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記憶の印  作者:
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3.夜明け

 爆発音は、遠く離れた城にまで届いていた。轟音が、地面を震わせる。

 クラウスを捜し回っていた捜索隊は嫌な予感を感じて震え上がり、城下の人々は眠たげに瞼を擦りながら何事かと目を覚ました。




「情報が入りました」

 城の下級魔術師のその言葉に、フレアは瞬時に反応した。

「何か分かったの!?」

 魔術師は静かに頷いた。しかし、その顔は暗い。

「城下町でビルが倒壊しました。『アサシン』を始めとする殺人組織が頻繁に出入りしていた、魔法制御建造物です。関係者は制御を無効化できたようですが……それ以外の者は入ることさえもできない、危険な建物でした。ちょうどその付近で捜索を行っていた部隊が、現在調査に当たっています」

 フレアは嫌な予感を覚え、恐る恐る尋ねる。

「では、王子はそこに…………?」

「はい、恐らく。倒壊で剥き出しになった地下への通路が発見されすぐに向かわせましたが、地下11階で途絶えているようです。そこから、王子の物と思われる血液や肉片などが発見されたとのことです」

「それだけなんですか………王子は…………?」

 フレアは唇を噛んだ。少しでもクラウスが生きているという証拠が欲しい、と視線で訴える。

 しかし魔術師は、申し訳なさそうに目を逸らし伏せた。

「特殊な魔封石で造られているらしく瓦礫を移動できないので詳細は不明ですが………爆発は各階で起こり、地下11階の部屋には強力な魔封じがかけられていたようです」

「……………」

「……失礼ですが、スタージュ様は王子が生きておられると思いますか?」

 不謹慎を自覚しつつも、魔術師は尋ねる。そして次の瞬間、後悔した。

「……信じるしかないではありませんか」

 その蒼い瞳には、光さえ灯ってはいなかった。




「夜明けって綺麗だなぁ…………」

 城下町から少し離れた、小高い丘。

 凶暴な獣の出没が相次いでいるため、近寄る者はいなかった。

 血を垂らしながら、クラウスは座って朝陽を眺める。

 クラウスは夜明けの瞬間を見たことがなかった。

 それまでに、フレアに眠らされてしまっていた。

 しかし、そんな生活はもうない。崩れてしまった。

 初めて見る夜明けの太陽のあまりの眩さに、クラウスは目を細めた。

「……うっ」

 同時に肩の痛みを思い出し、クラウスは顔をしかめる。

 今まで興奮状態にあったせいで忘れていた痛みが、今はしっかりと感じられた。

 ちらりと、自分の怪我を確認する。

 左足は無事なものの、右足は原型を留めないほどに潰れ、血が絶え間なく流れ出している。

 両肩は削れ、白い骨が見えていた。

 クラウスは、落ち着いて呪文を唱えた。治癒の呪文は、ずっと前に魔術書で読んでいた。

 欠けた肉が再生し、血の気が戻ってくる。

 痛みも消え元通りになったのを確認し、クラウスは立ち上がった。




 部屋が崩れてゆく中クラウスが唱え終えたのは、解魔封の魔術だった。

 正確には、魔封じを解いたのではない。魔封石に誤認識させたのだ。

 部屋の魔封石には、関係者以外の人間の魔術を吸収する性質があった。

 クラウスはそれを利用し、自分を『アサシン』の人間だという情報を魔封石へ送ったのだ。

 その認識魔術を、クラウスは唱えていた。

 解魔封の方が容易だったにも拘らず。

 解魔封魔術を使っていれば、もっと早く脱出できた。しかしクラウスは、わざわざ認識魔術を使った上、その後しばらくその場に残っていた。

 爆発から身を守る魔術も弱いものしか使わず、故意に怪我を負った。

 それは全て、クラウスが死んだと思わせるため。

 クラウスにとって、城での日常はひどくつまらないものだった。

 フレアと話す時間は楽しいものの、授業の内容は本で読んだものばかり。剣術や魔術も、すぐに使えるので飽きてしまっていた。

 そんな生活から解放されたのだ。

 クラウスは、城に戻るつもりなど毛頭ない。新しいものを求めていた。

 今の彼にすると、まだ見たこともない外の世界。

 世界を見て回ろう、とクラウスは思った。

 死んだふりをすれば、捜し回られることもない。

 心おきなく旅に出られることに、クラウスは歓喜した。

 城に未練はなかった。

(いつか無事で帰ればいいよね。フレアさんとかすごく怒るだろうけど……あれ、喜ぶかな?)

 想像して、クラウスは満面に笑みを浮かべた。

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