3. その気遣いはいりません
授業を終え今日もまたその時間がやってくる。
昼休みだ。
俺はいつも通り購買でパンを買いに行こうとしたら教室の前には蒼井茜が待ち伏せていた。
「やぁ!伊織君、約束通りお昼食べよ!」
(約束をした覚えなどまったくないのだが」
「ひどいなぁ」
「……あれ、口に出てた!?」
「うん」
「……ごめんなさい」
「別にいいけど、敬語は無しね」
「…うん」
やばい、会話をつないでいくだけならできると思っていたが無理そうだ。
俺のコミュ障さを恨むよ。
「で、行かないの?」
うつむく俺の顔を覗き込みながら彼女は言う。
「……いきます、パンを買った後に」
我ながらこのきょどりかたは恥ずかしい。
蒼井茜が呆れている姿が想像できる。
「いつも購買のパンを食べてるの? 弁当は?」
「……作るのめんどくさくて……」
「ちゃんとバランスのとれた食事をとらなきゃだめだよ」
「……はい」
パンを購入し中庭に行きベンチに腰掛ける。
「抵抗しないんだね、君、嫌そうにしてたけど」
抵抗しても無駄だとわかっていて抵抗するわけがない。
「伊織君」
いつから俺は下の名前で呼ばれるようになったのだろうか。
「こっち向いて」
といわれたので彼女のほうへ向く。
「あ~ん」
丁寧に切り込みが入れられたたこさんウインナーが目の前にいた。
「えっ……」
これは動揺しないわけがない。
学年一の美少女が自分で作ったであろう女子力の高い弁当箱から、女の子らしくかわいらしいたこさんウインナーをあ~ん、しかも間接キッス!?
「待て待てって!」
「あ~ん」
これは食べないとずっと追いかけてくるやつだ。
お菓子をねだる幼児並みにしつこい。
「……あ~ん」
俺は挫折しそれに応じる。
彼女は嬉しそうに笑う。
「ちゃんとバランスよく食べないとね♪」
やめろよ、勘違いしちゃいそうだから!
「さて、昼休みもそんなに長いわけじゃないからさっさと食べちゃお!」
そういわれるのでほのかに赤く染まったであろう耳、頬の熱を冷ましながら再び購買で買ったパンを頬張る。
そして食べ終わり授業開始5分前の予鈴がなり、教室へ戻る。
その時、蒼井茜に声をかけられる。
「明日も一緒に食べようね! あと弁当はちゃんと作ってきてね~」
そんなことを言われた。
めんどくさいと思いながら教室に戻る。
明日もこんなつらい時間を過ごすのか。
でも嫌ではない。
午後の授業を受け、帰る準備をする。
「おいお前、ちょっと面かせ」
嫌な予感がするな、こわもての生徒に声をかけられた。
めんどくせぇ、俺は早く帰りたい。
敵意がないことを示しながら去るそぶりを見せる。
「まてよ! お前だよ!逃げんな」
これは逃げられそうになかった。
「ちょっとこっちこい!」
「……はい」
そのまま俺は金髪に染めた強面に連れ去られた。