10話 「こんなかわいい新人の魔法少女さんがあの時のオジサンなわけないか」
樹のいる地域で活動している魔法少女の一人、コクシネアに「今から会えますか?」というメッセージが届き二つ返事で大丈夫と返信するとコクシネアが昨日樹とモンスターが交戦した駅前で待っているというメッセージが届き急いで指定された場所に向かおうとする樹。
一方、いつもと違う態度でコクシネアに会うなと抗議するラビアタ。脅すように樹を止めようとしたが樹はラビアタの脅しに怯まずにコクシネアに会いに駅前に向かう為出発した。
徐々に駅前に近づくにつれてラビアタの態度がまた変化し今度は慌てる様子でコクシネアに会わないように必死に訴えるラビアタ。
樹はその慌てる様子に戸惑うが、最初止められた時は他の魔法少女と関わるなという事なのかと思ったがただ単にラビアタがその魔法少女に会いたくないだけなのかと樹は察した。
ラビアタの必死の訴えを無視して樹は移動を続け駅前周辺に到着した。樹は駅前の近くにあるビルでコクシネアを探すと昨日モンスターと戦った場所の近くの建物の屋上に魔法少女らしき人物を見つけすぐに移動して魔法少女がいる建物に着地した。すると自分の背後に樹が着地した音を聞いた魔法少女は「来たわね。」と呟くと後ろを振り向き唐突に自分の名を名乗った。
「初めまして、私はここの地域の魔法少女の一人、コクシネアよ。」
樹の方へ向いたオレンジ色の魔法少女は「コクシネア」と名乗り、瞳が煌き凛とした顔立ちで樹を優しく見つめ微笑んだ。
ウサギの様な白いリボンでまとめた腰まで届く長くて輝くオレンジ色のポニーテール、ラビアタの衣装よりも軽装で白いノースリーブのブラウスの様な衣装、白いショートパンツを履いてるがその上にはそのショートパンツが見えるように真ん中が開いているラインが入ったオレンジ色のハイウエストのスカートの様な物を身に付けており、そして小さなオレンジ色のマントを羽織っている。見た感じは魔法少女というより中世の騎士の正装をアレンジした衣装を着た少女と言うべきか。
すると樹はコクシネアを姿を見て驚き「き、君は!」と声を漏らしてしまう。それもそのはず、樹は昨日ラビアタと会う数時間前に中年男性の姿の時にコクシネアと出会っており、ロリータコンプレックスと疑われたり自分が借金1億円を抱えた話や今日受けた会社の面接の面接官が冷たかった話をしたりそれなりに会話はしている。おまけに別れ際に幸せになれる魔法をかけてもらったり人間とは思えない跳躍力でこの場から去ったりと彼女のインパクトが強すぎて樹は彼女の姿を鮮明に目に焼きついていたのであった。
「あら、もしかして前に私と会った事があるの?」
「え、あっ、あぁ・・・はい・・・実は昨日公園で・・・」
「公園?あぁそういえば昨日心身ともに疲れきったオジサンと公園で会話した記憶はあるわね・・・でもまさかこんなかわいい新人の魔法少女さんがあの時のオジサンなわけないかぁハハハハハ。」
昨日出会った中年男性が自分の目の前にいる魔法少女のわけがない。そう思ったコクシネアが空笑いをして自分の思い込みを否定するが、申し訳なさそうに樹は目を逸らしてコクシネアに自分の正体を打ち明ける。
「あの・・・その・・・実はそのオジサンが僕・・・なんです・・・」
