8.屋敷
「へぇ……貴方達、旅人なんだ」
三人は、静かな街中を歩いていた。
人はいるものの、どんよりとした空気が漂っている。
「なんだか空気が重いわね。事件の所為?」
フレアが言うと、カーラは悲しげに頷いた。
「そう。もう何十人も殺されてるの。疑心暗鬼になってるのよ」
「それでカーラさんも……」
エスラルの言葉に、カーラはまた頷く。
「うん。さっきは本当にありがとう」
わざわざ立ち止まって、ぺこりと頭を下げた。
顔を上げたカーラは、笑顔でエスラルを見つめる。
「当然の事をしたまでですよ」
エスラルは照れ笑いを誤魔化すように、空を見上げた。
そして、一言。
「あー」
気が抜けたような声に、カーラとフレアが不思議そうな顔をする。
「どうかした?」
「いえ・・・・・・さっき、この町の案内板見たんですが」
エスラルは困ったようにカーラを見た。
「宿屋が1つも無いな、って」
「この町って、あんまり人が来ないの?」
フレアはコーヒーのカップを手に持ったまま訊いた。
「そう、だから宿屋が無いの。儲からないから」
「なるほど〜」
カーラの家は、大きな屋敷だった。
広い部屋がいくつもあるが、そのほとんどは使われないまま埃をかぶっている。
「というか、良かったんですか?ただで泊めてもらうなんてなんだか気まずいんですが」
エスラルがスプーンをくるくると回す。
「いいの。此処には私しか住んでないし」
「え?」
エスラルはスプーンを取り落とした。
カン、と音を立ててスプーンが床にぶつかる。
「……今、何かとても宜しくないこと考えたでしょ」
カーラがエスラルを睨んだ。
「いえ、考えてません」
エスラルは首を何度も横に振って否定する。
「本当に?」
「本当に」
カーラは溜息を吐くと、自分の淹れたコーヒーを静かに飲んだ。
「親は、死んだの。遺産は結構あったけどね」
無感情な声。
「あ…えっと……ごめんなさい」
エスラルは頭を下げた。
その時、
(あれ?)
妙な感じが、エスラルの頭に広がった。
「あの、使用人さんとかそういう人も、いないんですか?」
「ええ、いないわよ」
即座に返事をする、カーラ。
「……」
エスラルは考え込んだ。
「……どうしたの?」
カーラの不思議そうな顔が、上向き加減のエスラルの視界に入る。
「いえ、何でもないです」
「そう」
エスラルの視線は、天井の一点に向いたままだった。