済の方も捗りますものね・・・ところで一つお聞きしたい事があるのですが」


「はい、何でしょう?」


「その借金の額・・・もしかして1億円、とか?」


「えぇ!?シフォンさんなんで彼女の借金が1億円ってわかったんですか!?」


「えっ・・・あ、いえ不意に思った事を聞いただけなので今の事は忘れてください。私も彼女の借金の額の事は忘れますから・・・」


「は、はぁ・・・わかりました・・・」


コクシネアは先程のシフォンの言動と反応に何か違和感を感じた。

コクシネアとシフォンは昔から交流はしておりコクシネアはシフォンの戦闘を何度も間近で見てきた。どんなに強くて凶暴なモンスターもその無表情ポーカーフェイスで冷徹にそして淡々とモンスター達を薙ぎ倒すあの彼女が、ピンポイントで「1億円」という単語を発しコクシネアの反応に一瞬目を見開いて驚いている様に見えた。そして少し慌てる素振りも見せていた気がした。

シフォンはラビアタと何か関係があるのか?そう疑問を抱いたコクシネアだが個人のプライベートに深く入り込むのは失礼と思いラビアタとの関係を聞くのを諦めた。

フゥと溜め息を吐き再び無表情ポーカーフェイスになったシフォンが口を開く。


「それはともかく、ここは私が出る幕ではないみたいなので私はもう行きます。彼女の事はあなたに任せますコクシネアさん。まぁ助けは必要無いのかもしれませんが・・・」


「え、最後なんと言いました?」


「何でもありません。それでは・・・」


シフォンが言った言葉の最後を聞き取れなかったコクシネアの問いに何でもないと無かった事にして後ろを向き、シフォンは目の前の建物に飛び移りその場から立ち去った。

取り残されたコクシネアはどんどん小さくなるシフォンをただただ不思議そうに見つめる事しかできなかった。


淡々と建物から建物へ飛び移り移動するシフォン。その最中口を開き小さく呟いた。


「まさかね。」


―――――――


「も、ももももモォンスターめぇ!こ、この僕が相手になってやるぞぉー!」


ボロボロと欠片が零れ落ちる境界の亀裂の向こうにいるモンスターに向かってロッドを構え自分を奮い立たせるかの如く威嚇する樹。しかしいくら強がっても恐怖は隠しきれない模様だ。


「吠える割には足ガックガクじゃない・・・」


「しょ、しょうがないじゃないか!昨日の今日でまた命懸けの戦いやるんだから!」


「まぁ命懸けなのはわかるけどさ、あいつのパートナーが今から出てくるモンスターは弱いって言うんだからそこまで気を張る必要ないんじゃないの?」


「そんなこと言われても僕だって弱いんだから油断出来ないよ・・・!」


「だから自分に魔法掛けとけばそれなりに戦えるんだし、いざとなればあの時の魔法が発動すれば大丈夫よ!」


「そ、それはわかってはいるんだけど・・・」


「ほら!そろそろ境界が崩壊するわよ!構えなさい!」


慌ててロッドを構え直す樹。欠片がボロボロと剥がれ境界の向こう側にいるモンスターらしき姿が見えると樹は思わず生唾を飲んだ。

そしてモンスターが境界にもう1度攻撃すると境界は完全に崩壊し、飛び散った境界の欠片が樹に目掛けて襲い掛かる。樹は反射的に顔を両腕で覆い飛散した空間の欠片を防いだ。欠片が樹の周辺に散らばり終え辺りが静寂したのを耳で確認した樹は顔を覆っていた両腕を下ろし閉じていた瞼をゆっくりと開く。

そこに映っていたのはうねうねと動く触手を十数本も生えているイソギンチャクの様なモンスターがいた。大きさは本体の体長は樹(人間時)の身長とほぼ同格だが横幅がでかく、本体の先端に生えている触手はすべて2mはあるだろうか。自分の体長より大きい触手を天に向かってうねうねと動かしながら樹の方へゆっくりと近づいていく。