思わず「えっ」という声が出てしまったコクシネア。少し沈黙が流れた後に思い切り「えー!」と叫び激しく驚いた。驚くのも無理がない。自分の目の前にいる可愛らしい容姿とピンクでファンシーな衣装を纏った魔法少女の正体があの哀愁漂う借金1億円を抱えた中年男性なのだから。
「お、男の人も魔法少女になれるとは聞いたけど・・・まさか、あの時のオジサンが魔法少女になってたなんて・・・」
「うん、僕もまさかこんなオジサンが魔法少女になるなんて思いもしなかったよ・・・でも今思えば、あの時君が僕にかけてくれた魔法のおかげで僕も魔法少女になれたのかなぁ・・・なんて」
「いや、あれはオジサンを元気つけようとしただけで・・・ハッ!!あっ・・・あぅ・・・」
樹が言った冗談に冷静にツッコもうとしたコクシネアだが、突然顔を真っ赤にしてその場で蹲り顔を手で隠すと「イヤー!忘れてー!」と叫びだした。
あの時、人生のどん底まで落ちた樹を見かね柄でもないのに樹の鼻先に「幸せにな~れ☆」と突いて「これであなたは幸せになります!背負った借金も吹っ飛んじゃうでしょー!」と周りの子供達にも気付かれるほど声を高らかに叫んだ事を思い出し今になって恥ずかしくなったのだろうか。親切心でやった行為とはいえ今更恥ずかしくなって悶えるのであれば最初からやらなければいいのに。
蹲って悶えるコクシネアを目の当たりにした樹は慌てて謝りあたふたした。すると突然樹の頭に直接入ってきたかの様にコクシネアの声と似た声が聞こえてきた。
「しっかりしてシオリ!今日は新人の子を指導する為に彼女を呼んだんでしょ!?彼女の目の前で動揺してパニックになっちゃダメよ!」
「な、なんだ!?またどこからともなく声が聞こえるぞ!?」
頭を何度も左右に振り声の在り処を探す樹。慌てる樹の声を聞いたコクシネアはムクっと立ち上がり片手で頭を押さえながら樹に謎の声の在り処を教える。
「あぁ・・・今の私の妖精の声よ・・・妖精の声が聞こえる人間は魔法少女になって一体化した妖精の声も聞こえるの・・・」
「そ、そうなんだ・・・それはそうとさっきは変な事言って動揺させちゃってゴメンね・・・」
「私の方こそ取り乱した所を見せてしまってごめんなさい・・・魔法少女としてのこれからを色々教えるというのに、先輩の面目丸潰れね・・・」
涙目になって落ち込むコクシネア。
「き、気にしなくていいよ!さっきの事全部忘れるから!あぁそうそう!ちょうど僕も君に魔法少女やモンスターの事について教えて欲しかったんだ!」
「えっ?それって大妖精様に教えてもらったんじゃ・・・」
彼女もまさかのお使い妖精と同様の返答が返ってきて思わず言葉を詰まらせる樹。するとコクシネアの妖精らしき者が樹に直接語り始めた。
「あの、初めまして妖精のパートナーさん。私は妖精・コクシネアと申します。」
「あっ、ど、どうも・・・」と軽く一礼する樹。
「まずは先程私が突然喋りだしてあなたを困惑させた事を謝らせて下さい、ごめんなさい。それで、あなたは魔法少女と魔物の事、そして今この世界で何が起きているかわからないみたいですがラビアタからは何も聞かされていませんか?」
「は、はい、ラビアタ自身も知らないって言われたので・・・」
「そう、そうですか・・・ラービーアーター!!」
突然妖精が大声で怒鳴りだし思わず耳を塞ぐ樹、外部からでなく直接頭の中に語りかけているのに耳を塞ぐ意味はあるのだろうか?
