9.何か始めるみたいです
月曜日、眠い目をこすりながらキッチンに立って弁当と朝食を作る。以前茜に言われて以来毎日やっていることだ。本人はそこまで料理できないのにな。
「おはよ~イオ兄」
「おう、すぐできるから待ってろ」
「は~い」
寝起きの楓は目をこすりながら椅子に座る。
「今日はやけに眠そうだな、昨日何かあったか?」
「いやぁ、なかなか眠れなくて」
「へぇ」
そんな会話をしながらトースターが跳ね上がるのを確認し、サラダとトーストを食卓へもっていく。
「そういえばイオ兄、彼女作らないの?」
「いきなりなんだよ」
「昨日きれいな女の人2人も連れてきたでしょ?だからどっちかと付き合うとか考えているのかなって思って」
「コミュ障に彼女なんてできるわけないだろ」
「そっかぁ、イオ兄優しいから彼女なんてそのうちできるでしょ」
「そんなことねぇよ、さっさと食って準備しろ」
そういうとは~いと気の抜けた返事をし、朝食のトーストを頬張り始めた。
俺は彼女が欲しくないわけではない。どちらかといえばほしい方ではある。でもそもそも友達すら作れない俺に彼女ができるかと聞かれればほとんどの人は難しいと答えるだろう。誰かに聞いたわけではないが。だから俺は日常会話に力を入れて高校を卒業するくらいには会話術を身に着けるという低レベルといえば低レベルの目標を掲げている。
例えば普通の人間にとって友達を作ることは息をするくらいに簡単なことでも俺にとっては教科書に載るレベルの研究を1代でこなすことだ。そんなの不可能に等しいだろう。
俺は食事を終え、学校に行く準備を済ませる。そうして楓とともに家を出る。
「今日は早めなんだね」
「最近は早く起きることが多いし家にいても意味ないからな」
「そっか、じゃあね」
「おう」
お互いに反対方向へ歩みを進める。
さっきの会話を思い出しながら歩いていく。
もし、茜か浅葱さんが俺の彼女になったらという想像もしたがそんなことはありえないと思った。第一に彼女らに何らかの感情を持っているわけではないため、まずは友達になることからだ。
◇◆◇
靴を履き替え
渡り廊下で浅葱さんにあった。
「おはよう、相馬君」
「おはよう」
「昨日はありがとうね、とても参考になったわ」
「おう」
やはり茜と家族以外の人間には気を使ってしまう。浅葱さんに対しては慣れてきたが。
「そういえば茜ちゃんが#普研__ふつけん__#に行ってたけど何かあったの?」
普研とは普通科研究室のことで、普通科の先生がいるいわゆる職員室みたいなところだ。
「いや、知らない」
「そっか、じゃあね」
「おぅ」
なせ茜が普研に行ったんだ?何かやらかしたのか?まあ気にしても仕方ないから教室へ向かう。
そうして授業を受ける。
◇◆◇
授業が一通り終わり、放課になる。
そういえば昼に茜来なかったな。そう思いながら変える準備を始める。
「伊織君!」
「えっ?」
その声の聞こえる方を向くと入部届を持った茜がいた。
「これに名前書いて!」
「なんでだよ」
無理やり渡された入部届には「学生」と書かれており、同好会に丸がされている。
「なにこれ、学生同好会ってなんだよ」
「私たちが作るの!学生生活および生活を盛り上げる同好会で学生同好会!」
「なるほど、で?」
「だからそこに名前を書いて」
「なんで俺が」
「いいから!」
そのまま俺が何か言っても逃げ道を潰されるだけで一向に話が進まないのでしぶしぶ名前を書いた。
「で、これは何をする同好会なんだ?」
「普通にだべり?あとはたまに調理室借りて料理とか」
「それでよく通ったな」
「私の人望という奴だよ」
そういいながら胸を張っている茜を見て思わずため息が出た。
「で同好会の設立は顧問と3人以上の会員が必要だぞ?」
「え?浅葱ちゃんがいるじゃん」
「本人は同意しているのか?」
「もちだよ!浅葱ちゃんと昼休みに話し合ったよ!」
「むりやりとかじゃねぇよな」
「もちろん同意だよ?」
本当か?と疑いたくなるがこれ以上言ってもらちが明かない。
「で、部室は?」
「1週間は教室棟の空き教室を使わせてくれるって!」
「それ以降は?」
「文化部棟の3回の空き教室」
「文化部棟とか空いてたのかよ」
「あけたんだよ」
「え」
なんてむちゃくちゃなんだこいつは。
「とりあえず今日は活動をしないから、明日の放課後、迎えに来るよ!」
「はいはい」
そんなやり取りをして俺たちは帰路についた。
◇◆◇
夕食の準備を終え、楓を呼び出す。
そうして食べ始める。
「そういえば、俺同好会に入ったから明日から遅くなる」
「えっ?ボッチで中学3年間帰宅部を続けていたイオ兄が!?」
「まあ誘われたから」
「大丈夫?私心配だよ」
楓は乗り出してきた。
「大丈夫だ、ありがとな」
そうして頭をなでてやると照れながら座って小さくなっている。
明日から俺どうなんだろ。