21.対峙
「……でも」
エスラルは茶色に変わった瞳で、男を見つめた。
「君のやってることは、絶対間違ってる」
男は俯いて、言葉を吐く。
「そんな台詞は聞き飽きた」
軽蔑を込めて、男はエスラルを睨む。
「仕方なかったんだ」
噛み締めるように、強く言う。
「脅されたんだ。毎月生贄を出さないと、村を破壊するって!村を守るには、やってきた旅人を奴らに渡すしかなかったんだ!他にどうしろって言うんだ!」
「……なるほど」
エスラルは真剣な面持ちで頷いた。
それがどれほどの恐怖だったか、エスラルには分からない。
けれど、エスラルは言った。
「でも、それはやっぱり間違ってる」
淡々と言う。
「何の関係も無い人達を巻き込んでまで守る……そんなの、ただの自己満足です。自分達の問題でしょう?」
「お前には分からない」
「分かりませんよ。そんなの。分かりたくもない」
「……」
男は長い溜息を吐き。
――次の瞬間、顔を強張らせた。
目を見開き、すぐに閉じる。
男は、ゆっくりと崩れ落ちた。
エスラルの目の前で、苦しげに顔を歪ませて。
けれどその表情には、僅かに安堵が表れていた。
どさり、とうつ伏せに林の中に転がる。
倒れた男の首には、鋭利なナイフが突き刺さっていた。
「!」
驚くエスラルの前で、紅い血が池を作り始める。
エスラルは目を細めた。
(人に…刺さっ……?)
見たことがあった。
人間の軟らかい肉に、鋭い刃物が突き刺さっている様子を。
どくどくと流れ出す血が、体を伝って地面を染めていく光景を。
そこに恐怖は無く、ただ愛情と悦びだけが漂っていた。
エスラルはふと安らかな表情になったが、次の瞬間木立を睨んだ。
がさがさと音を立てて、青年が現れる。
「お、失礼」
黒髪の青年は、倒れた男に近寄り、首からナイフを抜いた。
刺さっていたものを一気に引き抜かれ、男はがくんと揺れる。
そして再び、その頭を地面へ打ち付けた。
青年は布を取り出し、ナイフの刃を拭き始める。
血塗れのナイフが、光沢を取り戻した。
「あ……」
突然のことに呆然と、エスラルは呟く。
念入りにナイフを拭く青年を、じっと見つめる。
「ん?」
青年もまた、エスラルを見つめた。
そして、エスラルに向かって自己紹介した。
「あ、どーも。俺、『アサシン』のレシェード・フラジュっす」
体を硬直させたエスラルに、レシェードはふっと笑った。
それはとても、軽快な笑みだった。