19.噂の正体
色々と思うところはあったものの、二人は眠りについていた。
勿論ボロ布は使わず、マントに身を包んで柱にもたれている。
「っ!?」
気配を感じて目を覚ましたエスラルは、体が動かないことに気がついた。
小屋の外では、満月がぼんやりと光を放っている。
雲は無く、快晴の夜だった。
「旅人さん」
小屋の入り口で、声がした。
案内人の、男の声。
エスラルは体を動かそうとするのを諦め、男を睨んだ。
「この村は昔から、飢饉が少なかった。他と比べて、劇的にな」
何を言っているのかと訝しむエスラルをよそに、男は語る。
「日照りが続くことも無ければ、長雨も無かった。何故だか分かるか?」
床を音も無く歩きながら、男はエスラルに近づく。
「俺が、生贄を捧げているからだ」
そのとんでもない言葉に、エスラルは耳を疑った。
「生贄といっても、神様にではないが、まぁある人物にだ」
(……嫌な予感がする)
「だがその方に人間を差し出すと、いつも豊作になるんだ。しかも犠牲になる者が多いほど、その効果は増す。嘘じゃない」
男は一人で喋っている。
「代わりに、捧げなかった時は嵐がやってきて、村は半壊した」
男はエスラルを背負い、立ち上がった。
エスラルはなされるがままに男の背中に乗せられる。
「そして今日が、またあの方の訪れる日なんだ」
エスラルは口さえも動かせず、ただ黙然と地面を睨んでいた。
「はぁ……疲れたな」
ずいぶん苦労したらしい男が、フレアを担いでやってきた。
その額には、薄っすらと汗が浮かんでいる。
村の外れの、林の奥。
真夜中の林は、しんと静まり返っていた。
鈴虫の音だけが、こだまする。
フレアを地面にそっと寝かすと、男はエスラルを見た。
「何か言い残したいことは?」
静かな声で、そう言った。
口だけ自由になったことに気づき、エスラルは口を開く。
「どうやってスタージュさんを?」
「普通にノックして入ったら出迎えてくれた」
(は?)
半ばフレアに呆れ、エスラルは溜息を吐く。
(フレアさん……色んな意味で無防備すぎだよ……)
そして、フレアが気を失っていることに気づく。
「とにかく、スタージュさんを起こしてください」
無理を承知で、言う。
「却下」
予想通り、無理だった。
「そいつはかなりの魔力を放っているからな」
魔力とは、人間が魔術を使う際に消費する力だ。
意識していないと、膨大な魔力は体から漏れ出てしまう。
エスラルは、唇を噛んだ。