コクシネアも自分の妖精が突然怒鳴りだしてビックリした様だ。
今までだんまりを決めていたラビアタも突然自分に向かって怒鳴られようやく喋り出した。
「な、何よいきなり怒鳴っちゃってさ!ビックリしたじゃない!!」
「ビックリした、じゃないでしょ!?あなたねぇ!パートナーとなる人間に魔法少女になる事を承諾してもらったらまず大妖精様にご挨拶する決まりになってるでしょ!?」
「ハァ!?何よそんな決まり聞いてないわ!!」
「聞いてないってあなたあの時・・・そうだ思い出したわ!泉から旅立つ時に大妖精様のお話を聞かずに真っ先に飛び出して行ったんだわ・・・なんであなたはいつもそうなの!?昔から人の話をよく聞くようにって言ったでじゃない!?」
「あぁもうウルサイウルサイ!アンタは私の大妖精様かっ!!」
「ただの妖精よ!というかあなた昔から・・・」
「はいはいストーップ!ケンカはそこまでにしましょ?」
妖精と妖精による魔法少女以外の周りの人間にはまったく迷惑が掛からない大音量の口喧嘩をコクシネアは両手を広げ2匹の口喧嘩を制止しようと試みた。
「止めないでシオリ!ここで私がビチっと叱らなきゃいけないの!」
「私達はオジ・・・じゃなかった彼女の妖精と口喧嘩をする為に来たんじゃない・・・魔法少女としての心得とか教える為に来たのよ!妖精、今私が言った事さっき私に向かって似た様な事言ったじゃない。」
「うっ」と声を詰まらせる妖精。
「それに、ほら・・・」
コクシネアが視線を樹に向けると、変な声を漏らして放心状態になっている樹がいた。無理もない、2匹の妖精による大音量の口喧嘩の怒号がダイレクトに脳へ直撃しているのだから。防ぎようが無かったのだ。
「あっ・・・ご、ごめんなさいラビアタのパートナーさん!!」
今の謝罪も音量が大きかったのか、樹の体全身ビクついてしまう。見かねたコクシネアは樹の両肩を掴みユサユサと樹の体を揺さぶって意識を取り戻そうとする。揺さぶった効果があったのか「ハッ!」と発し樹は意識を取り戻した。
「今何が起こって・・・うぅ、頭の中キーンって音が鳴り響いてるよ・・・」
「まったく、ケンカするのは勝手だけど今後は魔法少女の状態でケンカするのは禁止ね2人とも。私だって結構ヤバかったんだから・・・」
コクシネアにもダメージがあったようで敏感になっている頭を片手で頭を押さえダメージを和らげようとする。
注意された2匹の妖精はというと、妖精は「はい・・・」と言って反省した。一方妖精はまた黙り込んでしまったようだ。
「とにかく、あなたがまだ大妖精様に会ってないって事はわかったわ。指導する前に大妖精様にご挨拶に行った方が良さそうね。」
「えっ、大妖精様に会いに?」
「そうよ。そして挨拶しに行く時に大妖精様から直々になぜこの世界にモンスターがやってきたのか、なぜこの世界の人間が魔法少女になってモンスターと戦わなければいけないかを教えてくれるわ。」
「そう、そうなんだ・・・それで、どうやって大妖精様に会えるの?」
「待ってて、今私が入り口を作るから・・・妖精。」
そう言うとコクシネアは右を向き右手を前に出して魔力を貯めた。だが、突然コクシネアと樹に大妖精がお告げで二人に語り掛けて来た。コクシネアはすかさず魔力を貯めるのを中断した。
「この地域にいる魔法少女の皆さん、聞こえますか!今魔物がこの地域に現れようとしています!コクシネアとラビアタ、あなた達が今いる場所の近くに現れる可能性があります!」
「私達の近くですね!大妖精様、詳しい出現場所を教えてください!」
大妖精にモンスターが現れる場所の詳細を教えてもらおうとするコクシネア。一方樹は突然の事であたふたしている。
「あなた達の今いる場所から南の方へ少し進んだ方と思われます。」
「わかりました。今からそこへ向かいます!ラビアタ!」
「は、はひ!」と少し噛みながら返事をした樹。突然魔法少女としての名前で呼ばれ動揺してしまったようだ。
「今の聞いたわね?今から大妖精様に教えてもらったモンスターの出現場所へ向かうわ!大妖精様に会いに行くのはその後よ!」
「わ、わかりました・・・!」
コクシネアと樹は大妖精に教えてもらったモンスターの出現ポイントへ向かった。