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*07*

  『このことは、ちゃんと言ったのか?』

 必要な書類を提出したとき、尋ねられた。

 『言っても、あまり意味がない事だと……思いませんか? どうにもならないし』

 『それは間違ってるぞ』

 そう厳しい目で言われた。

 『あいつはお前が思うほど子供でもない。まぁ、お前の人生だ。しっかり足を踏ん張ればいい』

 そう言われて、私は失礼しますって頭を下げた。

 夏休みが半分以上過ぎた……暑い夏の日だった……。




*07*




 朝、集合場所でとりあえず車2台に7人を振り分けて乗り込みましょうと決めていたとき、案外人の思惑通りに事は運ばないもんだなと思った。

 高田君の車は予想通り堅実なブルーバードシルフィでAT車だったのだけれど、意外と言うか人って見かけだけで判断できないというか、前田君の車は走り屋使用になっているインテグラRだった。当然ガチガチのマニュアル車だ。

 「沙耶ちゃん、こっち乗る? 車、運転したいって言ってただろ、運転させてあげるよ」

 前田君が爛々と沙耶香ちゃんを誘うけれど、

 「一応免許はマニュアルだけど、免許とって以来オートマしか乗った事がないからそっちは無理!」

と沙耶香ちゃんが一蹴した。

 そういや、うん。沙耶香ちゃんの大学時代の愛車はオートマチックの可愛いウサギちゃんマークの軽自動車だった。

 「私、巴ちゃんの馬鹿でかい車とかなんかやたらと走り屋ちっくな車の運転席で懲りたから、普通一般規格に外れる車やマニュアル車の運転席には絶対乗らないってきめてるの!」

 沙耶香ちゃんが大きく首を振る。私の車を例に挙げていうものだからみんな不思議そうに私を見た。

 てゆか、何ですか、私がまるで変な車に乗ってたと言う話わっ!

 私のほうがあせってしまった。

 「何乗ってたのさ?」

 自分の車を拒否されたのが気に入らないのか、むっとしたように前田君が私に問う。

 うぉ? そ、それを聞きますか?

 今、ここで聞きますか!?

 「や、一応国産メーカーだから」

 私は言葉を濁したかったけれど

 「そうやってにごすっつーことは面白いもんに乗ってるんだろ?」

 人の悪い笑みを浮かべて彼が私を見た。

 とりあえず、言っておけよという雰囲気から逃れられない。

 「う……その、メガクルっつーやつで……」

 ぽそりというと、

 「メガクル!? ってあのメガクルーザー!?」

 男性陣の声が驚いたように重なった。

 「あれだろ? ランクルよりもさらにでかくて、軍でも使われてるような特殊装甲車……」

 目を丸めて私を見る。

 「金持ちっ! つーか、一般に売ってるの!? そんな特殊な車」

 ぴゅーっと宮川君が口笛を吹いた。まず現物すら思い浮かばない浅利ちゃんはまったく想像もつかないようで、沙耶香ちゃんに不思議そうに首を傾げる。

 「すっごいいかつい車だよ」

 沙耶香ちゃんは笑顔で浅利ちゃんに言うけれど、いや、そのね?

 ちょっと待ってください。

 言い訳させてください。

 「当然のことながら、私の一存じゃありませんからっ」

 私はあわてて首を横に振った。「一応そもそも兄の、だから! お兄ちゃんが自分が好きで買ったんだけど、結局取り回しが悪いって言って別のに普段は乗っててね、でも手放すのはいやだからメンテ代わりに私に押し付けていただけなの」

 私が言い訳がましく言うと

 「……まぁね、まず手に入るもんじゃないから手放したくないから妹に乗せておくって言う気持ちは百万歩譲ってわからんでもないけども。そのお兄ちゃん、普段何乗ってるのさ」

