楽園追放
ナノマシン技術の暴走で地上文明が崩壊してしまった「ナノハザード」によって、廃墟と化した地球。
人類の98%は地上と自らの肉体を捨て、データとなって電脳世界「ディーヴァ」で暮らすようになっていた。
西暦2400年、ディーヴァは異変に晒されていた。地上世界から謎のハッカー「フロンティアセッター」によるハッキングを受けていたのである。
そこで捜査官アンジェラは、生身の身体・マテリアルボディを身にまとって地上世界へ降り立ち、現地の地上捜査員ディンゴと共にフロンティアセッターと世界の謎に迫る。
(Wikipedia抜粋)
電脳。電脳世界。甘美な響きです。
SFの華ですね、などと日和った感想しか出ないのがにわか映画野郎の悲しい性であります。
今回拝見したのは映画のノベライズ版でしたが、これは映像で見るべき作品だと確信したので、そのうち借りるなり買うなりしたいと思います。
未曾有の人災である『ナノハザード』により地球の大半が荒野と化し、さらに得体の知れない変異を経た猛獣が跋扈するようになった地球。
人類は巨大なサーバー体を宇宙に打ち上げ、精神をデータ化し、ほとんどの人間が肉体の枷を捨ててそこへ移り住みました。
電脳空間の中で社会を構築して何不自由なく生活をする市民と、移住せず荒廃した地球で暮らすわずかな人々に分かれた世界。
主人公アンジェラ・ザルバックちゃんは電脳世界『ディーヴァ』にて、ディーヴァの治安を脅かす敵対存在を見つけ出して対抗する保安官です。
物語はディーヴァのプログラムへとハッキングをかけ、電脳世界の市民に「共に宇宙へ旅立つ同志を募る」との声明を無断で表する謎の存在『フロンティアセッター』からの呼びかけで始まります。
ひたすらな出世にのみ生きる理由を見出そうとするアンジェラは、幹部からの『地球に具現化してフロンティアセッターを探査せよ』という命に従い、同期のライバルたちを出し抜くため、十分な生育も遂げていない自分の身体=ロリ巨乳というスバラシイ文化遺産に意識を移して地球へと降り立ちます。
そこから現地の協力者であり、荒廃したはずの地球で意気揚々と暮らしを営む相棒・ディンゴとフロンティアセッターを探す旅に出かけ、地球とディーヴァとの文化差や両社会の根本にある意義について体験したり考えたりしながら、ついにフロンティアセッターと対面するのですが、その正体とは?
というところがメインストーリーとなっています。
僕は特に近年までSFというものには無縁な人間でしたが(昔からガンダムやロボットものは好きでしたけど)ハヤカワ文庫出版の海外SF作品『たったひとつの冴えたやり方』、ならびにゼロ年代最高のSF作家として有名な夭折の作家・伊藤計劃氏の『虐殺器官』に触れ、その懐の深さと自由性に徐々に惹かれているところであります。
実は映画書評などを始めてみようと思ったきっかけも伊藤計劃さんの書籍化されている書評集を見てからのものです。
膨大な知識量と映画への愛に溢れた解説と批評は、映画を見る上での指標やイロハがロクに無いぼくに道を示してくれたものに他なりません。2巻ほど出ていますので、映画好きな方はぜひそちらもチェックしてみてください。
こんなにわか仕込みの紹介記事よりメッチャ面白いし勉強になるよ!(笑)
さて、名前ついでに伊藤計劃氏の描いたSFの主題についていろいろと見ていくと、本人が言ったか周りが言い出したか定かではありませんが、「SFとは飛躍的に進化した技術そのものより、技術によって変わった人間や社会を描くものである」という主張が散見されます。
実際これはエンタメを語る上で欠かせないことだと思います。
結局のところ僕たち人間が一番興味をそそられるのは、見たことも無い形をしたビームガンではなく、ビームガンの銃爪に指を掛けている人間の周りを取り巻く社会、ひいてはその社会で育まれた思考原理と心の機微だからです。
この「楽園追放」はシンプルにその点をまとめていて面白かったです。
『楽園』とまで呼ばれる完璧な管理社会である電脳世界ディーヴァの持つ根本的な欠点をアンジェラはディンゴと共に地球を旅した日々の中で見出し、最終的に故郷であるディーヴァを離れて自分から地球に残るという決断をします。
この考え方の変異がまさしく技術によって変わっていった人間模様からの現実への回帰であり、そこには作中に見られる人型兵装同士の迫力ある動的な撃ち合いや、宇宙工学に関する精緻な描写に負けず劣らずな興味深さをそそられます。
今作は東映アニメーションとニトロプラスの共同開発ということで、『鬼哭街』あたりからニトロ厨な僕としてはお話の絶望度がちょっぴり物足りなかったかな? 主人公イジメ足りてないんじゃない?
とも思いましたが、そういったジャンル特有の文法の観点を垣間見ることでSFの持つ面白さを味わえたかなと思います。
少し抽象的になってしまいましたが、元がそんなにボリュームある話とは感じられなかったので何かこれ以上言ってしまうと普通に核心に迫るネタバレになりそうで、あの、アレ、難しい!
機会があれば映画も見て追記するかもです。動くアンジェラちゃんが見てみたいです!!