それを見た樹はあたふたし始めてしまう。見かねたラビアタが自分に強化魔法を掛けるよう指示し、慌てて頭上にロッドを2度大きく振り赤と青の魔法の粒子を浴び魔力と身体能力をパワーアップさせた。


「な~んか結構トロそうなやつだし、昨日のやつに比べたら大した事なさそうじゃん!さぁ樹?こんなやつパパっとやっつけちゃってあいつらに私達の実力を示すのよ!!」


「簡単に言ってくれるよ・・・でももうやるしかない・・・い、行くぞー!うぉおーーー!!」


もうヤケクソと言わんばかりにモンスター目掛けて突進する。するとモンスターも応戦して樹に向かって1本の触手を伸ばしてきた。思わず「うわっ!」と発した樹はすぐさま着地して襲い掛かる触手を野球の打者の如くオーラを纏わせたロッドで打ち返した。先端はちぎれ触手は本体へピッチャー返しにした。

これに怒ったのかモンスターは全ての触手を樹に向かって一斉に伸ばしてきた。それを見た樹はその光景に怖気づいたのか思わずその場から走って逃げ出してしまう。しかしどんなに逃げても触手達は樹を追ってくる。ついに1本の触手が樹の左手に巻き付かれてしまった、が樹は咄嗟にオーラロッドで巻きついた触手を叩っ斬った。なおも触手達は樹の身体に絡み付こうとするが樹も必死の抵抗で次々と襲い掛かる触手達をロッドで薙ぎ払う。その後も必死にロッドをブンブンと振り回すがここで触手達が襲ってこなくなった事に気付く樹。ハァハァと息を漏らし目線をモンスターのいる方へ移すとさっきまでうねうねと動いていた触手がボロボロになって垂れ下がっていた。


「ほらぁ!やっぱり大した奴じゃないじゃない!さぁとっととトドメを刺しなさい樹!」


「う、うん、わかった!・・・え?ちょ、ちょっと待って!」


ラビアタに急き立てられモンスターにトドメを刺すべくロッドに魔力を込める所で樹はモンスターの様子がおかしい事に気付いた。ボロボロにした筈の触手がぐにゃぐにゃと激しく動き見る見るうちに元の状態へ再生していったのだった。

「そんな・・・」

あんなに必死になってダメージを与えたのにいとも簡単に再生してしまったのだ。樹はショックを受けてただただ呆然するしかなかった。だがモンスターはそんな樹をよそに再び1本の触手を樹に向かって勢いよく伸ばしてきた。我に返りモンスターが攻撃してきた事に気付いたがもう遅い、避けるのを諦めすかさずロッドで防御しようとしたがモンスターの触手攻撃が樹に直撃してしまった。だがはね飛ばされはしたものの攻撃を喰らった場所から数メートル程しか飛ばされずダメージもさほど受けてない様子だ。

「痛た・・・」と声を漏らし起き上がって攻撃を喰らった左腕をさする樹。すると突然ラビアタが樹の名を呼び樹も反応して無意識に俯いていた顔を上げると次の触手が樹の方へ向かってくるのが見えた。慌てて起き上がり逃げようとしたその時だった。突如体が重く感じ動きが遅くなったように思えた。いや遅くなったのではない、魔法少女ラビアタ自身の元の速さに戻ったのだった。


「しまった!魔法が!」


再び強化魔法を掛ける樹だがもう手遅れのようだ。触手が樹の右足に巻きついて捕まってしまう。足に巻きつかれた事によってバランスを崩し頭から転倒した。その際手に持っていたロッドを落としてしまった。

そして触手は樹の体を持ち上げ宙吊りにした。逆さまになった樹はすかさずスカートを押さえた。別に魔法少女になった樹のスカートの中身を見る者はいないし下はドロワーズを履いている為そこまで恥ずかしい思いはしないと思うし、何より樹自身は男性であるはずが何故逆さまの宙吊り状態になってスカートの中身を見せない為に瞬時にスカートを押さえる事が出来たのだろうか。樹にも魔法少女の時だけは「女の子らしさ」を意識し出したのだろうか。

