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記憶の印  作者:
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7.救助

「私、魔術は国一って言われるけど、剣術はからきし駄目なの。貴方は?」

「えっと、俺は魔術は全くです。剣術は親に散々教わったんで」

 身長差が30cmほどある二人は、並んで道を歩いていた。

 背の高い方は真新しい灰色のマントの下に質素な黒いドレスを着ていて、首には城の印が入ったペンダントを提げている、まだ20代らしい女性。

 低い方は上等でけれど動きやすい軽装の上に丈夫そうな旅用の茶色いマントを全身に纏った、10代前半の少年。

「そういえば…良かったんですか?城の方に知らせなくて」

 エスラルの言葉に、フレアは溜息を吐く。

「それが、あまり良くないのよ。そのうち連れに来るわ」

「その時は味方します」

「ありがとうね」

 今になって、フレアは毎回脱走していた王子の気分を味わっていた。

(でも、なんだか…楽しい気分)

 王子の死からまだなかなか抜け切れていないはずなのに、フレアは微笑んだ。

「大丈夫です、スタージュさんは渡しません」

 にっこり笑うエスラルの顔はどこか王子を思い出させて、フレアは安心感を覚えた。


「や…止めてください」

 町に入って早々、二人は足を止めた。

 此処は、殺人鬼がいると言われている町。

 若い娘が一人、大柄な男達に取り囲まれていた。

 場は野蛮というよりは険悪な雰囲気に包まれている。

 その雰囲気自体が近寄るなと言っているようで、野次馬はいなかった。

「お前の親父が殺人鬼だろう!」

 一人が怒鳴った。

「娘なんだから、父親の居場所ぐらい知ってるだろ!言え!!」

 そうだそうだ、と声が上がる。

「俺の弟はお前の親父にやられたんだ!」

「俺なんか家族を皆殺しだ!」

 どうやら、殺人鬼の容疑者の娘らしい。

 少女は怯え、震えながら首を振った。

「あの……知りません」

 弱々しい返事に、男達はいきり立った。

「ふざけんじゃねえ!」

「本当は知ってんだろ!吐けよ!」

 憤怒は、次第に殺意へと変化する。

「だったらお前が代わりに死ぬか?ああ!?」

 右手に棍棒を持った男が、それを高く振り上げた。

 だが振り下ろされた棍棒は、次の瞬間すっぱりと切断された。

「あ?」

 其処にいたのは、エスラルだった。

「いくら恨みがあるからって、やり過ぎじゃありません?」

 古びた剣を片手に、少女を庇うように立っている。

「お前、何だ?こいつの知り合いか?」

「いいえ。通りすがりの旅人です」

「じゃあなんで庇うんだ」

 エスラルは答えなかった。

 答えられなかった。

 自分でもよく分からない。

 ただ、助けたくなったのだ。

 同じような光景を、何処かで見た事があるような気がして。

 ある筈の無い記憶が、脳裏を過ぎって。

 助けなければ、と思ったのだ。

「俺が相手になりますよ」

 男達は、一斉にエスラルに向かってきた。

 エスラルはやれやれと首を振り、剣を鞘に収める。

 そして、鞘を持ったまま構えた。

 怒鳴り声が、飛び交う。

 エスラルは素早く、けれど的確に相手の急所を衝いていく。

 剣は鞘のままでも、十分凶器になった。

「凄い……」

 フレアは驚いた様子で、エスラルを見つめている。

 あの歳で、あんな速さは有り得ない筈だった。

 ものの秒で男達を倒したエスラルは、少女に手を差し伸べた。

 相手は、エスラルより少し年上に見える。

「ありがとう」

「どういたしまして。……俺はエスラルです。貴方は?」

「カーラよ、よろしく」

少女の短い茶髪が、風に吹かれて僅かに揺れた。

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