 うらやましそうに前田君が尋ねた。

 そ、それも言いにくいなぁ……。

 「軽トラとジムニー……」

 私が言うと皆またしても一瞬で静かになった。そしてため息混じりに

 「なんつー極端な……」

 あきれたように言われた。

 「や、うん、あのね、ジムニーは私のになる予定だったのだけど、納車直前に俺のと交換って言われて」

 ごにょごにょいったら、うちの兄を知る彼はみんなの影で気付かれないように顔を背けて肩を震わせていた。

 「なんか、その車もいろんなパーツがどんどんかわっていってて、見るたびになんかが違うから面白いんだよ」

 沙耶香ちゃんがおかしそうにおっしゃった。

 ……や、もう、お嬢さん、黙っててくれてもいいよ。

 男性たちはうーわーとか顔を見合わせ始めるし、なんかもう、私がうーわーといいたい。

 「で? 走り屋ちっくなって言うのは?」

 さらに高田君に聞かれて肩をすぼめた。

 「そっちは、シルビアですよ。ほら。メガクルがなんか、もう、どうにもこうにも使い勝手悪いし、燃費も悪いし、それで通学なんていうのも駐車場2台分使うからそもそも無理だったし、見かねて父が、職場で部下が乗ってた車を廃車にするからってもらってきてくれて……たまたま、それがちょっとイロイロいじってある車だっただけだよ。もう、こっちに来る時に維持費かさむからって廃車にしたけれど」

 「ふーん? じゃ、メガクルは?」

 「そっちは置いてあるよ。実質おにいちゃんの車だから維持費とか気にしないことにしてるし、……もういい、いい。以上このはなしは終了!」

 私はどうにかこうにか強制終了した。が、今度みんな逆に違うことに興味を持ったらしい。

 「お兄様は何をしてらっしゃるの?」

 聞かれると思った。

 「……今、まだ院生だけど」

 遠い目をしながらいうと前田君と宮川君はかなり驚いたようだった。

 「はぁ!? てゆか、メガクルって1千万超えるだろ? 中古でもまったく値下がりしない話だし、そんな高いのお兄さん買ったの!? お父さんが買うわけ!? 持田ちゃんち金持ち!?」

 みんなに聞かれて、逆に困った。どういえばいいんだ。

 「や、お兄ちゃんは昔から植物を愛してて……その、高校時代からお花や野菜の品種改良とか新製品とかかなり成功してて……そこらへん詳しくはわからないけど、だからそっちで資金があったみたいで。あと、植物を探しに山とか川とか悪路を走るから必然的に四駆がいると言うのもあってキワモノの極みみたいな車を買ったらしいよ? でもとり回しが面倒な場合もあるからジムニーのほうがいいってことになったらしくて。車は田舎はそれこそ一人1台と田んぼ用にどうしても必要だから必然的に台数が増えただけです。以上迷惑をこうむった妹の話でした」

