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記憶の印  作者:
9/26

8.屋敷

「へぇ……貴方達、旅人なんだ」

 三人は、静かな街中を歩いていた。

 人はいるものの、どんよりとした空気が漂っている。

「なんだか空気が重いわね。事件の所為?」

 フレアが言うと、カーラは悲しげに頷いた。

「そう。もう何十人も殺されてるの。疑心暗鬼になってるのよ」

「それでカーラさんも……」

 エスラルの言葉に、カーラはまた頷く。

「うん。さっきは本当にありがとう」

 わざわざ立ち止まって、ぺこりと頭を下げた。

 顔を上げたカーラは、笑顔でエスラルを見つめる。

「当然の事をしたまでですよ」

 エスラルは照れ笑いを誤魔化すように、空を見上げた。

 そして、一言。

「あー」

 気が抜けたような声に、カーラとフレアが不思議そうな顔をする。

「どうかした?」

「いえ・・・・・・さっき、この町の案内板見たんですが」

 エスラルは困ったようにカーラを見た。

「宿屋が1つも無いな、って」




「この町って、あんまり人が来ないの?」

 フレアはコーヒーのカップを手に持ったまま訊いた。

「そう、だから宿屋が無いの。儲からないから」

「なるほど〜」

 カーラの家は、大きな屋敷だった。

 広い部屋がいくつもあるが、そのほとんどは使われないまま埃をかぶっている。

「というか、良かったんですか?ただで泊めてもらうなんてなんだか気まずいんですが」

 エスラルがスプーンをくるくると回す。

「いいの。此処には私しか住んでないし」

「え?」

 エスラルはスプーンを取り落とした。

 カン、と音を立ててスプーンが床にぶつかる。

「……今、何かとても宜しくないこと考えたでしょ」

 カーラがエスラルを睨んだ。

「いえ、考えてません」

 エスラルは首を何度も横に振って否定する。

「本当に?」

「本当に」

 カーラは溜息を吐くと、自分の淹れたコーヒーを静かに飲んだ。

「親は、死んだの。遺産は結構あったけどね」

 無感情な声。

「あ…えっと……ごめんなさい」

 エスラルは頭を下げた。

 その時、

(あれ?)

 妙な感じが、エスラルの頭に広がった。

「あの、使用人さんとかそういう人も、いないんですか?」

「ええ、いないわよ」

 即座に返事をする、カーラ。

「……」

 エスラルは考え込んだ。

「……どうしたの?」

 カーラの不思議そうな顔が、上向き加減のエスラルの視界に入る。

「いえ、何でもないです」

「そう」

 エスラルの視線は、天井の一点に向いたままだった。

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