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記憶の印  作者:
22/26

21.対峙

「……でも」

 エスラルは茶色に変わった瞳で、男を見つめた。

「君のやってることは、絶対間違ってる」

 男は俯いて、言葉を吐く。

「そんな台詞は聞き飽きた」

 軽蔑を込めて、男はエスラルを睨む。

「仕方なかったんだ」

 噛み締めるように、強く言う。

「脅されたんだ。毎月生贄を出さないと、村を破壊するって!村を守るには、やってきた旅人を奴らに渡すしかなかったんだ!他にどうしろって言うんだ!」

「……なるほど」

 エスラルは真剣な面持ちで頷いた。

 それがどれほどの恐怖だったか、エスラルには分からない。

 けれど、エスラルは言った。

「でも、それはやっぱり間違ってる」

 淡々と言う。

「何の関係も無い人達を巻き込んでまで守る……そんなの、ただの自己満足です。自分達の問題でしょう?」

「お前には分からない」

「分かりませんよ。そんなの。分かりたくもない」

「……」

 男は長い溜息を吐き。

 ――次の瞬間、顔を強張らせた。

 目を見開き、すぐに閉じる。

 男は、ゆっくりと崩れ落ちた。

 エスラルの目の前で、苦しげに顔を歪ませて。

 けれどその表情には、僅かに安堵が表れていた。

 どさり、とうつ伏せに林の中に転がる。

 倒れた男の首には、鋭利なナイフが突き刺さっていた。

「!」

 驚くエスラルの前で、紅い血が池を作り始める。

 エスラルは目を細めた。

(人に…刺さっ……?)

 見たことがあった。

 人間の軟らかい肉に、鋭い刃物が突き刺さっている様子を。

 どくどくと流れ出す血が、体を伝って地面を染めていく光景を。

 そこに恐怖は無く、ただ愛情と(よろこ)びだけが漂っていた。

 エスラルはふと安らかな表情になったが、次の瞬間木立を睨んだ。

 がさがさと音を立てて、青年が現れる。

「お、失礼」

 黒髪の青年は、倒れた男に近寄り、首からナイフを抜いた。

 刺さっていたものを一気に引き抜かれ、男はがくんと揺れる。

 そして再び、その頭を地面へ打ち付けた。

 青年は布を取り出し、ナイフの刃を拭き始める。

 血塗れのナイフが、光沢を取り戻した。

「あ……」

 突然のことに呆然と、エスラルは呟く。

 念入りにナイフを拭く青年を、じっと見つめる。

「ん?」

 青年もまた、エスラルを見つめた。

 そして、エスラルに向かって自己紹介した。

「あ、どーも。俺、『アサシン』のレシェード・フラジュっす」

 体を硬直させたエスラルに、レシェードはふっと笑った。

 それはとても、軽快な笑みだった。

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