 私はとりあえず説明をして「とにかく行こうよ。時間なくなっちゃうし!」

 みんなを本来の目的に戻した。

 みんなそうだったと車の振り分けを再会する。

 とにもかくにも、免許の都合上、オートマ限定の宮川君と本人の車種希望の沙耶香ちゃん、後免許を持っていない浅利ちゃんも高田君の車に乗る事になった。

 私は

 「シルビアなんて乗ってたら十分運転できるよ」

 と唇とんがらせた前田君に引っ張られて、何でも乗れると言った彼も一緒に乗り込む。

 こっちの車は、やっぱりというか普通一般のドライブにはあまり向かないように思う。

 いやうん。私もそういう車で沙耶香ちゃんをいろいろ引っ張りまわしてドライブしまくってたけどさ。

 しかし前田君が運転している間、後部座席で私は酔う酔う……。

 ちゃんと酔い止めを飲んできていたんだけどね。

 「変わろうか?」

 彼が前田君に申し出てくれて、途中の休憩に入ったインターから日光に向かう間は彼が運転してくれた。

 ものすごく山道だったんだけど、不思議な事に、私はまったく酔わなかった。

 「うまいな」

 前田君が感心したように彼を見て言う。

 「いつ免許取ったんだい?」

 「高3の秋……」

 彼が上手に車を走らせながら言う。

 時々、ルームミラー越しに彼の目と目があった。

 「へぇ。その段階で免許取らしてくれる学校ってそうないけどな。どこの学校だったんだい?」

 人のいい前田君は彼のぶっきらぼうな言い方にも気にせずに接していた。

 だからついつい彼もさらりと答えてしまったらしい。

 「帝都学園だ」

 そう答えた後、ちょっとだけしまったと思ったらしい。

 少しだけ唇が失敗したって言う、そんな事を訴えてた。

 でも前田君はまったく気にしてなくって。

 「ええ!? 帝都ってすごいな!! あんなお金持ち学校の上進学校だなんて、すごすぎる! だいたい帝都ってことは中学からそこだろ?」

 純粋に感心していた。やけくそになったのか、まぁなという彼に前田君はそうかそうかとひとしきり感心して「俺と高田は東雲学園だったんだよねー」そういった。

 東雲かぁ。じゃぁ、お兄ちゃんや従兄弟と同じだなぁ、ってことはお兄ちゃんは学年違うだろうから無理だと思うけど、もしかしていや間違いなく従兄弟のことは知っているだろうな、なんてことを取り留めなく思っていたら、今度は

 「あ、持田さんって確か中学は東京だったって沙耶香ちゃんから聞いたんだけど、まじ!?」

 前田君が急に後部座席に振り返った。

 「へっ? あ、うん。……そうだね……」

 私は頷いた。なぜか私の心臓がバクバクしている。

 「持田ちゃんはどこの学校だったの?」

 前田君はやはり悪気もなさそうに無邪気な少年そのままに私に尋ねた。

 嘘……。

 そこで、それを聞きますか。

  間違いなく今私が帝都って言うのはまずい。あまりに急に問われたものだから他の中学をいいたいのにその名前が出てこなかった。えーと、えーと、こっちに他になんていう中学があったっけ。

 忘れたって言うには……普通中学の名前は忘れないだろうって言う突込みが入るし。

 どう、答えたらいいんだろう……。

 本気で言葉に詰まっていると、

 「なぁ。ついたらしいぞ」

 彼が前を指差した。前を走る高田君の車を現在運転しているのは沙耶香ちゃんだ。

 「お? 湯滝! ここいいよね!」

 前田君は元気に前に向き直った。

 入っていったのは、湯滝。

 文字通りお湯の滝があるらしい。

 「車、いっぱいだなぁ」

 前田君はどうやらそっちに気取られて今私に尋ねた事を忘れたらしい。

 観光客の多い駐車場で、あいている駐車場を探しだした。

 ……ラッキー、というより、この場合は彼に助けられてしまったんだろう。

 

 私達は酒蒸し饅頭を食べながら順路に沿って湯滝に向かう。

 その道中、高田君が首をかしげながら前田君の肩をぽんぽんと叩いた。

 「なぁなぁ。さっき車の中で、持田ちゃんのお兄ちゃんの話に少しなったんだけどさ、名前が昴さんって言うらしいんだ。……持田昴さん、お前、なんか聞き覚えないか?」

 私は先に歩いていたんだけれど、聞こえてくる会話が気になってふと振り返った。そこで二人が私をじっと見ていた。

 「……持田、昴……ああ!!??」

 前田君が私の顔を見て指を刺す。

 人を指差したらいけないって習わなかったのかね、君は?

 「いたいた!! 副会長だよ! 1年ときに3年にいたじゃないか、あのやたら頭良くてきっれーな顔してて、けど麦藁帽子に鍬担いだちょっと変わった感じの園芸部部長っ」

 がくり。私はその場でひざをつきそうになった。

 ……その説明だと完璧にうちの兄貴だと思う、うん。否定しようがないなぁ。

 「ああっ!! うんうん、いたいた!!」

 高田君も思い出したように私を見る。「もしかして、もしかする!?」

 二人に聞かれて私はもう涙目だ。

 逃げ場がない。

 「……だから私、東雲学園いきなくなかったんだぁ……」

 私は沙耶香ちゃんの肩の上でめそめそないた。

 「えー? 来てくれたら同級生だったのに」

 高田君と前田君は心外だなぁという目で私を見たけれど。

 でも、さっきの説明を聞いて誰が兄と同じ学校に行きたいなどと思うか。しかも、卒業しておおかた一昔が来ようとしているのに、接点のない後輩だった人たちにいまだ普通に名前だけで思い出されるくらい印象付けるほど強烈な人だよ? そんなの最悪すぎるじゃないか。

 しかも、同い年にアレがいるんだよ?