それはともかく、樹の右足に巻きついた触手は樹を宙吊り状態にしながらゆっくりと自分の所へ運びだした。必死に暴れて逃れようとする樹だががっちり巻きついた触手は解く気配がしない。


「どうしようラビアタ!どんなに暴れても逃げられないよ!」


「落ち着きなさい樹、これはむしろ好都合よ!」


「ハァ!?好都合って何言ってるの!?」


そう言ってる間に樹の体はモンスターの頭頂部の真上まで運ばれそこで停止した。モンスターの頭頂部を見ると突如頭頂部が糸を引きながら開き始め奥は暗くてよく見えないが内側に鋭い牙のような物が何本も生えている。どうやらこのモンスターの口のようだ。これを見た樹はこのモンスターが自分を食べようとしている事を察し青ざめる。再び逃れようと必死に暴れるが触手は絶対離そうとしない。


「ラビアタ!あ、あいつ僕を食べようとしてるよ!ホントにマズいよこれ!」


「だから落ち着きなさいって、これは「ピンチはチャンス」ってやつよ!」


「だから何言ってるの!?何だよピンチはチャンスって!!」


「いい?昨日発動したあの超絶強化魔法、魔物にぶっ飛ばされてめちゃくちゃピンチな時に発動したのよ?さっきもあの魔法を発動しようとしたけどどうやれば発動するのかわからなかったし大体私にあんな魔法があったなんて知らなかったわ。樹だってあの時樹自身が発動させたわけじゃないんでしょ!?」


「だから言ったじゃん!あの時は無我夢中だったって!大体魔法少女初心者なんだから僕だってあんな魔法の存在知るわけないだろう!?」


口論してる最中にもモンスターは樹をゆっくりゆっくりと自分の口へ下ろし始める。


「そう、私達は発動方法がわからなければ存在すら知らなかった。だけどあの時あの魔法が発動したんだから何かしら条件はあるはず・・・だけど今日の朝板みたいなやつに映された人間がヒントをくれたわ!それは「攻撃に耐えて耐えて強くなる」よ!だから私達はまだあいつの攻撃を受け足りてないのよ!だから・・・」


「だから?え、まさか・・・」


「このままあいつに食われちゃいなさい!食われた後が本当の勝負よ!!」


「は、ハァ!?本当に何わけのわからない事言ってるのラビアタっ!マジで死んじゃうって!!絶対に嫌だよそんなのっ!!」


ラビアタの無茶振りに全力で抗議&拒否する樹。その最中も徐々にモンスターの口に近づき思わず下を向くと粘液の糸を引きながら纏わり付く何本もの鋭い牙。その奥はその先が見えない程のまるで無限に続く漆黒の闇の世界。この光景を見てしまった樹は己の死への恐怖が一気に吐き出されたかの如く悲痛な声で叫び出した。


「もう!もうダメだぁぁぁぁぁあああ!!助けてぇ!!コクシネアさぁぁぁぁぁあああんんん!!!!」


そこからは一瞬の出来事であった。樹の右足に巻き付いた触手が何者かによって切断され、樹の身体も落ちる暇さえ与えずに何者かが抱え込んでその場から脱しモンスターが樹を捕食するのを見事阻止させた。

一瞬の出来事に思わず目を瞑っていた樹だが恐る恐る目を開くとそこには約1時間前に出会ったオレンジ色の魔法少女の顔が写っていた。


「ごめんなさい、危ないところだったわね。」


樹を救ったのはコクシネアだった。コクシネアはお姫様だっこのように抱えていた樹をゆっくりと下ろした。だが下ろした瞬間腰が抜けたのかそのままへたれ込んでしまう。そんな樹をよそにコクシネアは横から樹の頭を撫で

「あとは私に任せて。」

そう言って樹の前に立ちはだかり、右手に持っていた彼女のロッドらしき物を強く握り締めモンスターに向かってこう叫んだ。


「さぁ次は私が相手よ、モンスター!」



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