 高校も、兄とはできれば違う学校に行きたかったくらいだ。でも仕方ないじゃないか、田舎は学校が少ないのだ。

 「もう、いいじゃん。うちのお兄ちゃんは昔も今も変な人なんだから」

 否定しようがないじゃん。

 私が言うと浅利ちゃんがぽんと私の肩を叩いた。

 「でもすっごい格好いいって聞いたよ? 今度写真見せて」

 目を爛々と輝かせる彼女に私は脱力感を感じた。

 また今度ね、って呟いてとぼとぼ歩き出した。

 気分を一新するようにその名所に立つ。

 「本当にお湯だよ……」

 私は思わず絶句した。

 頬に暖かい湯気が当たる。

 「すごいねぇ」

 皆でしばしその滝を見上げていた。

 自然の神秘だわ……。

 「今度は温泉に来たいね」

 いつのまに後ろにいたのか、高田君が笑っていた。

 「温泉かぁ、いいねぇ」

 前田君と浅利ちゃんがうんうんと頷く。

 「そのときはお酒も飲みたいね」

 見かけによらず日本酒好きの沙耶香ちゃんが嬉しそうに言っていた。

 私達はその近くで昼食を取るとまた日光を目指すことにした。

 また彼が運転してもらおうかって言う事になっていたんだけど、「この上で検問やってるらしいよ」っていう噂を耳にした。

 私はチラッと彼を見た。少し困っているように見える。だろうなぁ。

 「もしよかったら、私も運転してみたいんだけど……いいかな?」

 私は前田君に尋ねた。

 人の車を運転するのは緊張するけれど嫌いではない。違う車に乗るのは楽しくも感じた。ただ、ぶつけないようにという細心の注意は払う。

 「もちろん、いいよ。足回り、硬くはしてないから大丈夫だとは思うけど、踏み込むと危ないから気をつけてね」

 前田君は快く承諾してくれた。

 「ありがとう。市川君も、いいかな?」

 私が彼に尋ねると彼はふっと笑って私の手に鍵を乗せた。

 「サンキュ」

 すれ違いさま小さな声でお礼を言う。

 やっぱり検問は困るよね。免許証、必ずださなきゃいけないから。そうしたら偽名使っているのがばれてしまうだろう。

 私は自分のカバンを近くに置いて運転席に座った。

 しばらく走っていると噂どおり検問をしていた。

 「俺寝たから」

 何を後ろめたいのか前田君が後部座席で上着をかぶって寝たふりをはじめた。

 「俺も」

 助手席で彼もそれにならう。

 「どうぞ。おやすみ」

 私は笑って渋滞の後ろにゆっくりついていった。

 それにしても検問だなんて、こんな人の多いときによくやるなぁ……。私は感心しながら自分の前に来たおまわりさんに挨拶して言われるまま免許証を掲示した。

 幸い、前田君の車は走り屋仕様だけど検問に引っかかる心配はなかったのでよかった。

 「持田、巴さん……ね。この車は君の?」

 尋ねられて、私は後ろで狸寝入りをこいている前田君を指差した。

 「いいえ、彼のです。今は疲れたようなので交代してるんです」

 私がそう言うとおまわりさんは安心したように頷いた。やっぱりこれが女の子の車だとしたら、口にこそ出さないけれど心配なのだろう。覚えがあるある。

 ちなみに、以前地元で検問にあったとき、このシルビアは私の車だと言うと安全運転に心がけるようにとため息交じりに説教されたのは痛い思い出だ。……メガじゃなかっただけましか?

 「ドライブかい? カーブが多いから気をつけていっておいでね」

 とりあえず今日は何の問題もない。おまわりさんはそう言って、快く送り出してくれた。しばらくしてから隣も後ろも眠ったふりを解除する。

 「疲れたら言えよ」

 彼はぶっきらぼうに言った。

 「ありがとう。でもしばらくは大丈夫」

 私は頷いてハンドルを動かした。

 「しかし、持田ちゃんも上手いよね。山道走りなれてる?」

 くねくね道を細かくシフトチェンジしながら順調に上がっていた私に前田君が尋ねた。

 「うん。田舎育ちだからね。あ、でもうちの周りにこんなくねくね道はなかったよ。田舎だけどそこまでひどくはないと……思いたいけど……田舎だなぁ」

 私は言いながらだんだん自信がなくなった。うちの地元は県道ですら全て舗装されたきれいな道路が通っている。ただ、都民からすればかなりの田舎だ。否定しようがない、田舎だ。

 私がトークダウンすると前田君はおかしそうに噴出した。

 「沙耶香といろいろ走ってたって?」

 聞かれて頷いた。沙耶香ちゃんがどこまで話しているかはわからないが、それは事実だ。

 「まぁね、沙耶香ちゃんとはしょっちゅうあちこちにドライブしてた。学生って暇だから」

 私が言うと、前田君がふうんて頷いた。

 「バイトはしてなかったの?」

 「してたよ。家庭教師。基本的にあんまり働きたくなかったから、平日の夜限定で兄弟とか一緒に見てて……6人かな。月9万くらいの稼ぎだった」

 私が言うと、前田君はげげって眉を寄せた。

 「なんか、持田ちゃんって意外の塊だ」

 なにが意外なのかわからない。ただ

 「やっぱ怠け者だな」

 隣の彼にはくつくつと嫌味っぽく笑われた。

 む。

 「バイトしたことない人間に言われたくないですー」

 私が言うと彼は笑った。

 「働いた事がないわけじゃない」

 彼は言ったけど、あーそうでしょうねー。そうでしょうとも。

 「何やってたんだい?」

 おかしそうに前田君が尋ねた。

 聞かないほうがいいよ、前田君。

 庶民の私達が聞いたら悲しくなるからさ。金銭感覚が崩壊している人のお金稼ぎなんて聞くものじゃない。

 「あのね、前田君。このおにーさんはこの美貌を売ってホストしてたんですって」

 私が言うと前田君は一瞬あっけにとられてその後爆笑した。横からは私に鉄拳が飛んできた。

 「バーカ。誰が女に媚びるかよ」

 ええ、そうでしょうとも。

 「冗談だよ」

 私が笑いを抑えながら言うと、

 「あたりまえだ」

 彼も笑いながら頷いた。

 本当に。

 女に媚びる貴方なんて想像もつかないわね。

 戦場ヶ原を越え、中禅寺湖に入っていろは坂のくねくね道を登る。そのまま降りて、日光市に向かった。

 「なんかさ、意外というか、二人って仲いいよね」

 突然前田君がニコニコしたままいった。

 え……?

 私は突然の言葉に固まる。

 何を突然言うのか、このお兄さんは……。

 「同じ職場だからだろ」

 彼が小さく鼻で笑った。

 「うん。そうなんだけど、やっぱ受け答え一つにしても何だか違うように思えるよ」

 前田君は人のよさそうな笑みで私達を見比べた。

 「そう? でも市川君とこんなに話したの……初めてだよ」

 「そうだな」

 私の言葉に彼も頷く。

 うん、再会してからは初めてだ。

 性格とか行動パターンは、昔とそんなに変わってないから、想像つくけど。

 「高田もいい奴なんだけどね」

 前田君はどこか寂しそうに言った。

 「高田君は本当に優しい人だね」

 私が同意するように頷くと、前田君は苦笑いをした。

 それきり前田君はそれ以上言わなかった。

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